すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【天皇杯・準決勝】これがJリーグで2位のチームなのか? 〜川崎1-0大宮

2016-12-31 07:35:13 | Jリーグ
負けた大宮の熱い魂に拍手を

 Jリーグで年間勝ち点2位の川崎フロンターレは、攻めの歯車がまったく噛み合わない。特に前半はマイボールになっても周囲が動き出さず、まるで消化試合のようなありさまだった。「金を返せ」と客が暴動を起こさないのが不思議なくらいだ。

 敵に張り付かれたままオフ・ザ・ボールの動きがない。間受けするためゾーンのギャップへ4歩移動することさえしない。ルーズ・ボールへのアクションも常に大宮アルディージャが先手、先手だ。最終ラインでボールをキープした時も3バックが開かずたがいの距離が近いままなので前への角度を作れず、うまくビルドアップできない。

 一方、負けた大宮はいいところばかりが出た。4-4-2で守備を重視したベーシックなサッカーだが、「勝ちたい」という気持ちを全面に出す。ひとつひとつのプレイに気持ちが入り、ソウルフルで力強かった。そんな大宮が終始ペースを握り、彼らの精力的な守備が川崎をしっかり押さえ込んだ。

 スッポンのように敵に吸い付きパスコースを消す。相手ボールホルダーに1歩でも近く寄せてバランスを崩させる。これを90分間、止まらず続けるのだから川崎はたまらない。

 攻撃面でも、大宮は何度もシュートシーンを作った。全員がよく走り、スペースへ、スペースへと労を惜しまず動いてパスをつなぐ。無骨で美しいサッカーとはいえないが、機動的でガッツのある攻めは迫力があった。

 後半は4バックに変えた川崎がリズムをつかみ攻める頻度が増えたが、それでも大宮は全員が必死で自陣に引いて弾き返す。だが惜しいかな、大宮はあまりにもチャンスを逃しすぎた。決定機を何度も手放すうち、幸運の女神はおずおずと大宮から離れていった。

 そして最後はどん詰まりの後半40分。川崎・中村憲剛の右コーナーキックから谷口彰悟に押し込まれて万事休す。チャンスを生かせないと痛いしっぺ返しがくる、という教訓を絵に描いたような展開だった。大宮は絶対的なストライカーが1人いればおもしろくなりそうなチームだと感じた。

 それにしても前半にあんなみっともない試合をサポーターに見せた川崎はとくと反省してもらいたい。あれではJリーグからお客さんが逃げる一方だ。「これだからJリーグは」などと海外サッカー・マニアに言われないよう、決勝ではしっかり魂を見せてほしい。

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【天皇杯・準決勝】冴え渡るカウンター、受け流す技術 〜鹿島2-0横浜FM

2016-12-30 11:36:10 | Jリーグ
相手の攻めを「いなす」鹿島の独壇場

 SBを高く上げサイドから攻める鹿島アントラーズと、ドリブルからフィニッシュに行く横浜F・マリノスという対照的な対戦になった。鹿島はいずれも得意なカウンターから2ゴールを上げ、守っては横浜FMの波状攻撃を堅い守備で柳のようにサラリと受け流す。終わってみれば2-0と鹿島の「大人の試合運び」が光った試合だった。

 鹿島のシステムはベーシックな4-4-2だ。攻撃時には両SBを高く上げて基点を作る。そのためボールが中盤にあるときは2-2-4-2、ボールが前線に渡ると2-2-2-4のような形になってフィニッシュへ行く。一方のマリノスは4-2-3-1だが、相手ボールになるとリトリートして4-4-2のブロックを組んで守る。攻めはマルティノスと斎藤学が軸になり、主にドリブルからラストパスを出す形だ。

 マリノスはドリブルを交えポゼッションして攻めるが、決定機はあるものの鹿島の堅い守備に弾き返され決めることができない。鹿島はまるで剣の達人のように相手の攻めをサラリといなす。そしてボールを奪うと得意の速攻だ。前半41分にはカウンターから鹿島がチャンスを作り、最後はMF柴崎岳の右からのクロスをFW土居聖真がヘッドで決めて1点目をあげる。

 続く後半28分には、マリノスの致命的なタテへのミスパスをカットした鹿島がまたもカウンターを発動。MF永木亮太のスルーパスが入り、最後は柴崎の右からの折り返しを途中出場のFW鈴木優磨が決めた。

