ささやんの天邪鬼 ほぼ隔日刊

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

2024年問題をふり返る

2024-12-27 09:11:39 | 日記
最近、通販大手のアマゾンに遅配が目立つようになった。
以前ならウイスキーは注文した翌日に届いたものだが、先日はそれが1週間もかかった。このときは幸い、部屋の片隅にころがっていた焼酎のペットボトルを見つけ、事なきを得たが、「アマゾンは信頼できない」とつくづく思わされた出来事だった。遅配による不便は、ウイスキーだけでなく、ラーメンや衣類でも味わったことがある。

遅配の原因は、アマゾンの不手際ではない。それはわかっている。いわゆる「2024年問題」の余波なのだろう。ネットには次のような説明がある。

2024年問題とは、働き方改革法案に基づき、2024年4月以降にトラックドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に制限されることで発生する問題の総称です。この問題により、ドライバーの労働時間が短くなることで輸送能力が不足し、次のような影響が懸念されています。

ふむふむ。トラックドライバーの時間外労働が制限されれば、実働ドライバーが不足する事態が生じ、それが遅配につながるのは、見やすい道理である。

私は「トラックドライバーの時間外労働の規制措置」に文句を言うつもりはない。おそらくトラックドライバーたちは長時間労働を強いられ、肉体的にも精神的にもアップアップの状態なのだろう。そういう労働環境を改善することは、トラックドライバーの待遇改善につながり、また過労による事故も減らせるのだから、まさに一石二鳥であり、何も言うことはない。

それはよくわかっている。頭ではわかっているのだが、ちょっと不便を味わわされると、ついぶつくさアマゾンに文句を言いたくなる、この私の気持ちを如何ともしがたいのも、事実である。
それほど(これまでの)アマゾンの迅速な配送システムに慣れきってしまっている私なのである。
便利(コンビニエント)な生活は、不便をいっそう強く感じさせる。

そんな私だから、NHKの番組「時をかけるテレビ」を興味深く見た。「トラック・列島3万キロ 時間を追う男たち」というのが、先日のふれこみだった。

私はドラマだけでなく、ドキュメンタリー番組もよく見る。想像力を働かせ、ドキュメンタリーの主人公に身をおくことで、「もう一人の自分」を味わうことができるからである。「もう一つの人生」を追体験できるといってもいい。

しかし、この番組の場合、私は、主人公のトラックドライバーに身をおく気にはなれなかった。池上彰氏がMCをつとめるこのドキュメンタリー番組は、20年ほど前に放映された番組の再放送なのだが、その当時のトラックドライバーの労働環境は、驚くほど過酷なのだ。
荷物の配達がちょっと遅れれば、荷主からクレームが出て、有無を言わせず契約を打ち切られる。そういう事態を避けようと思えば、中小の運送会社に雇われたトラックドライバーは、「このまま眠ってしまいたい」と思うほどの睡魔に襲われながらも、やっとの思いでこれを振り切り、昼夜をかけて長崎〜東京の往復という長距離を運転しなければならないのだ。アクセル・ペダルを踏む右足の太ももが痺れて感覚がなくなってくるという。

私は若い頃、大学の「助手」(今の言葉でいえば助教)という、教員ヒエラルキーの最下層の身分だったことがある。性格的に歪みきったボス猿・エテ公並みの教授たちから虫けら同然の扱いをされ、「あの野郎、ぶっ殺してやりたい」と思うこともしばしばだった。
だが、そんな苦節が「ちょろい」と思えてくるほど、トラックドライバーたちの労働環境は過酷だった。トラックドライバーの苦労は助手の苦労に比べれば何倍も重たい。
この番組を見て、私は「ああ、大学の助手でいられて、よかった」とは思わなかった。「助手なんか辞めて、トラックドライバーになればよかった」とも思えなかった。

大学助手の身分もトラックドライバーの労働環境も、非人間的であることに変わりはない。だが、その「非人間性」の重みが違う、といえるだろう。

それから20年がたった今、「働き方改革法案」によってトラックドライバーの労働環境はかなり改善されたというが、それも20年前の、あまりにも非人間的な彼らの労働環境が見過ごせなかったからだろう。霞が関の官僚や政治家にも、それなりに血や涙はあるということである。ドライバーの過労による交通事故の多発問題が見過ごせなかった、というだけなのかもしれないが。

アマゾンの遅配に悩まされながら、私は、大学助手だった40年前の自分を思い出している。
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