きょうはきのうに引き続き、言論サイト「日刊ゲンダイDIGITAL」に掲載された記事《山田昌弘氏に聞く少子化対策“失敗の本質”「最大の原因は未婚化。低収入の男性は選ばれない」》を取りあげる。
2回目のきょうは、その後半部分における山田昌弘氏(社会学者・中大文学部教授)の発言を紹介する。後半部分には、インタビューの進行役である「日刊ゲンダイ」編集部の発言が入るが、これもなかなかウイットに富んでいるので、この部分も同時に紹介することにしよう。
まずは繰り返しになるが、このインタビュー記事に関する編集部の趣旨説明から。
「『異次元の少子化対策に挑戦する』──岸田首相がそう宣言してから2カ月。昨年の出生数が政府予測より8年早く80万人を切るのが確実となり、慌てて対策に乗り出したものの、具体策は先送り。予算倍増の財源もごまかす無責任だ。そもそも従来の対策に何が足りなかったのか。『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』の著書がある社会学者に『失敗の本質』を聞いた。」
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(Q:編集部)「未婚化が進んでいる理由はどう考えていますか?」
極めて単純です。収入の低い、あるいは不安定な男性は子育てパートナーとして選ばれにくい。それに尽きます。
(編集部)「政府関係の研究会で、そう指摘すると、政府のある高官から『私の立場で同じことを言ったら、クビが飛んでしまう』と言われたそうですね。」
1990年代後半のことです。その逸話を昨年、経団連で披露すると、講演概要がHPにアップされた途端、クレームが来たそうです。皆、実感しているのに、公で発表したり論じたりするのは、ずっとタブー視されてきました。誰もが「格差」を認めたがらない。
(編集部)「現実を直視した対策を打ち出せないわけです。」
若年男性の収入低下と格差拡大は、ここ数年で顕著になったわけではない。バブル崩壊以降、30年も続いています。
(編集部)「50歳時点で一度も結婚経験のない人の割合である『生涯未婚率』は、80年の男性2.60%、女性4.45%から、2020年は男性28.25%、女性17.81%。男性の増加率の方が圧倒的に高い。」
それは、収入のある男性が2度3度と初婚の女性と結婚するからです。女性の場合は離婚後の再婚率は男性に比べ低い。50歳で独身、配偶者のいない人の数は男女で大差ありません。
(編集部)「選ばれる男性は何度も結婚できるとは・・・。ますます格差を実感します。」
結婚相手に平均収入を求めるのは普通の望みでしょう。ただ「平均」とは、それ以下の人が半分はいるということです。
となると、決して高望みではなくとも半分しか結婚できなくなる。
ましてや、日本の未婚者は親との同居率が非常に高い。未婚女性の8割近くが親と住んでいます。自分の収入が低くても親に面倒を見てもらえれば、それなりの生活水準を保てる。だから、今の暮らしを手放しにくいのです。
(編集部)「日本は“嫁入り前の娘が親元で暮らすのを肯定する”文化ですものね。」
収入の低い男性との結婚を親が潰すケースもあります。
(編集部)「『少子化の最大の理由は晩婚化』『出産時の女性の年齢が高齢化している』と言った政治家もいました。今や『晩婚』ならまだマシ。現実を直視していない発言です。」
人口学者でも90年代の主流は「独身を楽しみたいから結婚を遅らせており、いずれ結婚するはず」との判断でした。つまり、結婚は「しようと思えば誰でもできる」と判断していたのです。そんな楽観ムードが今も政府内に残っているのかもしれません。結婚したら経済的に苦しくなるのが未婚化の理由なのに、それが見えていないのです。
(編集部)「恋愛自体を『コスパ(コストパフォーマンス)が悪い』と面倒くさがる若者も増えているようです。草食化を通り越して、絶食化する中、政府はもっと縁結びの世話を焼くべきなのでしょうか。」
少なくとも、結婚後に親元を離れても生活水準が下がらないようにする支援は必要でしょう。ただ、予算「倍増」では経済格差の解消には不十分です。ハンガリーみたいにGDPの5%くらいを少子化対策に費やさないと子どもは増えないでしょうね。
(編集部)「日本でいえばGDP5%は約25兆円ですが。」
