【本當の自分】
朝ドラ「おむすび」に就いては、ヒロイン・結の父・聖人は、糸島にゐる自分は本當の自分ではない、と云ふ事を(慥か)妻である愛子に云ひます。永吉に、おまへは本當の農家ではない、と云はれた事を契機に。
現在、同作は結が幼少期だつた頃を思ひ出すと云ふかたちで、ヒロインの幼少期が描かれてゐます。姉の歩は、神戸での親友を失ひ、父である聖人は、神戸での理髪師としての在り方を失ひ、糸島に移住する事になります。
阪神淡路大震災は、人の命や人の暮らし、そして人のアイデンティティをも奪つて行きました。それは役所に記録されてゐる被害状況に關するデータでは知り得ない、名もない人達の、夫々の人生です。朝ドラと云ふ、一見して「明るい」事が求められるジャンルに於て、人間の苦しみや陰をも描く作品としての在り方は、とても誠實だと思ひます。
之から同作は「2007年 再びの神戸」篇が豫定されてゐると云ひます。同じ中年の男として、聖人が自分を取り戻して行くストーリーにも註目したいと私は思ひます。勿論、結のストーリーにも註目して。