 鹿島はこのようにカウンターのチームだが、ひとくちに「堅守速攻」といっても自陣にべったり引いているわけではない。最終ラインを高く保ち、コンパクトな陣形から全体のゾーンを圧縮してボールを奪う。またワンプレー、ワンプレーの精度が明らかにマリノスより上で、ミスが非常に少ない。

 鹿島の選手はフォームも美しく、プレー時にしっかり腰が入っている。足先だけの軽いプレーが目立つマリノスとは対照的だった。マリノスにもチャンスはあったが、結局は鹿島のゲームプラン通りに進んだ横綱相撲といっていいだろう。

 最後に、個人的に注目しているマリノスの斎藤学について。彼のキレのあるドリブルはJリーグでは通用しているが、問題は世界に出たとき武器になるかどうかだ。彼はこの日、4〜5本のシュートを打ったが決められなかった。鋭いドリブルからラストパスやシュートに行く彼のスタイルは非常に魅力的であり、決定力さえ磨けば日本代表におもしろい選択肢をもたらす選手になりそうだ。

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【サッカー】日本人は「純粋まっすぐ君」から卒業すべきだ

2016-12-28 15:27:15 | Jリーグ
ズル賢い奴ほど試合運びがうまい

 この年末のサッカー・イベントには、まったく考えさせられた。

 いかにも日本人らしく真っ直ぐ「純粋」に散った浦和レッズ。

 うまい試合運びでチャンピオンシップをしぶとく勝ち残り、クラブW杯でも名を残した鹿島アントラーズ。

 この2チームの対比はあまりにも鮮やかだ。日本人は浦和的なよくいえば「正々堂々」、悪く言えば「純粋まっすぐ君」のメンタリティから卒業し、鹿島のようにズル賢くしぶとく戦えるようにならなければならない。そうでなければいつまでたっても「世界」に手が届かない。

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親父が肺ガンで死ぬらしい

2016-12-27 08:44:05 | 禁煙・タバコ
タバコをやめてもガンで死ぬ

 主治医の計算によると、私の親父は肺ガンで余命0ヵ月らしい。つまりいつ死んでもおかしくない状態だ。すでに吐血している。

 おふくろによると確か親父は30代でタバコを吸い始め、50~60才くらいで禁煙したが遅かった。私は高校1年で吸い始め、10年前にやめたばかりだからヤバイ感じもする。とはいえ今さらジタバタしてもしようがない。

 親父は「肺ガンで余命2ヵ月」の診断が下るや治療を拒否し、即座に覚悟を決めた。すでにそれから2ヵ月たったが、痛みを取る治療もまったくしていない。あとは死ぬのを待つばかりだ。

 体感的には、肺ガンにかかるかどうかはタバコを吸った期間はあまり関係ないような気がする。知人の父親は若い時から老いるまで吸っているが健康そのものだし、かと思えばウチの親父みたいに吸った期間はそう長くないのにもう助からない人間もいる。人生いろいろだ。

 この記事を読み、ひとりでも多くの人がタバコをやめてくれたら死んで行く親父も本望だろう、と思い記事を書いた。

 みなさんタバコはやめましょう。

【関連記事】

『タバコをやめて初めてわかったこと』

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【クラブW杯決勝・分析】目覚ましい鹿島の収穫と露呈した課題とは?

2016-12-26 08:33:37 | サッカー戦術論
すばらしい鹿島の「修正能力」

 レアル・マドリードを相手に、一時は鹿島が2-1とリードし大健闘したFIFAクラブW杯決勝戦。だいぶ興奮も冷めやり客観的にゲームを観られるようになったので、今回は映像を何度も巻き戻しチェックしながら鹿島の収穫と課題を分析してみよう。

 まず課題という意味で失点シーンを振り返ろう。​前半9分、レアルはDF植田のクリアを拾ったルカ・モドリッチがシュートを放ち、GK曽ヶ端が弾いたところをカリム・ベンゼマが詰めて先制した。

 この1失点めの間接的な原因は、植田のクリアが小さかったためそれを拾われ二次攻撃を受けたことだ。植田のクリアは小さいだけでなく、低く、角度も悪かった。あのように真ん中よりの方向でなくもっとサイドの方へ向け、かつボールを高く上げるクリアをしていれば失点を防げた可能性はある。

 もちろんあの強いクリアをいとも簡単にコントロールし、瞬時に二次攻撃につなげたレアルのレベルが高かったということはいえる。だがおそらくJリーグでなら、あのクリアはふつうに通用し失点していなかった可能性も高い。

