居眠りバクの音楽回想

チェンバリスト井上裕子の音楽エッセイブログ。

言葉と音をつなぐもの

2010-11-15 00:35:24 | 言葉
月夜の浜辺

月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。

それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが
なぜだかそれを捨てるに忍びず
僕はそれを、袂(たもと)に入れた。

月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。

それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが
   月に向つてそれは抛(はふ)れず
   浪に向つてそれは抛れず
僕はそれを、袂に入れた。

月夜の晩に、拾つたボタンは
指先に沁(し)み、心に沁みた。

月夜の晩に、拾つたボタンは
どうしてそれが、捨てられようか?

 ~中原中也「在りし日の歌 ~亡き文也の霊に捧ぐ~」より~

懐かしい詩です。
学生のころ、この詩集による合唱曲を演奏しました。
作曲家本人の指揮でした。
今でも、中原中也を読むと、彼の音楽が蘇ってきます。
言葉と音楽を結ぶものは、作曲家です。
でも、思い出も歌と音楽をつないでいます。

先生、お元気かな。
現在は、バッハの研究者としてもご活躍です。