宮澤賢治『雨ニモマケズ』の碑文は、あたかも添削されたように追刻されている。そのいきさつは、次のようなものであるという。
(追刻部分の一部:「松ノ」「ボー」)
先日訪れた『桜 地人館』(花巻市)で入手した『雨ニモマケズ詩碑の由来』(著:高村記念会会長 佐藤進)に紹介されていた。以下は、その中から概要を転載。
・賢治を敬愛する人々によって詩碑が建立されたのは、賢治死後3年が経った昭和11年(1936年)
・碑は、議論の末に、御影石にブロンズ板をはめ込む形のものではなく、宮城県石巻産の稲井石に直接詩を刻むもので決定。
・詩の選定・・・盛岡の賢治の会の主張は、「業の花びら」。このとき、賢治の父 政次郎さんから、手帳に書き付けてあった「雨ニモマケズ」が良いと提案があった。しかし、詩があまりに長文のため、碑に刻みようがないのではという意見もあったが、二部に分け、後半部分を刻むことに決定。
・高村光太郎に揮毫を依頼。この依頼のときに、誰かが原文を添削したのではないか。
・光太郎から届いた揮毫に誤りを知るも、高名な光太郎に遠慮し、修正せずに碑文を刻む。
・昭和11年11月21日、建碑式が挙行。
・昭和19年、佐藤隆房氏が上京の折、光太郎を訪問。「脱字の追刻のある詩碑なんか天下にない。これも型破りで面白い」と、快諾を得る。
・昭和21年11月3日早朝、光太郎が直接碑文に墨書。石工が追刻。追加:「松ノ」「ソノ」「行ッ」 正誤加筆:「バウ」を「ボー」
●詩碑と追刻箇所
野原ノ<松ノ>林ノ蔭ノ小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病氣ノコドモアレバ行ツテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ行ツテ<ソノ>稲ノ束ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ<行ツ>テコハガラナクテモイイトイヒ
北ニケンクワヤソショウガアレバツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒデリノトキハナミダヲナガシサムサノ夏ハオロオロアルキ
ミンナニデクノ<ボー>トヨバレホメラレモセズ苦ニモサレズ
サウイフモノニワタシハナリタイ
宮澤賢治
(参考)
昭和20年(1945年)5月から 高村光太郎は花巻の宮澤家に疎開。同年9月10日から佐藤隆房方に寄寓。11月17日に太田村山口の小屋(現在の高村山荘)に移る。
業の花びら(先駆形)
夜の湿気と風とさびしくいりまじり
松ややなぎの林はくろく
空には暗い業の花びらがいっぱいで
わたくしは神々の名を録したことから
はげしく寒くふるへてゐる
ああ誰か来てわたくしに云え
億の巨匠が並んで生まれ
しかも互ひに相犯さない
明るい世界はかならず来ると
どこかでさぎ鳴いている
・・・・遠くきぎがないてゐる
夜どほし赤い眼を燃して
つめたい沼に立ち通すのか・・・・・
松並木から雫が降り
わづかのさびしい星群が
西で雲から洗はれて
その二っつが
黄いろな芒で結んだり
残りの巨きな草穂の影が
ぼんやり白くうごいたりする
(追刻部分の一部:「松ノ」「ボー」)
先日訪れた『桜 地人館』(花巻市)で入手した『雨ニモマケズ詩碑の由来』(著:高村記念会会長 佐藤進)に紹介されていた。以下は、その中から概要を転載。
・賢治を敬愛する人々によって詩碑が建立されたのは、賢治死後3年が経った昭和11年(1936年)
・碑は、議論の末に、御影石にブロンズ板をはめ込む形のものではなく、宮城県石巻産の稲井石に直接詩を刻むもので決定。
・詩の選定・・・盛岡の賢治の会の主張は、「業の花びら」。このとき、賢治の父 政次郎さんから、手帳に書き付けてあった「雨ニモマケズ」が良いと提案があった。しかし、詩があまりに長文のため、碑に刻みようがないのではという意見もあったが、二部に分け、後半部分を刻むことに決定。
・高村光太郎に揮毫を依頼。この依頼のときに、誰かが原文を添削したのではないか。
・光太郎から届いた揮毫に誤りを知るも、高名な光太郎に遠慮し、修正せずに碑文を刻む。
・昭和11年11月21日、建碑式が挙行。
・昭和19年、佐藤隆房氏が上京の折、光太郎を訪問。「脱字の追刻のある詩碑なんか天下にない。これも型破りで面白い」と、快諾を得る。
・昭和21年11月3日早朝、光太郎が直接碑文に墨書。石工が追刻。追加:「松ノ」「ソノ」「行ッ」 正誤加筆:「バウ」を「ボー」
●詩碑と追刻箇所
野原ノ<松ノ>林ノ蔭ノ小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病氣ノコドモアレバ行ツテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ行ツテ<ソノ>稲ノ束ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ<行ツ>テコハガラナクテモイイトイヒ
北ニケンクワヤソショウガアレバツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒデリノトキハナミダヲナガシサムサノ夏ハオロオロアルキ
ミンナニデクノ<ボー>トヨバレホメラレモセズ苦ニモサレズ
サウイフモノニワタシハナリタイ
宮澤賢治
(参考)
昭和20年(1945年)5月から 高村光太郎は花巻の宮澤家に疎開。同年9月10日から佐藤隆房方に寄寓。11月17日に太田村山口の小屋(現在の高村山荘)に移る。
業の花びら(先駆形)
夜の湿気と風とさびしくいりまじり
松ややなぎの林はくろく
空には暗い業の花びらがいっぱいで
わたくしは神々の名を録したことから
はげしく寒くふるへてゐる
ああ誰か来てわたくしに云え
億の巨匠が並んで生まれ
しかも互ひに相犯さない
明るい世界はかならず来ると
どこかでさぎ鳴いている
・・・・遠くきぎがないてゐる
夜どほし赤い眼を燃して
つめたい沼に立ち通すのか・・・・・
松並木から雫が降り
わづかのさびしい星群が
西で雲から洗はれて
その二っつが
黄いろな芒で結んだり
残りの巨きな草穂の影が
ぼんやり白くうごいたりする
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