 こんなふうにこの試合では「もしJリーグだったら、やられてなかった」というシーンが頻出する。それは裏を返せば鹿島の選手のプレイ感覚が「ふだんのJリーグ=低いレベル」対応だったためにやられた、ということだ。「こういう局面ではこうすべし」というプレイ常識がJリーグレベルだったーー。これは経験の問題であり、彼らがJリーグでプレイする限りつきまとう難題だろう。

 例えばあの1失点め。植田の強いクリアをレアルの​ルカ・モドリッチはとっさに胸でワントラップし、次のタッチでもうシュートに行っている。つまりシュートを想定したファーストタッチを常に考え、ワンタッチ目で次にシュートを打てる場所にボールをキッチリ置いている。しかも味方のパスからでなく、不意に飛んできた敵の強いクリアボールを瞬時にコントロールしているのだ。

 あんなシュートシーンがJリーグにどれだけあるだろうか?(スルーパスをファーストタッチで完璧にコントロールし、2タッチめでシュートしたロナウドの3〜4点めも同じだ)

 例えばJリーグなら、ファーストタッチで失敗しボールを弾くことはよくあるだろう。そして2タッチ目で弾いたボールを小突いてシュートできる場所に置き直し、3タッチめでやっとシュートするーー。

 これだとシュートへ行くまでのタッチ数がひとつ多くなる。つまり守備側にはそれだけ余裕ができる。Jリーグでプレイする選手がみんなそうだと、当然、対応する相手DFも味方も「その感覚」でプレイする。結果、リーグの選手全員が「Jリーグレベル」で終わってしまう。これではいつまでたっても日本のサッカーは進歩しない。

 ただし例え1〜2試合でも「異次元レベル」のチームと試合できれば、その経験をしっかり次に生かすことはできる。実際、鹿島の選手たちは1試合中に見事にそれをやってのけた。そこは大きな収穫である。

 例えば鹿島に2-1とリードされレアルが本気を出した後半のほうが、むしろ鹿島のデキはよかった。それはなぜか? 前半のレアルのプレイぶりを見て、後半に鹿島の選手たちが対応を修正したからだ。

 前半の鹿島はせっかくボールを奪ってもつなげずボールロストを繰り返した。味方のサポートが遅くレアルの速い潰しに遭ったからだ。またレアルという名前に負けプレッシャーからミスを繰り返した。だが後半はそれをキッチリ修正した。

 オフ・ザ・ボールの動きで空いたスペースへ選手が素早く移動してサポートし合いパスをつなぐ鹿島の選手たちの戦術眼はすばらしく、レアルにハッキリ通用していた。前半、なぜ自分たちはボールをキープできなかったのか? この失敗を読み取り、後半にしっかり修正してきた。そんな鹿島の適応能力はすばらしい。

 またピンチが続くと見るや全体のゾーンをやや下げ、待ち受けるディフェンスに切り替え敵の攻撃をしのぐ試合運びのうまさも光った。鹿島のよさは「勝負強さ」とか「伝統の力」などと抽象的に言い表されがちだが……こうした試合巧者ぶりが勝負強さを生む元になるのである。

 おそらく鹿島はもしリーガ・エスパニョーラで1年間試合すれば、ワンシーズン後にはまったく別のチームになっているだろう。1つ1つのプレイが甘いJリーグのぬるま湯体質を脱し、一段高いスペインの水準に合わせて適応したプレイができるようになる可能性が高い。それだけの修正能力がある。(もしかしたら鹿島だけでなくJリーグの他チームにも同じことが可能かもしれない)。

 だが来年彼らがプレイするのはスペインではなくJリーグであり、悪い意味でまた再度「Jリーグレベル」に「適応」してしまうかもしれない。もしそうなったら本当に惜しい。

 負けた鹿島の選手たちは、「いい経験になった」などとは口が裂けても言いたくないだろう。だが負けがいい経験になるというのは、ポジティブに考えれば、失敗から学習し次の機会に生かし修正する「チャンスを得た」ということだ。鹿島の選手たちはこの経験を生かし、来シーズンはぜひ一段高いレベルでプレイしてほしい。

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【クラブW杯決勝】延長戦にもつれ込む壮絶な死闘 〜レアル・マドリー4-2鹿島

