妄想ジャンキー。202x

人生はネタだらけ、と書き続けてはや20年以上が経ちました。

青海川駅にて

2007-07-17 10:23:48 | 日記

その年の家族旅行のキャンプは、新潟県青海川駅にほど近いキャンプ場でした。
駅からすぐ、鉄橋下のキャンプ場で野営しました。
父の同僚の家族との合同キャンプ、子供同士すぐ打ち解けたのをよく覚えています。

高野さんちの忠志君は中学2年生。
年子の弟、正志君は中学1年生。
岡部さんちの統君は私と同い年の小学5年生。
その妹の裕美ちゃんは小学1年生。
私は長女で、よくも悪くも長女らしい育ち方をしたので、兄が出来たみたいですんごく嬉しかった。
弟も同性の兄貴、妹もカワイイ友達が出来たようで、とにかくはしゃいでいたのをよく覚えています。

二泊三日の初日、お父さんはテントの設営を終えるなり早速ビールを浴びていた。
お母さんたちは炊事場で夕飯の野菜を支度しながら、子育て談義。
子供7人はひとつに固まって、林の中でのかくれんぼ、木登り、ドッヂボールなんかを一通り終えて、偶然みつけた廃墟で秘密基地を作っていた。
「大人たちには内緒だよ」
濡れ雑巾の罠をこしらえて、子供にしか通れない穴を開けて。
そんな解放区。

悪ガキ度ぶっちぎりの1位な修君が、どこからか消火器を持ってきたのがはじまりでした。
統君、忠志君、正志君とそれから弟の宏樹。
男連中が中心となって、『解放区』の入り口に消火器2本をしかける。
「大人は立ち入り禁止」

私や妹の南、裕美ちゃんはそれぞれのテントからソフトドリンクやスナック菓子の類を盗み出す。
大人たちばかりずるいよね。
バレたら大変なことになるなあと判ってはいたけど、冒険心はひたすらに強かった。

解放区が完成して、みんなでお菓子を食べていた頃。
お父さんもお母さんも全然気付いていない。

統君が消火器のセットをチェックする。
「いざというときのために栓外しとこうぜ」
「どうやってはずすの?」
「この黄色のを――」
統君が消火器の栓を引っ張った途端――白い煙、悲鳴。

「なんだこれ!どうやったら止まるんだよ!!」

叫び声がやたらと響いた。
逃げ回る誰かが濡れ雑巾で転ぶ。
天井にセットしたバケツが、妹の頭上に落下する。

「いたぁぁい!バケツ落ちてきた!」

電球をぶらさげていた紐はグルグルと回り、凶器。
拾ってきた木の板で作ったドミノが1階、ロフトとかけまわり、忠志君を直撃。

「いってえ!!誰だよんなとこにドミノ作ったの!」
「お兄ちゃんでしょ!」

頭を伏せながら叫ぶ正志君。
暴れていた消火器と統君の動きが緩やかになったとき、視界が少しずつ見えてきた。
まだグルグル回る電球の下で、消火器の粉を浴びて真っ白になった7人。
おかしは弟が死守していた。
自分は真っ白なのに、ポテトチップスの入った袋だけがやけに綺麗だった。

「……」
「あーあ」
「消火器なんて拾ってくるんじゃなかったな」

口々にぼやきだす男性陣。
妹はまだ痛そうにしていたけれど泣いてはいなかった。

「ひーちゃんも裕美も雪だるまみたいだね」
「ほんとだ、雪だるまみたい」
「忠志ちゃんもマサシも、ヒロキもムーちゃんも、南ちゃんもみんなみんな雪だるまだね」

大惨事が起きたはずなのに、ケロリと笑っている裕美ちゃん。
なんか私もどうでもよくなってきた。
みんなとりあえず笑った。

「どうしよっか」

それから持ち込んだお菓子やペットボトルを手にテントに帰っていった。
真夏なのに雪だるまな子供たちをみて親はまず驚いて、それから廃墟で消火器をぶちまけたことを知ると呆れて、それからやっと叱った。
高野のおじさんは特にすんごく怒鳴って、忠志君と正志君はもちろん、他の5人やその両親もちぢこまっていた。
そのせいか私たち兄弟や主犯の統君兄弟なんかはあまり怒られずに済んだんだけど、夜の花火のとき高野兄弟の2人が
「なんでぇ俺らだけぇ」
と笑いながら愚痴っていた。


青海川駅に行ったのは翌日。
昼間は柏崎の海産物センターまで海鮮丼を食べに行って、近くにあるアスレチック広場で健全な遊びをしていた。
この日も統君はやっぱりトラブルメイカーで、網の山の頂上まで一人登ったはいいけれど降りれなくなっていた。

夕刻。
青海川駅。
テントへは歩いて戻れる距離だからと大人たちは先に戻った。
もちろん昨日の例があるから最年長の忠志君はかなり念を押されていたようだ。
ドサッと降ろされた子供たちは駅舎に入ったり、時々線路に降りたりなんかして思い思いに楽しんでいた。
「みてみてー、ノートがあるよ」
「あっほんとだ」
やっぱりガキ大将、統君がまず書き出す。
『岡部統、ここに見参』
「誰だかわかんねーよ」
「いいんだよ、俺がいつか超有名人になったらプレミアつくぜ、このノート」
「またお兄ちゃん変なこと言ってる」
「みんな旅の一言書いてるんだねえ」
「へぇー1984年5月って、俺と一緒だ」
忠志君がサラサラとみんなの名前を書いていく。
「名前だけぇ?」
「雪だるま書こうよ」
また裕美ちゃんが雪だるまと言う。
「それいいな」
「消火器の絵も」
「解放区ってかいといて」
「なんで俺らだけってのも」
みんなのリクエストをきいた忠志君はケラケラ笑いながら描いた。
旅人ノートの1ページは、解放区。
大人には内緒だよ――。


「ねえ見て!夕日すごい!」
駅舎の外へ出る。
赤いだるまが海へ落ちてゆく。
青は赤へ。
光は沈む。
眩しいけれど、瞬きはしてはいけない。
見逃したらいけない。
「――あ」
「沈んだっ」
「俺沈んだ瞬間見たぜー」
束の間の静寂を統君がドラ声でやぶった。
空は先刻とあまり変わらない明るさ。
「俺もみたー」
「南だってみたもん」
「私だって」
「俺もみたってば」

7人笑いころげながら、家路につく。
長い影は前方に伸びる。
すぐにお父さんとお母さんの賑やかな声が聞こえた。
明日にはみんな帰るのが信じられないくらいに、明日も明後日もずっと一緒にいるんじゃないか、そう思えた。




あれから忠志君は警察官に、正志君は大学院へ進学、私と統君は大学4年になった。
弟ももうすぐ二十歳、裕美ちゃんはイギリスに留学してるし、妹は大学受験に熱が入っている。
あれから10年以上が経って、幼い頃の思い出を確かめたく思った。
雪だるまだった頃。





もうあの夕日は見られないのだろう。
あの駅はもう知ってる姿ではないことを知ったとき、少なからずショックをうけた。
思い出が音をたててひしゃげていたニュース映像。
非現実的な土の色。

それでもまたいつか、青海川で夕日を見たいと思っている。

被災地を心から見舞うと共に迅速な復興を望みます。



草々
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