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ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命

2017年12月22日 | 映画

第2次世界大戦中のポーランド・ワルシャワで、300人ものユダヤ人を匿い、命を救った動物園長夫妻を描いた実話に基づくドラマ。ジェシカ・チャステイン主演、「クジラの島の少女」のニキ・カーロが監督を務めています。

ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命 (The Zookeeper's Wife)

1939年、ポーランド。アントニーナ(ジェシカ・チャステイン)と夫のヤンは、ワルシャワで大きな動物園を営んでいましたが、ドイツがポーランドに侵攻し、爆撃によって動物園が大きな被害を受けます。さらに猛獣たちが安全のために射殺され、希少動物はベルリンの動物園へと移送されてしまいました。

一方ユダヤ人たちは市内のゲットーに強制収容され、劣悪な環境の中で不当な扱いを受けていました。友人のユダヤ人も連れ去られ、惨状を知ったヤンとアントニーナは、できるだけ多くのユダヤ人たちをゲットーから救い出し、動物園に匿う決断をします...。

ジェシカ・チャステイン主演ということで楽しみにしていた本作。はからずも先日読んだ「また、桜の国で」と同じく第2次世界大戦中のワルシャワが舞台だったので、さまざまな場面を重ねながら見ていました。小説でも描かれていたゲットー殲滅やワルシャワ蜂起は、映像で見るとよりいっそう衝撃が胸に迫りました。

「クジラの島の少女」のニキ・カーロ監督とあって、アントニーナと動物とのふれあいもどこかスピリチュアルで神々しく感じられました。序盤でパーティの女主人として客人をもてなしていたアントニーナが、突然のトラブルに園舎へと飛び出し、呼吸困難に陥った子象を助ける場面には、彼女の生き物に対する深い愛情と、確固たる信念が伝わってきました。

ナチの目をごまかし、ゲットーに収容されたユダヤ人をどうやって助けるか。ヤンが考えたのは、動物園で養豚をはじめることでした。生ごみをエサとしてもらい受けるためにゲットーに出入りし、ユダヤ人をゴミの下に隠して連れ出します。夫妻の家の地下室でしばらく匿い、のちに別の仲間が機を見て彼らをトラックでより安全な場所へと避難させるのです。

ヤンとアントニーナの行いも尊いですが、他にもユダヤ人たちを助ける仲間たちがいたことに感動しました。夫妻の家で一時避難していたユダヤ人たちをより安全な場所へと連れ出す仲間たち。あるいは、彼らが逃亡するのに必要な偽の身分証明書を用意する仲間たち。

夫妻の家には事情を知らない家政婦さんが通ってきますし、動物学者のヘック(ダニエル・ブリュール)をはじめ、バイソンの交配実験のためにドイツ軍が毎日動物園にやってきます。彼らの目をごまかしてユダヤ人たちを匿うのは至難の業で、何度もハラハラする場面がありました。

アントニーナが安全・危険を知らせる合図として使ったのがピアノというのも心憎かった。夜、アントニーナのピアノにあわせて地下でひっそりと隠れていたユダヤ人たちがほっとした表情でリビングに集まってくる場面は、つかの間の平和を感じるシーンでした。

一方、季節外れの雪が舞うシーンはあまりに衝撃的でした。雪と思ったのは実は灰で、よりによってユダヤの祝日にあわせて、ナチがゲットーを焼き払ったのでした。真相を知ったユダヤ人たちが、悲しみの中で祈りを捧げる場面は、本作の中で最もつらいシーンでした。

最初はアントニーナの美しさと聡明さに惹かれながらも、あくまでよき友人として接していたヘック。しかし危険な任務を全うするためにアントニーナはヘックの恋心を利用し、ヘックもまたナチとして徐々に高圧的な態度を見せるようになります。

ヘックがとうとう隠れ家のことを知っても、彼はアントニーナの家族に銃を向けることはありませんでした。それは彼の愛だったのかもしれないし、彼が最後まで失わなかった良心だったのかもしれません。

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