2016-12-19 08:25:25 | Jリーグ
ジーコが作った魂は生きていた

 FIFAクラブW杯決勝戦。鹿島があのレアル・マドリードを土俵際まで追い詰めた。後半7分には柴崎岳がミドルシュートを叩き込み、2-1とリードすると同時に待ち受けるディフェンスに切り変え勝ちパターンに持ち込んだ。延長前半のロナウドの2発で逃げ切られたが、打たれても打たれても立ち上がり、ファイティングポーズを取り続ける鹿島の姿には胸が熱くなった。

 ハイプレスで試合に入った前半の鹿島はボールを奪うが安定して繋げず、ロストボールが目立った。またクリアが短くトラップは緩く、パスが弱い。ワンプレー、ワンプレーに出る個の技術が甘く、客観的にレベル差をいえばレアルとは当然かなりの開きがあった。だが「勝負」という意味では確実に鹿島に脈があったことも事実だ。

 実際、鹿島は後半7分に柴崎が2点目を取り、2-1として待ち受けるディフェンスに変えたあたりではハッキリ勝ちパターンに入っていた。彼らのゾーンディフェンスはレアルに対し機能し、美しいディアゴナーレが組み上がっていた。ヒリヒリするような緊張感だった。

 そもそも後半45分にファウルを犯したDFセルヒオ・ラモスは本来なら2枚目のイエローカードで退場になるはずであり(だがビデオ判定もなし)、そうなればレアルは延長戦を10人で戦うことになり勝負の行方はまったくわからなかった。延長前半のロナウドの2発もなかったかもしれない。

 ただし鹿島は後半13分、ファウルを取られPKになり2-2の同点とされたが、あそこはファウルでなく技術で止めなければならないのだろう。この種の足りない部分がやはり随所にあり、その意味ではまだまだ研鑽の余地がある。特に手付かずの「個による守備の技術」については日本のチームはこれから身につけて行く必要がある。このほか今後の課題としてはボールスピードの弱さやプレイ強度の不足、サポートの遅さなども目についた。

 一方のレアルは第一にコンディションがあまりよくなく、第二に気を緩めて試合に入ったのが響いて接戦にもつれた、という要素はある。実際、褒められたデキではなかった。特にロナウドは本調子でなかったが、鹿島に逆転されたあとのPKと延長前半に突き放す2発のゴールは「さすが」と感じさせた。

 いずれにしろ、あまりの興奮で客観的に記事を書ける段階にない。特に柴崎が2点目のミドルシュートを叩き込んだ瞬間には頭に血が上り興奮して涙が出た。2ゴールの柴崎だけでなく神がかりなセービングを連発した曽ヶ端や何度もピンチを救った昌子、インテンシティが高い金崎あたりは明日からすぐ代表レギュラーになってもおかしくないんじゃないか? ハリルはこの試合をどう見たのだろう。それが知りたい。

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【クラブW杯決勝・展望】レアルを前がかりにさせカウンターで仕留める

2016-12-18 08:15:51 | Jリーグ
カギは0-0のままどこまでやれるか?

 さていよいよFIFAクラブW杯決勝戦。今夜はわくわくモンの鹿島vsレアルの試合だ。鹿島にはぜひとも日本の代表として、拮抗したいい試合をしてもらいたい。そこで試合の展望である。

 レアルにひと泡吹かせるには、いかに相手のバランスを崩すか? がカギだ。この場合のバランスには、2つの要素がある。まずフィールド上における選手の配置という意味でのバランスと、次に心理的なバランスである。これらを崩してしまうのだ。

 鹿島は守備を重視したうまい試合運びが得意だ。準決勝のアトレティコ・ナシオナル戦の後半に見せたようないい守備さえできれば、いかにレアルといえどそう簡単には得点できない。で、0-0のままジリジリするような試合展開に持ち込めれば、必ずレアルに焦りが出てくる。つまり心理的なバランスが崩れる。

「おかしいぞ。俺たちのほうが圧倒的に強いはずなのに点が入らない」

 こうなるとレアルはリスクを冒し、得点を取ろうと前がかりになる。準決勝でアトレティコ・ナシオナルがそうだったように。

 かくてレアルは精神的バランスだけでなく、フィールド上のバランスを自ら崩して攻めてくる。彼らが前がかりになれば、後ろにスペースができる。その形になったら鹿島の得意なカウンターのチャンスだ。彼らはこの形からどうすれば点が取れるか、知りつくしているーー。

 とすればやはり、鹿島がどこまで失点せずに0-0のまま持ちこたえられるか? がポイントになる。それができればジャイアント・キリングもあながち夢じゃない。

 個人的な希望としては、FW鈴木優磨が点を取り、ロナウドが見ている前でロナウドのゴールパフォーマンスをして1-0で鹿島が勝つこと。これが実現したら来年は春から縁起がいいな。

