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自主核武装の予備検討

2016年02月07日 | 安保・国益

日本が仮に自主核武装するとして、その基本的な技術上の数値や条件を概観する。


《射程距離と物理法則》

弾道ミサイルは大気圏外まで飛ばしたとしても一律に地球周回軌道に乗るわけではない。「第一宇宙速度」とされる 7.9km/秒 に到達すれば地球周回軌道に乗れるが、それ以下なら落下する。



速度と射程距離の関係は次の通り。

速度
7.9km/秒=地球周回軌道
6km/秒=射程10,000km
4km/秒=射程5,000km
2km/秒=射程1,000km以下

速度を増すにはミサイルの積載燃料を多くする必要があり、当然ながらミサイルの重量と容積は増加する。



《ミサイルとプラットフォーム》

生存性の高いミサイルプラットフォームは潜水艦である。

ここで、米国のオハイオ級戦略ミサイル原潜とそうりゅう型の大きさを比較してみる。
オハイオ級は、全長で2倍、太さで1.5倍近く、排水量は4倍ある。



単純にそうりゅう型の途中をぶった切って延長し、そこにトライデントミサイルを載せようとしてもサイズの関係から入らない。

従って、日本の戦略ミサイル用潜水艦をオハイオ級並みの太さにするか、あるいはミサイルを小型化するかの施策が必要になる。

トライデントは射程距離1万km以上とのことだが、日本は考えようによってはそこまでの射程距離は要らない。なぜなら、当面は中国への抑止力になれば十分だからである。

例えば射程距離5,000kmで中国のほとんどを射程内に収めることができる。



トライデントは射程1万km以上だから6km/秒の速度が出るが、射程距離5,000kmで十分と考えれば4km/秒で良い。だから、トライデントの燃料を2/3に減らした程度で済み、その分だけ小型化できる。

弾頭の大きさは同じとすれば、太さは変えずに全長を短くできる。そうすると、そうりゅう型の太さの潜水艦でも搭載できる可能性が出てくる。



《射程制限のメリット》

まず、一般論として過剰なスペックを避け、適度なスペックに落とすことで開発費と開発期間、および製品の単価を下げることができる。

今回の事例では、ミサイルをトライデントより小型化することで、そうりゅう型と同じ太さの潜水艦で弾道ミサイルの搭載が可能になる。

ここで仮に、射程距離1万kmあるいはそれ以上を狙うと、ミサイルへの積載燃料をトライデント並みに保たねばならないので、全長を長くできないなら太くする必要がある。
すると、潜水艦の容積が一定ならば、積載できるミサイルの本数が減ることになる。

そうりゅう型をベースにした通常動力型戦略潜水艦を考えた場合に、射程距離1万kmならミサイルが太くて4本しか載らないが、射程5,000kmの細いミサイルなら6本載せられるとしたら、どちらを選ぶか。

あるいは、トライデント並みの全長のミサイルを積むならオハイオ級並みの太さが必要で、それだけでも排水量がそうりゅう型の2倍にはなるだろう。ということはその建造コストも高騰してしまい、予算面から配備可能な艦数が減ることになる。

そういうトレードオフが常に発生する。私は射程距離を制限しても、ミサイル本数も艦数も多い方がいいと思う。



また、射程距離5,000kmというのは(日本近海から発射した場合)北米、欧州、露の欧州側半分、豪州、インドが射程外になる。

日本の核武装というのは各国からの反発があるはずだが、「あなた方は射程外ですよ」と言えればそれだけ反発を減らせる。

また、中韓勢は必ず「日本は米国に報復核攻撃をする」と喧伝するだろうが、それを回避できるメリットもある。

日本が、日米同盟を堅持し、対中国のみを念頭に置いて核武装するなら、射程距離5,000kmで足りる。

逆に、むやみに射程を伸ばすことは米欧露などまで仮想敵に回しかねず、得策とは思えない。



(上記に対して「簡単に迎撃可能な核ミサイルに意味はあるのか?」「たとえ核戦争になっても中国の巨大な人口が勝利の決め手と考える体制に勝ち目はあるのか?」との指摘をいただいた。)


1)多弾頭化などの技術論は専門家に委ねるべき課題で、一介の有権者が解決すべき課題とは思いません。後者については「平和とは相手が開戦を決意するまでの躊躇の期間」と思えば、躊躇の効果はあるでしょう。

2)日中全面核戦争となれば日本に勝算がないのは当然です。しかし、刺し違えで中国の軍事基地の何割かが核攻撃で消滅すれば、その後の世界との全面核戦争に不利になります。日本敗戦で終了だと世界が思うかどうかがその後の鍵です。

3)日本敗戦で終わらずに、中国は世界全面核戦争をするつもりだと各国が認識すれば、その時は米露等合計3千発以上の核攻撃を中国は覚悟せねばなりません。米欧露印などもチベットのようにはなりたくないでしょう。

4)安全保障上の軍事力とは、相手が勝利するのに要する犠牲あるいはコストを引き上げることです。現状だと日中戦争では通常弾頭の1千発の中距離弾道ミサイルで米軍撤退と自衛隊壊滅で敗戦になるかもしれません。

5)その場合には、中国側は単にミサイルの在庫を減らしたのみで勝利し、日本占領です。日本が核武装すれば、中国沿岸部の海軍基地や北京は核攻撃を覚悟せねばなりません。そのコスト上昇が中国に開戦決意させるのを躊躇させます。

6)その傍証として、中国は国連等で「日本はプルトニウムを大量に保有してる」などと批判しています。つまり、日本の核武装を恐れていることを中国自身が披露しているわけです。だからこそ、日本の核武装は有効だと思います。




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