ZF

メインはtwitterで、ここは書庫。
twitter ID : @ZF_phantom

遠大な計画

2019年07月01日 | 安保・国益
最終更新 2019.12.10



Reuters


この記事は、以下の2つの記事の続きです。テーマは《周辺大国による朝鮮半島不可侵条約》。

朝鮮半島不可侵条約?
https://blog.goo.ne.jp/zf-phantom/e/3edf45d05dc673261c3168a2c2e839a8

米朝交渉は概ね順調
https://blog.goo.ne.jp/zf-phantom/e/9b6cb7bc1630d800164c69532113d2eb




まず最近の事実関係を並べていく。

2019年6月20日、習近平国家主席が北朝鮮に初訪問した。この時点では会談内容はさほど明らかになっていない。G20大阪サミットの直前であることもあり、激化しつつある米中貿易戦争のカードにするのではという観測も流れた。

中国・習主席が初訪朝、経済担当高官など同行
https://reut.rs/2x6Qp1q
中国首脳の訪朝は14年ぶりで、習氏にとっては国家主席就任後、初めて。国営メディアによると、習主席に同行するのは外交担当トップの2人と何立峰・国家発展改革委員会主任など。


その直後の6月29日、G20大阪サミットの際に行われた米中首脳会談で、米側は貿易戦争の緩和措置を決めた。中国側は米国産農産物の購入を拡大するとあるが、そんなものはさほど大きな取引カードにならない。つまり中国側のカードは伏せられている。

米中、通商協議再開へ 合意の期限示さず対立点残る
https://reut.rs/2xlRySU
トランプ米大統領と中国の習近平国家主席は29日の会談で、5月以降停止していた通商協議を再開することで合意した。トランプ氏は第4弾の対中追加関税の発動を棚上げし、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対する禁輸措置を緩和する方針を表明。


G20大阪サミット滞在中に、トランプ大統領はツイートでDMZでの米朝首脳会談を呼びかけ、これに北朝鮮側が応じた。訪韓自体は以前から決まっていた。

北朝鮮が関心示す、トランプ氏の「非武装地帯で握手」提案
https://reut.rs/2RHOf1K
トランプ米大統領は29日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と南北の非武装地帯で会う意向を示し、北朝鮮側も「意義ある機会」と応じた。


時系列をもっと正確にいうと、今から米中首脳会談をするというタイミングで、DMZ電撃米朝会談の提案ツイートが出ている。事前の実務者協議を経て米中合意の内容は既に承知していたのだろう。




その結果、板門店での米朝会談が実現した。上記のトランプツイートの翌日の出来事。

米朝首脳が非武装地帯で3回目の会談、核巡る協議再開で合意
https://reut.rs/2RHYjaS
トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は30日、南北の非武装地帯で3回目の首脳会談を行い、核問題を巡る協議再開で合意した。


以上が時系列の整理。




一連のイベントが終わる頃、次の記事が出た。習近平が朝鮮労働党機関紙への寄稿で『地域の恒久的な安定を実現するための遠大な計画をともに作成する用意がある』と書いたという。

異例づくしの習近平主席の国賓訪朝 G20直前に「密約」か
https://special.sankei.com/a/international/article/20190630/0001.html
習氏は訪朝前日の6月19日付で、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」1面に寄稿文を寄せた。労働新聞に中国の国家元首が寄稿するのは史上初のこと。このなかで習氏は「対話を通じて北朝鮮側の合理的な関心事を解決することを支持する」とし、さらに「中国は朝鮮の同志と努力し、地域の恒久的な安定を実現するための遠大な計画をともに作成する用意がある」と表明した。専門家は「遠大な計画とは何を意味するのか」と注目している。



中国側のメディアを確認すると、明示的ではないがそれに類する話が出ている。「北朝鮮」と「朝鮮半島」「地域」の使い分けに要注目。

習近平総書記が金正恩朝鮮労働党委員長と会談--人民網日本語版--人民日報
http://j.people.com.cn/n3/2019/0622/c94474-9590549.html
習総書記は、「今回の訪問は無事成功し、中朝の伝統的友情を強化し、中朝関係の新時代における発展方向を明確にし、中朝双方の半島問題政治解決プロセスを推進し、地域の長期にわたる安定を実現するという揺るぎない意志を外部に向けて示した」と指摘した。


宋濤・党中央対外連絡部長、習近平総書記の訪朝成果を説明(新華社)
http://jp.xinhuanet.com/2019-06/22/c_138163822.htm
習近平総書記の今回の訪朝は、朝鮮半島の平和的対話が正念場を迎える時期に行われたもので、半島問題の政治的解決プロセスの促進や朝鮮半島の平和と安定の維持に重要な役割を発揮したとの認識を示した。





