介護福祉は現場から 2007.02.22-2011.01.25

新しいブログにリンクしています。7つのテーマにわけました。引き続きお読みください。

第4028号 山口二郎『ポピュリズムへの反撃/現代民主主義復活の条件』(角川ONEテーマ21)

2010-10-26 16:44:01 | 政治社会
山口二郎(北海道大学教授)

は、政治学の分野で積極的な発言を続けている代表的な学者です。


『ポピュリズムへの反撃/現代民主主義復活の条件』(角川ONEテーマ21)

が刊行された(初版:2010.10.10)ので、この本を手がかりに現代政治の課題を考えてみます。神戸における学会への参加の途次に空港での待ち時間などに読みました。(写真)

現代政治全般というよりは、医療・年金・介護などの社会保障政策や児童虐待・自殺・ホームレスなど社会的な問題や「社会的排除」に対する政策に焦点を絞って読んでみた。


p.32 中間団体の重要性
 フランスの政治学者トクビィルのアメリカ政治分析を例に挙げて、教会、同業者団体、文化、スポーツなどのさまざまな中間団体の重要性を指摘しています。
*p.142 「中間団体の再生を」

本書では、日本における社会福祉の現状を考えるに関しては具体的に触れていないが、
宗教組織や地域の組織、労働組合、生協などが社会サービスの一翼を担うことは重要ですね。日本のメディアなどが、「国家と国民」という単純な図式で政策論を展開しますが、地域におけるさまざまな組織での自主的な管理の訓練は政治的な成熟には不可欠です。

日本では、最近ではNPO法人による福祉サービスの展開なども注目すべきですが、反面で、中間組織の代表的な例である社会福祉協議会の幹部が県庁や市役所からのいわゆる「天下り」の指定席になっているなどの問題がありますね。


p.83 リスクの社会化
 日本の社会保障給付費は23.9%で、ドイツ36.8%、フランス39.8%、スウェーデン44.1%に比較して明らかに低いです。この点から、筆者は、日本の社会保障政策のルールや基準が不明確であるという点を指摘しています。ルールの代わりに裁量的な政策がとられ、各種団体が官僚と政治家の下にきて、日本的な親分・子分関係が横行し、権利という感覚が存在しないといっています。

この点は、公共事業の問題(分配)などでよく報道されましたし、昨年の政権交代によってこのようなシステムが終焉するかにみえました。

社会保障政策の面で見ると、サービスの末端を担っている専門職の意見などが反映される余地が少ないという点では旧態依然の「パターナリズム」が残っています。
政策を決定する場合に重要になっている審議会のメンバーには関係団体のメンバーは入っていますが、実際に各地域で政策を担当している人々の意向が吸い上げられる仕組みにはなっていないようです。


p.130 メデイァ界や学者の自覚のなさ
 山口先生は、自ら「社会民主主義的な学者」と称しておられます。(p.131)
そのうえで、メディアで流されている政策論のレベルの低さをなげいておられます。

私なども、20年以上、教育と研究の場に身をおいてきましたからひとごとではありません。
私自身は時間的な余裕が無いのでニュースと天気予報以外のテレビは見ませんが、たまに報道解説というか討論などの番組を見て、いわゆる芸能人といわれる方々が、国際金融や財政政策、司法政策などに関して発言されています。それは、討論というものではなく、常識程度の知識をベースに大声で政治家の批判をするといった風にしかみえませんね。
アメリカやヨーロッパではこのような「政治の芸能化」は考えられないでしょう。

そのときどきの情報の基づく発言ですから一貫性がないですね。専門領域のことは専門家の意見を聞けばいいのですが、(よく見ていないから自信は無いのですが)登場する専門家には偏りがあるのではないでしょうか。(いわゆるマスコミ受けする人)


p.204 命と教育を確保するための税論議を
 これは、前記の社会保障費の大きさと密接に関連する議論ですが、山口教授は、慎重ないいまわしながらも、アメリカ型の市場を通してのサービス供給よりは北欧型の公共サービスとしての提供をとるかという選択、つまり仮に、北欧型にする場合には税や社会保険料負担の増加はやむをえない・・という整理をされています。

その「どのようなモデルを目指すのか」については、本書では、随所で北欧型への志向をにじませてはいますが、詳しいことは提示されていません。


本書の範囲を超えるということでしょうが、医療・年金・介護などの具体的な分野での独自の分析や具体的な提言は書かれていません。データについては、権丈教授(慶応大学)などの引用は何箇所かあります。
日本の政治の現状を原則に帰って考えてみる・・そういう趣旨で参考になる本ではあります。

東京での講演(フォーラム神保町)を下敷きにまとめられただけあって、わかりやすいのですが、「あとは皆さん考えなさい」ということのようですね。
「社会の力を強くする」(佐藤 優)という言葉に共鳴して「市民が政治をより深く見る力を見につける手伝い」をしたいと、結ばれています。(p.220)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 第4027号 認知症に対するさま... | トップ | 第4029号 「介護保険からもれ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

政治社会」カテゴリの最新記事