第28回「軍師官兵衛」で「本能寺の変」を知った官兵衛が秀吉に「ご運が開けたのですぞ」と語り、毛利方の安国寺恵瓊に信長の死を知らせ、「羽柴様が天下に名乗りをあげる好機が訪れたのでございます」と和議を迫ります。
多くの皆さんがこの恵瓊とのシーンに疑問を投げかけておられるようです。しかし、そうだろうか?!わたしにはとても自然に見えました。恵瓊は官兵衛と最初に会った当初からなかなかの策略家として描かれている。毛利方の外交僧で官兵衛の行く手を度々邪魔する憎き奴!!、しかし官兵衛と交渉を重ねるうちにいつしか秀吉の器を認め、好感さえ持つようになっていった。大河ドラマの複線としては随分前から恵瓊は「信長は許せんが秀吉様には惚れている」はインプットされてきていた。
しかし恵瓊の立場は毛利方で、秀吉とは敵、毛利方として対信長調略をすすめた。・・が、信長の勢力が巨大になるにつれて毛利方には不安感が漂いはじめる。そして高松城攻めに至る過程でいよいよ軍師としての官兵衛のスケールの大きさも認めざるを得なくなっていった。水攻めという前代未聞の戦術で毛利方の最後の忠臣、清水宗治までも失おうとしている。毛利の実質の精神的支柱小早川隆景も官兵衛を信頼しはじめていた。そこへ日本全土を揺るがすメガトン級の情報「信長の死」を知らせての和議のお誘いである。
恵瓊にしてはこれに乗じて一気に毛利が京を目指す好機でもある。しかし一方で長期的な展望を考える。ここで足腰が弱った毛利を救い、お家を立て直すには・・・。信長ではなく秀吉をトップにできるなら明智や柴田勝家、家康・・の誰よりも後々、付き合いやすい。俺がぞっこん惚れ込んで来た奴が天下を取るんだ。これこそ最大の好機だ!!・・・、官兵衛はそこまで恵瓊という人間の心を洞察した。
ずっとそうだった、人からは調略や策略と言われても常に考え抜いて相手方見方側の双方が最も少ない被害で収まるように行動して来た。最後は直球で勝負して来た。それでも相手方に通じない時はやむなく最小限の犠牲で済むように・・、「それが俺という軍師のやり方だ。半兵衛様に身をもって学び取った。」
時刻を少し遡る。前夜、いち早く信長の死を知らせる密書を手にした官兵衛は栗山善助に命じ、誰も寄り付けず一人自室に籠って必死で考える。絶望的な状況にうめきだすような雄叫びとなった。
もし、その時、自分が官兵衛なら・・・、愛する光姫、長政、熊之助、忠臣とその家族の顔が次々と浮かんだろう。村重の妻で残忍な殺され方をした「だし」や戦場で殺さざるを得なかった多くの武将や百姓や女子供も映ったのではないか?光秀の天下となればすでに秀吉と共に討たれる側になってしまっている黒田、運命は猛スピードで決まりつつある。光秀は再々自分を家臣にと誘った、しかし、時は既に遅い。勿論、秀吉様を裏切ること等絶対ない。何ができるか??その瞬間に向かうべきことは一点、ただ一点に集中するしかない。この絶望的な状況を打開する今すぐ打つ手は??頭蓋骨がキリキリ音を立てるように痛み、全身が洪水のように汗びっしょりとなるほど全身に集中して考えた。しかし、その姿は誰にも見せない。一人である。
そして、決断の時、時間はない。秀吉、恵瓊と今、この時に全生命をかけて真心で伝えるべきはこの二人しかない。一世一代の大勝負に出た。「軍師」官兵衛ここに極まれり!!
昨日ドラマについて書きましたが、まさにドラマは自らが現実のようにそのドラマの中を生きること。虚構であるが故にそこで様々な人生を選べるが、ドラマとしてはやはりひとつの道を選ばざるを得ない。そうすると周囲の者がどう動くか?想像力の世界です。恵瓊とのシーンで「おかしいなあー?」とわたしがおもわなかったのはあの密書を手にしたその時、自分も密書を手にして「今、どうするか?」を生きたからです。「生きよ」のメッセージが「軍師官兵衛」のテーマだと感じ、毎回多くの「死」を前にして生きることを学べる「軍師官兵衛」はわたしには大変おもしろい。「官兵衛で國創り」という追走番組をやり続けられるのもこういう楽しみがあるからだとおもいます。