では、『地域の恒久的な安定を実現するための遠大な計画』とは何か。

それは、シンガポールでの歴史的な米朝首脳会談の時点から出ている話で、《周辺大国による朝鮮半島不可侵条約》と読み解く。ハノイでの2回目の米朝首脳会談で交渉が決裂してから、特に動きが見えなかったが、やっと動き出したかという印象。

周辺大国とは、米国、中国、ロシア、日本。および当事国として北朝鮮。韓国の立ち位置は不明。

昨年のシンガポール米朝会談の直後に、ポンペオ長官が訪中し、王毅外相と大筋合意したような記事が出ていた。ただ、その後の動向が不明だった。それから1年経っているから、《周辺大国による朝鮮半島不可侵条約》があるとした時に、中国としての国益をどう乗せていくのかの検討が進められていたのだと思われる。

それを踏まえて、かつ米中貿易戦争の激化という状況の中で、かつG20での米中首脳会談のタイミングを使って、中国側がカードとして繰り出した、と読む。そうすると、最近の一連の動きの順序が理解できる。

1)シンガポール米朝会談を受けてポンペオ構想=《周辺大国による朝鮮半島不可侵条約》が動き出した。
(それから1年が経過)
2)米中貿易戦争が激化した。
3)習近平訪朝で構想への中朝合意。
4)G20にて米中が構想に合意。米側は見返りに華為への制裁緩和。
5)トランプ大統領が金正恩を呼び出して情勢の意見交換。


ということで、今回の『DMZでの米朝首脳会談』の主要テーマは、『中国が賛同を表明した《周辺大国による朝鮮半島不可侵条約》の今後の見通し』について、トランプ大統領と金正恩委員長が忌憚のないところでざっくばらんに話し合った、ということだろうと思われる。また、G20後に訪韓する予定を入れていたのも、この動きを見通しての計画であったように思われる。


そして、トランプ大統領は次のようにツイートした。批判的なメディアや識者にはこの意味は読み解けないだろう。

「この3日間で多くの驚くべきことが起こりました。すべて、または少なくともそれらのほとんどは、米国にとって素晴らしいです。多くが達成されました!」




最後に残る難関は、プーチン。




(追記)
ただ、露朝の直談判はうまく進んでる雰囲気がなさそう。金正恩側が望む結果は得られなかったのだろう。

訪露中の正恩氏、複数行事出席取りやめ 帰国も前倒し 2019.4.26
https://www.sankei.com/world/news/190426/wor1904260020-n1.html
25日にロシアのプーチン大統領との首脳会談を終え、ウラジオストクに滞在中の北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が26日に参加を予定していた複数の行事がキャンセルされた。帰国も前倒しし、同日午後にロシアを離れる。




(追記)2019.9.15
周辺大国による朝鮮半島不可侵条約の実現に向けての最後の難関はプーチンだと思っていたが、その前に対北強硬派のボルトン米大統領補佐官も障害になっていたのかもしれない。そして、マティス国防長官の退任も実は共通しているのかも。

ボルトン氏「解任」 米政権内で孤立 北朝鮮への圧力路線軟化に懸念 惜しまれる退場 2019.9.11
https://www.sankei.com/world/news/190911/wor1909110032-n1.html
米政策研究機関「新米国安全保障センター」(CNAS)のクリスティン・リー研究員は、ボルトン氏を「敵対勢力」と見なす北朝鮮が今回の事態を受け、米政権との対話に傾斜する可能性があると指摘する。

マティス米国防長官の退任2カ月前倒し、トランプ氏が辞表に不快感 2018年12月24日
https://reut.rs/2rQ5Vfo
マティス長官は20日に公表した大統領宛の辞表の中で、同盟国を重視しないトランプ氏を暗に批判。大統領にはより考え方の近い国防長官を選ぶ権利があるとし、両氏の間の溝が浮き彫りになった。




(追記)2019.12.9
米朝交渉の停滞にしびれを切らした北朝鮮側が再び瀬戸際外交に戻りそうな態度を受けてのトランプ大統領の反応。引用文にある国名の並びが、実質的に米中日露になってて、韓国を無視してる点が、この一連の記事の読みと整合している。

トランプ氏、金正恩氏に「敵対的行動取れば多くを失う」と警告 2019.12.9
https://www.sankei.com/world/news/191209/wor1912090006-n1.html
トランプ氏は金氏について「シンガポールで私と一緒に強力な非核化合意に署名した」とし、「彼は米国との特別な関係を破棄したり、来年11月の米大統領選に干渉したりすることを望んでいないはずだ」と訴え、非核化協議の前進を改めて求めた。
また、「金氏の指導体制の下にある北朝鮮は、とてつもない経済的な潜在力があるが、約束通り非核化しなくてはならない」と指摘。その上で、「北大西洋条約機構(NATO)や中国、ロシア、日本そして全世界が(北朝鮮の非核化)問題で一致団結している」と強調した。






コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 景気循環 | トップ | 深田事件の技術面の検証2 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

安保・国益」カテゴリの最新記事