岸田首相もたぶん「異次元」と言ったのを後悔していますよ。「次元が異なる」と言い換えましたが、よほどのことをやらないと若い世代をガッカリさせるだけです。
でも、増税は政治家や官僚は誰も言いたがらないし、国民も反発するから、増税とは行かず、25兆円は捻出できません。
このままだと、だんだん社会保障の水準が低下し、みんな一緒に少しずつ貧しくなっていく社会になります。
(編集部)「少子化対策は効果が出るまで20~30年かかるといわれていますが。」
だから政治家も官僚も今まで本気にならなかったのです。政治家にすれば票にもカネにもならないし、官僚は得点にならないですからね。
国民も「今が何とかなっていれば」という刹那主義の考え方で、問題を先送りしてきた。そのツケが今、回ってきたのです。
(編集部)「30年後には団塊ジュニア世代も後期高齢者。少子化対策に加え、孤立化社会への備えも僕たち団塊ジュニア世代には切実な問題です。」
4分の1の人たちが結婚できない状況が続けば、孤立する高齢者も増える。かなり裕福でなければ現行水準の介護は受けられなくなる。これは確実に予測できます。移民だって来てくれるかどうか分かりません。今も正看護師の資格を持って豪州の介護施設で働くと、日本の3倍以上の収入を得られます。日本で働くのはバカらしいという人が、どんどん増えていきますよ。
(編集部)「『過ぎた時間は戻らない』を痛感します。」
結婚できず、十分な介護も受けられず死んでいく。そうした人が何百万とあふれる社会になりますね。それも自己責任だと言う人も増えているんじゃないですか。私にすれば「寂しい未来」ですけど、国民が選択した結果であれば仕方ないでしょう。
(編集部)「達観されていますね。」
30年前からほとんど同じ提言を訴えてきましたけど、さすがに私も疲れました。もう、私も65歳です。自分の予言が30年後に的中するかどうかは見届けられないでしょう。
ただ、今も「結婚したい、子どもを産み育てたい」と望む若者の方が圧倒的に多いのが救いです。彼らの希望をかなえる社会をつくらなければ、日本社会は根本から崩れます。
だからこそ、少子化の原因である未婚をくい止めることが大事なのです。日本社会を崩壊させないためにも、それが急務なのです。
2回目のきょうは、その後半部分における山田昌弘氏(社会学者・中大文学部教授)の発言を紹介する。後半部分には、インタビューの進行役である「日刊ゲンダイ」編集部の発言が入るが、これもなかなかウイットに富んでいるので、この部分も同時に紹介することにしよう。
まずは繰り返しになるが、このインタビュー記事に関する編集部の趣旨説明から。
「『異次元の少子化対策に挑戦する』──岸田首相がそう宣言してから2カ月。昨年の出生数が政府予測より8年早く80万人を切るのが確実となり、慌てて対策に乗り出したものの、具体策は先送り。予算倍増の財源もごまかす無責任だ。そもそも従来の対策に何が足りなかったのか。『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』の著書がある社会学者に『失敗の本質』を聞いた。」
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(Q:編集部)「未婚化が進んでいる理由はどう考えていますか?」
極めて単純です。収入の低い、あるいは不安定な男性は子育てパートナーとして選ばれにくい。それに尽きます。
(編集部)「政府関係の研究会で、そう指摘すると、政府のある高官から『私の立場で同じことを言ったら、クビが飛んでしまう』と言われたそうですね。」
1990年代後半のことです。その逸話を昨年、経団連で披露すると、講演概要がHPにアップされた途端、クレームが来たそうです。皆、実感しているのに、公で発表したり論じたりするのは、ずっとタブー視されてきました。誰もが「格差」を認めたがらない。
(編集部)「現実を直視した対策を打ち出せないわけです。」
若年男性の収入低下と格差拡大は、ここ数年で顕著になったわけではない。バブル崩壊以降、30年も続いています。
(編集部)「50歳時点で一度も結婚経験のない人の割合である『生涯未婚率』は、80年の男性2.60%、女性4.45%から、2020年は男性28.25%、女性17.81%。男性の増加率の方が圧倒的に高い。」