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【クラブW杯】鹿島がうまく試合を殺した 〜鹿島3-0 A・ナシオナル

2016-12-15 10:06:04 | Jリーグ
ゴールマウスに魔法をかけた11人

 FIFAクラブW杯の準決勝。南米王者のアトレティコ・ナシオナル(コロンビア)に1-0でリードした鹿島は後半、ブロックをやや低くして待ち構える守備で試合を完全に殺した。攻めてはカウンターから追加点を奪って突き放す。前半は降り注ぐ敵シュートの雨あられを耐え、ゴールマウスに魔法をかけた。

 PKからの先制や後半に見せた守備重視のうまい試合運びなど、終わってみれば3-0と鹿島らしい狡猾さが光った。さあ日本チーム史上初の決勝進出。おそらく次はあのレアルだ。ジーコが作った「鹿島魂」をとくと見せてもらおう。

 リードした鹿島ほど強いものはない。後半は敵のパス&シュートコースを巧妙に消し、粘り強い守備からボールを奪うと前がかりになった敵の背後をカウンターで襲う。前半は相手の個人技の前にいつ失点してもおかしくなかったが、後半はまさに鹿島の横綱相撲だった。特に昌子と植田の守備が光った。

 アトレティコは細かくパスをつないでくるポゼッション・タイプだ。最終ラインから丁寧にビルドアップしてくる。特に前半は鹿島ゴール前で彼らの個人技が輝きを放った。だがシュートがバーを叩くなど、何度打ってもゴールに入らない。

 個の力では圧倒的にアトレティコが上。だが鹿島のようにしぶといディフェンスをベースに戦えば日本人でも「世界」に勝てる。鹿島が大きなヒントをくれた一戦だった。

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​【サッカー日本代表】ガラパゴス化する日本人の「小さいサッカー」

2016-12-13 06:33:25 | サッカー戦術論
このスタイルはアジアでしか通用しない

 日本人はショートパスやワンツーにこだわる小さいサッカーが大好きだ。いや好きというよりすでにそれは血肉となり、日本人のDNAに深く刻み込まれている。

 そんな日本人ならではの小さいサッカーではロングパスを使わない(だからいつまでたってもロングボールの精度が身に付かない)。そして日本人はショートパスばかり多用するため、味方のボールホルダーに「まず寄ってやる」クセがついている。つまり味方同士が近くにいる距離感が彼らの命だ。

 そのとき出される彼らのパスは、ヨーロッパ人から見ると非常に弱々しい。日本人は近い距離でしかパス交換しないため、強いパスは必要ないのだ。必要ないからJリーグでは弱いパスばかりになり、いつまでたっても日本人には強いパスが身に付かない。

 こんなふうに日本人は弱いパスが習慣になっているため、海外のチームと試合をすると簡単にパスカットされてしまう(例えばロシアW杯最終予選・UAE戦でのMF大島の弱いパスが典型だ)。ボールスピードのない弱いパスでは、密集地帯を通せない。高度に組織化した現代サッカーの守備網に穴を開けることはできない。これでは日本はいつまでたっても「世界」に通用しない。

日本人はシュートレンジが極端に短い

 日常的に小さいサッカーをする日本人は、とりわけシュートレンジが極端に短い。小さいサッカーが習慣化している日本では、「シュートはペナルティエリアに入ってから打つものだ」という感覚が常識だからだ。

 しかもオフェンスの時だけでなくディフェンス時にもその認識だから、敵のボールホルダーがボックス外なら厳しく寄せに行かないことも多い。結果、海外のチームと試合をすると簡単にミドル〜ロングシュートを決められてしまう。

 すべてはいかにも日本人らしい、小さいサッカーの感覚ならではだ。日本が世界に勝つためには小さいサッカーから卒業し、日本人に身に付いてしまった独特の距離感をまず修正する必要がある。

ハリルは日本人の「小さいサッカー症候群」を見抜いた

 そんな日本の代表監督に就任したのがハリルホジッチだった。彼は対戦チームを事前にスカウティングし、弱点を分析するのに非常に長けている。そんなハリルは日本人の欠点をひと目で見抜き、「まず小さいサッカーを矯正する必要がある。それには大きいサッカーを習慣づけることだ」と考えた。で、ハリルは「縦に速く」とか「ひとつ飛ばして遠くにパスを出せ」と言い出した。

