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米国の自滅政策説

2015年08月27日 | 安保・国益



田中宇というニュース解説者がいる。彼の主張の骨子は「米国には隠れ多極主義者がいて、米国の単独覇権を意図的に解体しようとして、自滅政策をとっている」というもので、その延長で「米国は自ら没落するから、日本はもう対米追従はやめろ」というものだ。

こういう解説に初めて出会うと、常日頃接しているニュースとは違った裏の真実の世界を垣間見たように感じ、「自分は騙されていた、本当の世界はそうじゃなかったんだ」などと悟りを開いた気分になって、表のニュースをベースに議論している人たちが大馬鹿者に見えてくることもあるようだ。

だが、基本的なところで彼は見誤っている気がしてならない。評論家の立場、つまり神の視点で見れば米国という国家が国益を毀損する行為をしていると見えるのだろう。だが、米国とは基本的に富と名声を得るための競技場のような国家だ。そこには金融屋、石油利権屋、軍需産業屋、その他いろいろいる。

そもそも、どこの国家でもそうだが、国家が一致団結して、とか、有能な指導者が過ちなく国家を率いる、などということはない。億単位の人口を抱えていれば、意志の統一なんてできないから、それぞれの立場で己の利益のために奔走する。そして優秀なドイツ人でさえ、ヒトラーを登場させてしまった。

神の視点で米国を観察する田中宇氏からは、有能な米国の指導者が道を誤るはずがないので、米国の動きは意図的な行動であり、すなわち自滅政策国家に見えるのだろうが、それは利権のためのそれぞれの勢力の動きや世論のゆらめきから生じた、単なる現象なんだろうと私は思う。

話をスケールダウンさせて、企業レベルで考えてもわかると思う。例えば、事業部単位での売上と利益を追い求める活動が、全社レベルの利益と常に完全一致しているだろうか。一致しないことも日常茶飯事のはず。その弊害が大きくなると、経営トップに問題が上がって調整が入る。

私は米国の特徴は「道を誤らないこと」ではなく「間違えたら修正する」ことにあると思う。歴史的な話なら、原爆投下は誤りだったとする米国人が増えているし、イラク戦争への反省も増え、ブッシュの次のオバマ大統領は戦争から手を引いた。間違えない天才より、間違ったら改める凡人の方が強い。

米国は道を誤らずにまっすぐ自滅に向かっている、と思えば来年にでも米国が破滅しそうに感じるが、田中宇氏がそう主張し始めてから一体どれほどの年月が過ぎ去ったのか。軽く10年以上は経っているだろう。まっすぐ自滅ならこんなに時間がかかるはずがない。今では中国の方が経済も政治も崩壊寸前だ。

だから、田中宇氏のいう「隠れ多極主義者たちによる米国の自滅政策説」は、まぁお話としてはおもしろいんだけど、それをアテにして待ってると、たぶんあなたの人生が終わる。誰かの主張を鵜呑みにするのではなく、もう少し自分でも考えてみた方がいいと思う。




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