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佐伯一麦『日和山-佐伯一麦自選短編集』2014・講談社文芸文庫-真摯に生きること

2024年03月15日 | 小説を読む

 2018年秋のブログです

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 先日、佐伯一麦さんの『空にみずうみ』を読んで、とても良かったので、今度は本棚の隅にあった同じく佐伯さんの『日和山-佐伯一麦自選短編集』(2014・講談社文芸文庫)を再読してみました。

 4年ぶりの再読です。

 こちらも良かったです。

 表題作の「日和山」は東日本大震災からまもなくの仙台を舞台に書かれていますが、地震や津波、停電、断水、原発などの不安に慄きながら生活をする普通の人々を書いていて、秀逸です。

 しかも、それらの不安の底に、津波で流される人々を目撃してしまったこころの外傷も冷静に描きこまれていて、佐伯さんの問題意識の鋭さを垣間見せます。

 震災から7年、原発の問題はなかったかのように扱われ、再稼働が横行し、また、今回の地震で停電が大問題になっても、電力会社や政府は責任を取らず、市民に節電を呼びかけるという破廉恥なことを平気でしていて、年寄りや子どもには住みにくい国になろうとしています。

 そんな絶望的な中、アスベストによる喘息を抱えながら、佐伯さんは温かい目で世の中と人々を見つめ、丹念に文章を綴っていて、すごいな、と感心させられます。

 少しでも見習いたいな、と思います。

 なお、他にもとても良い小説が並んでいて、読後感がとてもいいです。

 個人的には、別れた父子の面会交流が描かれた「青葉木菟(あおばずく)」がいいなと思いました。

 3年ぶりに会った小学生の息子の好物を忘れてしまった父親のばつの悪さとそれをかばう息子の健気さを読んでいると、涙が出てきました。

 別れた親子の面会交流が純文学の小説に描かれるのは、まだまだ数少なく、貴重な小説ではないかと思われました。

 またまた良質の小説が読めて、幸せだな、と思います。   (2018. 10 記)

 


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