 だがなんせ日本は小さいサッカーの国である。ジャーナリストから代表選手に至るまで、「日本人ならではの距離感が何より重要だ」と考えている。そんな日本人たちにはハリルの意図がサッパリわからない。かくて、「ヤツはただの縦ポン監督じゃないか」などと陰口が飛び交う始末である。

 やれやれ、ハリルという名の宣教師の布教は長引きそうだ。

 そもそも「強いパスを心掛けろ」などとハリルが今やっていることは、本来なら育成年代の日本人指導者が教えているべきことである。代表選手をロープで繋いでディアゴナーレとスカラトゥーラを教える、などというのもそうだ。それをなぜ今ごろハリルがA代表でやる羽目になるのか? どうも日本人選手のパスが弱い問題等は選手の責任というより育成システムに問題があるようだ。根は深い。

「自分たちのサッカーができなかった」とは?

 忘れもしないあのブラジルW杯。日本代表選手たちが口々に唱えていた「自分たちのサッカー」なるものは、つまりは小さいサッカーのことだ。すなわち「自分たちのサッカーができなかったから負けた」というのは、「自分たちの小さいサッカーが世界に通用しなかった」ことを意味している。

「自分たちの小さいサッカー」は世界に通用しない。

 日本人は、まずそこからスタートするべきだ。

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【サッカー日本代表】日本人には「大きなサッカー」という概念がない

2016-12-12 05:00:00 | サッカー戦術論
僕らはショートパスが大好きだ

 日本人が考える理想のサッカーは、ショートパスやワンツーが連続してつながる流れるようなパスサッカーだ。

 ショートパスをつなぐには、複数の選手同士が近い位置にポジショニングし、たがいにパスのコースを作る必要がある。それを実現するには、まず味方のボールホルダーに近寄ってやること。だから必然的に日本人のサッカーは「小さなサッカー」になる。

 小さいサッカーをやるには、どうしても一定の「距離感」が必要になる。ゆえに日本人には、SBから逆サイドに開いたウイングまでダイアゴナルなピンポイントの長いサイドチェンジを入れるような発想などないし、またそんな技術も備わっていない。

 そこにハリルホジッチと名乗る伝道師が黒船に乗ってやってきて、「大きいサッカーをするように」と布教を始めた。「お前ら、それでは世界に勝てないぞ」と彼はいう。

「可能なら、ひとつ飛ばして遠くへパスをつけろ」

「敵味方の配置を見てみろ。この局面は速攻カウンターのチャンスじゃないか。なぜ縦に速くボールを入れないんだ?」

 伝道師は日本サッカーという「小さなサッカー」を破壊するデストロイヤーだった。自分らの理解を越えることを言われ始めた日本人たちは、意味がわからず路頭に迷った。

 日本人に技術がないせいで裏を狙うロングボールがミスパスになるのを見て、「なんだ、ハリルジャパンはただの放り込みじゃないか」という者もいる。ある者は伝道師を指差し、「あいつの宗教はまちがっているんじゃないか?」とまでいう。

 だがそもそも小さいサッカーという「クセ」のついた日本人を変えるのは大変だ。考えてもみるがいい。貧乏ゆすりを直すのがいかに難しいことか? ゆえにハリルの日本人改造計画は、まだまだ道半ばである。

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【サッカー日本代表】描いたシナリオが実現するか? そこがハリルの「快楽のツボ」だ

2016-12-09 10:49:09 | サッカー日本代表
対戦相手をスカウティングし丸裸にする

​ ハリルが考えるサッカーには綿密なシナリオがある。

 ハリルは対戦相手をあらかじめ念入りにスカウティングし、前もって試合の青写真を描く。相手はこんなサッカーをしてくる、だったら自分たちはこういう対策で臨もうーー。その描いたシナリオが試合当日にそっくりそのまま実現し、まんまと本番で勝ちを収めること。それこそがハリルにとっての自己実現である。

 対戦相手が思った通りのサッカーをし、事前に作ってあった対抗策がうまく功を奏する。ほら思った通りだ、ヤツらは罠にかかったぞーー。ハリルにとって最大の喜びはそこだ。自分の作ったシナリオが通用するかどうか? 試合のたびに彼はそこで充足する。

 ゆえにハリルはポゼッション率などにはこだわらないし、鮮やかにパスをつないで美しく勝とうなどとも思っていない。縦ポンであれドン引きであれ、事前に自分が立てたシナリオ通りにコトが運ぶかどうか? それによって計画通り、勝利の美酒に酔えるのか? そこがハリルの「快楽のツボ」なのだ。

 すなわちハリルにとって監督をやる醍醐味は、シナリオライターとしての自分の正しさを証明することだ。スカウティングによって描いた台本が正しく機能し、いかに実戦でその通りに実現するか? 自分の事前分析がいかに的を射ているか? 勝つことによってのみ、それは証明される。

 だからハリルはかたくなに勝利にこだわる。ハリルにとって勝つことは、自分の描いたシナリオに勲章が捧げられるに等しい。だからハリルは今日も勝ちをめざす。自分の正しさを証明するために。

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【CS決勝第2戦・分析】何が浦和レッズを崩壊させたのか?

