羽田空港にきています。
別にどこに旅立つわけじゃないんですが、就活のついでで来ました。
小雨舞う展望デッキで飛行機の離着陸を眺めていると、時間があっという間に過ぎていく。
がんばれ、飛べ、がんばれ、飛ぶんだ――空へ。
初めて1人で飛行機に乗ったのは6歳のとき。
羽田の手荷物検査場から那覇空港の到着ゲートまで。
1人旅のような、初めての長いおつかいのような。
まだ20世紀で、平成になって間もなかった頃。
お気に入りのニコニコプンのリュックを背負って、スチュワーデスのお姉さんに手をひかれていた。
ゲートを振りかえっても振りかえってお母さんは心配そうに立っていて、私もいつまでも笑いながら手を振っていた。
実際のところ飛行機は生まれる前から何度も乗っていたから別に恐くなんかなくて、むしろおじいんちに里帰りして海行ったりいとこと遊んだりすることよりも、飛行機に乗ることのほうが楽しみだった。
「ひーちゃんね、ひこーきの中でご本よむの」
「偉いねえ、何の本読むの?」
「ないしょっ」
エスカレーターはおろかエレベーターさえあまりない土地だけは広い田舎で育っていたものだから、横長エスカレーターや所狭しと並んだゲート番号は新鮮でしかたなかった。
機内でも私は宣言通り本を開いていて、離陸時の轟音に泣き出す隣の男の子を横目でみては、次にスチュワーデスに目を合わせて小さく笑っていた。
「ひーちゃんえらいでしょ、なかないもん」
那覇までの2時間半の半分は眠っていて、気付いたら手荷物検査場から一緒のスチュワーデスが起こしてきた。
「もうすぐおじいちゃんち着くよ」
「ほんと?」
本当だった。窓に張り付いて下を眺めてみると美しい沖縄の海が広がっていた。
目を凝らすと、那覇の市街もみえた。
それからすぐに着陸して、私はまたお気に入りのリュックを背負ってスチュワーデスに手をひかれて到着ゲートへ向かった。
荷物は預けておらず、お母さんが数日遅れでやってくるのでそのときに一緒に持ってきてもらう予定だった。
到着ゲートでは群衆の中に祖父母や親戚が待っていて、それを確認するなり
「おじいちゃん」
と飛込んだ。お世話になったスチュワーデスにお礼を言って、私はおじいちゃんとおばあちゃんと両手を繋いで歩いていった。
まだ新装する前の那覇空港は、すぐ目の前にヤシの並木と夏の空が広がっていた。
自動扉が開いた途端に肺に滑り込む蒸し暑い空気を飲み込んで、私は背後を飛び去る飛行機に手をふった。
あれからもう何年も経って、飛行機にもだいぶ乗った。
羽田空港の展望デッキに来たのは最近では去年9月の北海道ゼミ合宿のとき。
それから何回か北は北海道から南は九州沖縄まで搭乗する機会はあったけれど、どれも時間はギリギリだったのですぐゲートに向かっていた。
ビッグバード。
大きな鳥。
「羽ばたけ」
少し笑って、小さく呟いた。
走り出せ、明日へと――
別にどこに旅立つわけじゃないんですが、就活のついでで来ました。
小雨舞う展望デッキで飛行機の離着陸を眺めていると、時間があっという間に過ぎていく。
がんばれ、飛べ、がんばれ、飛ぶんだ――空へ。
初めて1人で飛行機に乗ったのは6歳のとき。
羽田の手荷物検査場から那覇空港の到着ゲートまで。
1人旅のような、初めての長いおつかいのような。
まだ20世紀で、平成になって間もなかった頃。
お気に入りのニコニコプンのリュックを背負って、スチュワーデスのお姉さんに手をひかれていた。
ゲートを振りかえっても振りかえってお母さんは心配そうに立っていて、私もいつまでも笑いながら手を振っていた。
実際のところ飛行機は生まれる前から何度も乗っていたから別に恐くなんかなくて、むしろおじいんちに里帰りして海行ったりいとこと遊んだりすることよりも、飛行機に乗ることのほうが楽しみだった。
「ひーちゃんね、ひこーきの中でご本よむの」
「偉いねえ、何の本読むの?」
「ないしょっ」
エスカレーターはおろかエレベーターさえあまりない土地だけは広い田舎で育っていたものだから、横長エスカレーターや所狭しと並んだゲート番号は新鮮でしかたなかった。
機内でも私は宣言通り本を開いていて、離陸時の轟音に泣き出す隣の男の子を横目でみては、次にスチュワーデスに目を合わせて小さく笑っていた。
「ひーちゃんえらいでしょ、なかないもん」
那覇までの2時間半の半分は眠っていて、気付いたら手荷物検査場から一緒のスチュワーデスが起こしてきた。
「もうすぐおじいちゃんち着くよ」
「ほんと?」
本当だった。窓に張り付いて下を眺めてみると美しい沖縄の海が広がっていた。
目を凝らすと、那覇の市街もみえた。
それからすぐに着陸して、私はまたお気に入りのリュックを背負ってスチュワーデスに手をひかれて到着ゲートへ向かった。
荷物は預けておらず、お母さんが数日遅れでやってくるのでそのときに一緒に持ってきてもらう予定だった。
到着ゲートでは群衆の中に祖父母や親戚が待っていて、それを確認するなり
「おじいちゃん」
と飛込んだ。お世話になったスチュワーデスにお礼を言って、私はおじいちゃんとおばあちゃんと両手を繋いで歩いていった。
まだ新装する前の那覇空港は、すぐ目の前にヤシの並木と夏の空が広がっていた。
自動扉が開いた途端に肺に滑り込む蒸し暑い空気を飲み込んで、私は背後を飛び去る飛行機に手をふった。
あれからもう何年も経って、飛行機にもだいぶ乗った。
羽田空港の展望デッキに来たのは最近では去年9月の北海道ゼミ合宿のとき。
それから何回か北は北海道から南は九州沖縄まで搭乗する機会はあったけれど、どれも時間はギリギリだったのですぐゲートに向かっていた。
ビッグバード。
大きな鳥。
「羽ばたけ」
少し笑って、小さく呟いた。
走り出せ、明日へと――
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