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たかが世界の終わり

2017年12月29日 | 映画

DVDで鑑賞。グザヴィエ・ドラン監督、製作、脚本、編集による家族の葛藤を描いたドラマです。ギャスパー・ウリエルが主演しているほか、フランスの名優たちが共演しています。

たかが世界の終わり (Juste la Fin du Monde / It's Only the End of World)

名画座の目黒シネマで「マイ・マザー」と「Mommy/マミー」の2本立てを見て以来、グザヴィエ・ドラン監督の密かなファンで、すべての監督作品とほとんどの出演作を見ています。本作は今年の公開時に気になっていたものの、口論するシーンが苦手なので見るのを躊躇していました。

でも実際に見てみたら、これまでの作品で一番好きかもしれないと思いました。フランスの名優たちが競演していて、作品の世界に入り込みやすかったというのもありますし、荒削りのところがなく、より洗練された作品になっていたように思います。

主人公は若き劇作家ルイ(ギャスパー・ウリエル)。彼は自分の死期が近いことを知り、そのことを家族に伝えるために12年ぶりに故郷の実家を訪れます。しかし彼にとって故郷は懐かしく思い焦がれる場所ではなく、家族は決して安らげる存在ではありませんでした。それをドランは、オープニングの曲で表現しています。

Camille - Home Is Where It Hurts (You Tube)

Home is not a harbourという歌詞が胸にぐさりと響きます。家では、うれしさのあまりおしゃれして舞い上がり、ルイの好物を用意して待つ母(ナタリー・バイ)、幼い頃に別れたのでほとんどルイを覚えていなくて緊張気味の妹(レア・セドゥ)、

なぜか不機嫌な兄(ヴァンサン・カッセル)、初対面で不安そうな兄嫁(マリオン・コティヤール)がルイを出迎え、ぎこちなく会話がはじまりますが、やがていつものように言い争いとなり、ルイはととうとう告白するタイミングを逸してしまうのでした。

ルイは寡黙ででデリケートな青年。一方、家族のキャラクターは(唯一血のつながりのない兄嫁は別として)ものすごく濃い。ルイが12年前に家を出た理由については明らかにされませんが、彼は家族、特に粗野でひがみ根性の兄とは全く理解しあえず、きっとここに居場所はなかったのだろうな、と想像します。

死を前にして、ひょっとしたら関係を修復できるかもしれないという淡い期待が、ルイの中にはあったのかもしれないですが、それは脆くも崩れ去ってしまったのでした。モービーのエンディング曲がそんな彼の孤独を歌います。

Moby - Natural Blues (You Tube)

デビュー作の「マイ・マザー」から一貫して、自らの同性愛者というアイデンティティと、母との愛と確執をテーマにしてきたドラン監督。本作は美しい5人の俳優の丁々発止のやりとりが、スリリングな緊張感を生み出していて見応えがありました。まるで舞台劇みたいと思って見ていたので、戯曲が原作と知って納得しました。

(映像を出演者とチェックしているドラン監督)

ドラン監督といえば、2015年に大ヒットしたアデルのミュージックビデオも印象的。モノクロームの映像はまるで短編映画のようです。そしてこれまで年上の女性たちを魅力的に撮ってきたドラン監督らしく、このビデオのアデルは最高に美しい。

Adell - Hello (You Tube)

ドラン監督の最新作「The Death and Life of John F. Donovan」は彼が初めて手掛ける英語作品で、ジェシカ・チャステインとナタリー・ポートマンの出演が決まっています。(ciatr) 今からとっても楽しみです。

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