こうして書くと理屈っぽくって堅苦しいが、「押せば映る」で誰でもスタートできるので92歳のばあちゃんから4歳の子どもまで老若男女の人々が住民ディレクターとして気楽に活動している。自由だから組織の掟やルールはない。あるとしてもそれも自分たちで一から作り上げることが地域活動だ。番組を作るが、「作るプロセスで地域活動に役立つ総合的な企画力を身につけることが目的」で、できた「番組はオマケ」だ。番組が目的ではないので「放送、配信の締め切りの恐怖」に悩まされることはない。暮らしや生活、活動が中心だから当日実際の民放番組のリポートをする予定だった人が急遽「子どもが風邪で病院に行くので(今日は)やれない」や「子牛が生まれたから今日は行けない」というのは全部OK。誰れかが代わりにやってあげることが地域活動だ。助け合うネットワークを紡ぐことが番組制作の大事なプロセスで番組作りに振り回されることなどやらない。というとかなりいい加減な番組のように見えるが、実はこういう姿勢に徹するからこそ「オマケの番組がとても美味しく」なる。
実際、熊本で私がプロデュースしていた民放番組では夕方のニュースワイドのコーナーで常時10%を超え、時には13.5%の視聴率もとっていた。村民制作ドラマがゴールデンタイムで放送されたこともあるし、正月番組のど真ん中で一時間番組を完全オリジナルで制作、共感や感動の声がビッシリ書かれた430通あまりのハガキが役場に殺到した例もある。私も一員として手伝っているがあくまでサポーターだ。企画、制作の中心は活動している住民だ。こういう話をして先日関東版の朝日新聞(10月19日付け:写真)に大きな記事が掲載された。杉並区の住民ディレクターが衛星放送番組を制作する講座の模様を取材してもらったのだ。取材してくれた記者さんも随分悩んだと聞いているが、まさにそのプロセスが肥やしになったと思う。しかし、新聞記者の場合は通常は書いたらおしまいだ。次の話題(ネタという言い方は嫌いだが業界ではいまだにネタという)探しに血眼になる。関わったときは凄い集中力でその活動を理解するが、書いたらいち早く忘れる。その証拠に記事が出た後にこちらに新しい動きがあっても「この前書いたばかりだからしばらくは書けない」のだ。住民ディレクターは違う。(今回の記者さんも違った。自分も実践しておられるのだ)継続した動きこそ、民放の中でも何回も何回も「続けて伝えることを良し」とする。発信したことはその時から責任を持つ主体だから、新たな展開があるとそのプロセスを伝えることを大事にする。地域活動の生成過程こそ住民同士で役立つからだ。順調だった活動が紆余曲折している時も、その課題を伝える。うまくいったことばかりではない。
さて、どうだろう?「住民ディレクター」と「市民ディレクター」の違いは理解していただけただろうか?もうひとつ村民や町民が多いから「住民」としているのではない。杉並「区民」も京都「府民」もいるが、スタートした11年前こう考えた。日本中、世界中見渡してもまだモデルになるような主体的、自律的な住民(市民)が運営するコミュニティ(市民社会)はどこにもない。ということは自律的な住民をさす「市民」や、市民が主体的に運営する「市民社会」はないので現段階では世界中にいるのは「住民」だ。この「住民」がいつか「市民」になるような活動をまず自分から始めよう。世界中の住民の仲間と一緒にやっていこう。・・・、そして、平成8年の春、熊本県山江村から「住民ディレクター」は始まった。第1号は農家の松本佳久さんだ。第0号を自称するのは同じく山江村の現村長、内山慶治さんだ(当時役場職員)。この活動をスタートし、このような生活、仕事、暮らしが普通の日常になった私もやっと一人前の住民ディレクターになったかもしれない。
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