2つの異なる地域環境における高齢者の散歩行動の比較分析
—既存市街地と新興住宅地におけるケーススタディー
森一彦、井上昌子、奥田夏子
日本建築学会計画系論文集 (583),53-59,2004-09-30
1、研究の背景と目的
近年、高齢者の身体的な能力低下をサポートするのみでなく、高齢者が主体的に生活できる総合的居住環境、特に高齢者にとって生活の多様性を維持しながら、質的要件を備えた地域環境が求められている。
本研究では、高齢者が日常的な散歩行動において経路や場所を何らかの理由で取捨選択しながら歩いていることに着目し、その散歩行動から地域環境の質的要件を診断するための基本的フレームを検討することを目的としている。
2、既存市街地の散歩行動の特徴
地域内にある様々な場所を巡りながら散歩するのは特徴で、特に店や公園を巡りながら、人との出会いを楽しんでいる人が多い事が特徴的である。地域内の経路は、町を一回りして家に戻る回遊型が多いが、状況に応じて経路を変更する街型であることが特徴的であり、これは地域内のいろいろな場所が体系的に整理されない形で点在している事と関係していると考えられる。
3、新興住宅地の散歩行動の特徴
緑道を中心に経路が展開されることが特徴的で、公園や地区センターを目標に行き、同じ経路を戻ってくる往復型と、公園まで行きそこを大きく回ってから同じ経路を戻ってくる往復一回遊型が多くなっている。緑道沿いに団地、駅などがあるが、それらは単に目印であり、知っているが散歩で立ち寄るなど行動には結び付いてはいない。
4、まとめ
高齢者の一部の状況であるが、高齢者が地域環境から経路や場所を選択している事、さらに選択される場所の種類や経路の構成が地域環境によって相違があることが明らかになった。特に共通して選択される場所や経路を把握し相互比較できることが確認できた。今回の調査の中で、選択のされ方が地域環境の質的状況の一端を示している。結果的として散歩行動での場所・経路の選択のされ方から2つの地域環境の質的状況が異なる事が示され、散歩行動調査による場所・経路が地域環境の質的な診断の材料になる事が確認された。
今後の課題として、散歩行動における場所・経路の選択要因を詳細にかつ体系的に分析することで、質的要件との関連性を明らかにしたい。
5、感想など
地域環境によって高齢者の行動パターンが変わり、それが自然に身に付いていることを知り、高齢者だけでなく人にとって地域環境は深く関係している事を改めて思い知らされた。
私は高齢者の多様な外出行動とどのように地域環境を関連づけていくか、そしてより質的要件を備えた地域環境のありかたを考えていきたい。
(秋山慶斗)
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