2016-12-05 08:56:42 | Jリーグ
攻めるしかないチームのこわさ

 Jリーグ・チャンピオンシップ(CS)決勝第2戦は、厳しい心理戦だった。

 条件はもちろん、第1戦で勝っていたホーム・浦和レッズのほうが有利なはず。アウェイゴールも含め、すべての環境が浦和に微笑んでいた。だが、あとがなく「行く」しかない鹿島が勝ち、攻めるのか守備的にやるのか迷いが生じた浦和が敗れた。選択肢のない土壇場の状況が鹿島の選手を思い切りよくプレーさせ、逆に試合の進行とともに浦和は歯切れが悪くなって行った。

 そんなメンタルの差が鹿島伝統のしたたかさと勝負強さを引き出し、次第に浦和を心理的に追い詰めて行ったーー。ひとことでいえばそんなゲームだった。終盤のパワープレイをめぐるドタバタが、この日の浦和の「心の混乱」を象徴していた。

戦い方がわかりやすかった鹿島

 追い込まれた鹿島は戦い方がわかりやすかった。やるべきは2点取ること。ゲームプランがはっきり明確だった。そのぶん強い求心力が働きやすく、目標達成をしやすくさせた。逆に攻めるのか、守るのか下手に選択肢があるぶん浦和のハードル設定はむずかしく、それが鹿島を後押しした。この試合は個々のプレイのディテールよりむしろ、そんなメンタルの戦いだった。

 もちろんゲーム以前に年間1位の浦和には、チャンピオンシップですべてが決まる割り切れないレギュレーションと向き合い、葛藤し、まず心で打ち勝っておく必要があったことも無視できない要因である。

鹿島のハイプレスが浦和を圧迫した

 また浦和には物理的なプレッシャーもかかった。

 この日、攻撃的に行くしかない鹿島が前線から積極的にハイプレスを仕掛けてきたため、浦和は心理的に強い圧迫を受けていた。前から激しくプレッシングされ続け、浦和の選手はせわしなく、落ち着きないプレーに追い込まれた。

 例えばずる賢くバックパスを使って最終ラインでボールを回し、時間をうまく使ってゲームを落ち着かせるような試合運びをするのが浦和にはむずかしかった。終始チャレンジャーである鹿島の影におびえ、自分たちのペースで試合ができなかった。

 この心理的プレッシャーが試合のあらゆる局面で強く作用し、最後は足を伸ばせばボールに届いた鹿島と、届かなかった浦和との差を作り出した。フットボールは戦術やフィジカル以前に、メンタルで6割が決まるのだ。

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【Jリーグ・CS決勝第2戦】ドーハの悲劇ふたたび 〜浦和1-2鹿島

2016-12-04 07:56:29 | Jリーグ
勝ち試合を勝ち切れ

 試合運びのまずさで初めてのW杯出場を逃した「ドーハの悲劇」を見ているかのようだった。

 カウンターを食らい、PKを取られたあの浦和の失点シーン。浦和は1-1のまま試合を殺せば優勝できるというのに、敵陣に7人もの選手がなだれ込み前がかりになっていた。

 なぜそんな必要があるのか? しかも時間帯は後半31分だ。もしハリルなら、守備的にゾーンを低くして自陣にブロックを作る時間帯だっただろう(そして世間の非難を浴びるのだ・笑)。すべては「守りに入るのは悪だ」という純粋無垢な日本人ならではのメンタリティゆえ。ズルさがない。

 ドーハの悲劇では最後のロスタイムに失点し、94年アメリカW杯出場を逃した。

 あのときも「日本の選手はコーナーに向かってドリブルするなど、うまく時間を使うべきだった」などと世間の批判を浴びた。だがラモス瑠偉は89分50秒にリスキーな縦パスを入れ、カットされて失点の要因を作った。勝ち試合を勝ち切るための試合運びがずいぶん議論された記念碑的なゲームだった。

 Jリーグは、あの20年前のドーハの悲劇からまったく進歩してないのだろうか?