それは、収入のある男性が2度3度と初婚の女性と結婚するからです。女性の場合は離婚後の再婚率は男性に比べ低い。50歳で独身、配偶者のいない人の数は男女で大差ありません。
(編集部)「選ばれる男性は何度も結婚できるとは・・・。ますます格差を実感します。」
結婚相手に平均収入を求めるのは普通の望みでしょう。ただ「平均」とは、それ以下の人が半分はいるということです。
となると、決して高望みではなくとも半分しか結婚できなくなる。
ましてや、日本の未婚者は親との同居率が非常に高い。未婚女性の8割近くが親と住んでいます。自分の収入が低くても親に面倒を見てもらえれば、それなりの生活水準を保てる。だから、今の暮らしを手放しにくいのです。
(編集部)「日本は“嫁入り前の娘が親元で暮らすのを肯定する”文化ですものね。」
収入の低い男性との結婚を親が潰すケースもあります。
(編集部)「『少子化の最大の理由は晩婚化』『出産時の女性の年齢が高齢化している』と言った政治家もいました。今や『晩婚』ならまだマシ。現実を直視していない発言です。」
人口学者でも90年代の主流は「独身を楽しみたいから結婚を遅らせており、いずれ結婚するはず」との判断でした。つまり、結婚は「しようと思えば誰でもできる」と判断していたのです。そんな楽観ムードが今も政府内に残っているのかもしれません。結婚したら経済的に苦しくなるのが未婚化の理由なのに、それが見えていないのです。
(編集部)「恋愛自体を『コスパ(コストパフォーマンス)が悪い』と面倒くさがる若者も増えているようです。草食化を通り越して、絶食化する中、政府はもっと縁結びの世話を焼くべきなのでしょうか。」
少なくとも、結婚後に親元を離れても生活水準が下がらないようにする支援は必要でしょう。ただ、予算「倍増」では経済格差の解消には不十分です。ハンガリーみたいにGDPの5%くらいを少子化対策に費やさないと子どもは増えないでしょうね。
(編集部)「日本でいえばGDP5%は約25兆円ですが。」
岸田首相もたぶん「異次元」と言ったのを後悔していますよ。「次元が異なる」と言い換えましたが、よほどのことをやらないと若い世代をガッカリさせるだけです。
でも、増税は政治家や官僚は誰も言いたがらないし、国民も反発するから、増税とは行かず、25兆円は捻出できません。
このままだと、だんだん社会保障の水準が低下し、みんな一緒に少しずつ貧しくなっていく社会になります。
(編集部)「少子化対策は効果が出るまで20~30年かかるといわれていますが。」
だから政治家も官僚も今まで本気にならなかったのです。政治家にすれば票にもカネにもならないし、官僚は得点にならないですからね。
国民も「今が何とかなっていれば」という刹那主義の考え方で、問題を先送りしてきた。そのツケが今、回ってきたのです。
(編集部)「30年後には団塊ジュニア世代も後期高齢者。少子化対策に加え、孤立化社会への備えも僕たち団塊ジュニア世代には切実な問題です。」
4分の1の人たちが結婚できない状況が続けば、孤立する高齢者も増える。かなり裕福でなければ現行水準の介護は受けられなくなる。これは確実に予測できます。移民だって来てくれるかどうか分かりません。今も正看護師の資格を持って豪州の介護施設で働くと、日本の3倍以上の収入を得られます。日本で働くのはバカらしいという人が、どんどん増えていきますよ。
(編集部)「『過ぎた時間は戻らない』を痛感します。」
結婚できず、十分な介護も受けられず死んでいく。そうした人が何百万とあふれる社会になりますね。それも自己責任だと言う人も増えているんじゃないですか。私にすれば「寂しい未来」ですけど、国民が選択した結果であれば仕方ないでしょう。
(編集部)「達観されていますね。」
30年前からほとんど同じ提言を訴えてきましたけど、さすがに私も疲れました。もう、私も65歳です。自分の予言が30年後に的中するかどうかは見届けられないでしょう。
ただ、今も「結婚したい、子どもを産み育てたい」と望む若者の方が圧倒的に多いのが救いです。彼らの希望をかなえる社会をつくらなければ、日本社会は根本から崩れます。
だからこそ、少子化の原因である未婚をくい止めることが大事なのです。日本社会を崩壊させないためにも、それが急務なのです。
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