 愕然とさせられた試合だった。

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【サッカー日本代表】ムダな走りが生む日本の決定力不足

2016-12-03 10:48:39 | サッカー日本代表
原口のハードワークには胸が熱くなるが……

 ロシアW杯アジア最終予選。サウジ戦で原口があれだけの長い距離を上下動して守備に奔走するのを見て、名著『世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス』(宮崎隆司著/コスミック出版)を思い出した。同書では随所に「日本人は守備の原則を無視したムダな走り方をして体力を消耗する。だから肝心のシュートの場面で力を出し切れない」という指摘が複数のイタリア人監督によって緻密な分析とともになされている。

 確かにサウジ戦の映像を何度も見直すと、原口が決定的なシュートシーンで軸足がガクッと折れてシュートをふかすなど決められない場面が何度か出てくる。守備に力を使い果たし、シュートを打つ時に力が残ってないのだろう。実際、彼はサウジ戦であと2点は取れていたかもしれない。

 原口はトランジションに優れ、攻撃だけでなく守備にも八面六臂の貢献をしている。それこそ我が身をすりつぶすような彼のハードワークがチームを鼓舞し、それを見てメンバー全員が「やってやるぞ!」と士気を煽られている。明らかに原口は今の日本代表のエンジンだ。だからもちろん原口の働きに異議を唱えるつもりは毛頭ない。

 だが同時に滅私奉公を有り難がる日本人は、とかく走りの「質」ではなく「量」に目を奪われがちなのも事実だ。それが有効かどうかでなく、とにかくたくさん走れば「すごい!」「すさまじい!」と絶賛する。ある種、カミカゼ・アタック的なメンタリティである。

 だが例えば相手ボールに変わったとき、すぐ切り替えて「その場で」守備をするだけでは不十分か? 敵のサイドアタッカーが攻め上がってきたとき、ずっとそれに並走して自陣まで引き、最終的には味方バックラインにまで吸収される原口のあの劇的な上下動は、マークを受け渡すことでもっと効率的にできないのだろうか? そうすれば原口はシュートの場面で余力を持ってもっともっと力を出せ、さらに2点、3点取れるようになるのではないか? そんな気にさせられた。

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【サッカー日本代表】ハリルは日本に何を残すのか?

2016-12-01 09:29:49 | サッカー日本代表
日本サッカーの日本化は行われない

 ハリルのサッカーは、まず自分のスタイルが先にあるのではない。相手を見て考えるサッカーだ。まず対戦相手の特徴をつかみ、彼らの良さを消す。相手に力を発揮させないためにはどうすればいいか? を考える。そしてスカウティングに基づき、対戦相手に応じてその都度カメレオンのようにやり方を変える。まず相手ありきのサッカーである。

 ではこのサッカーを2年続けたとき、日本には何が残るのか?

 少なくとも、これまで代表監督が替わるたび毎度続いた「日本が世界で勝つための、日本らしいスタイルとは何か?」のような遠大な問いに対する答えは得られないだろう。日本サッカーの日本化は行われない。なぜならハリルは特定のスタイルで戦うわけじゃないのだから。

 とすればハリルジャパンは日本に何をもたらすのか?

 あえてネガティブな言い方をすれば、「目先の1試合」に勝つためだけの小細工が手を変え品を変えロシアW杯まで続いていく。「日本サッカーがめざすべきスタイルは?」のような総論に対する答えは出ない。収穫があるとすれば各論の方だろう。つまり相手に応じたさまざまなやり方を学べることだ。戦況に応じた試合運びもあれこれ経験できる。そしてロシアW杯が終われば、いろんなバリエーションの戦い方がデータベースとして日本に残る。それはそれで有意義なことだ。

 だが大きな木の幹が根付くのでなく、得られるのは枝葉の部分(ディテール)ではないか? いや別にだからハリルを解任しろとかいう話じゃなく、「ハリルと仕事をする」ということが何を意味するのか、日本人はしっかりわかった上でやったほうがいいと思うのだ。

 とすれば逆に、今度は選手が自分で考える必要が出てくる。日本人の特徴を生かした、日本がめざすべきサッカーとは何か? 人に教えられるのでなく、自分の頭で考えるーー。能動的に考えることこそが日本人には決定的に欠落している。それをハリルに気づかされるような気がしている。

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