成田から北京は3時間ほどだ。そうしてみれば、私が熊本から、または東京から高知県の黒潮町に行くよりはずっと早い。昨日たまたま黒潮町のHPをみていたら東京からは5時間30分?と書いてあった。帰国後は隠岐に行く予定があるがここも恐らくまだそれ以上かかる。アジアの国のことを日本は「近くて遠い国」という表現をよくするが北京に来てみて改めて「近くて遠い國」「地域」を感じる。たまたま今回は北京のど真ん中だから東京と比較するローラースケートの話になってしまったが、日本でも黒潮町をはじめ全く異なった生活空間が山ほどある。北京で車が増えたり、女性の服装が軽くなったり、ローラー青年が現れたりという都会化は、結局、環境問題に行き着く話になっていくのだろう。
テレビ局時代制作した番組でもっとも印象に残っているうちのひとつが11PMという番組だ。30代後半の方ぐらいまでは知ってるかもしれないし、テレビに関心がある若者は名前を聞いたことがあるかも知れない。私は藤本義一さん担当の11PM(大阪イレブンといっていた)で熊本に来てもらい、とんでもない番組を作った。11PMは日本のテレビの草創期からある著名な「H」番組だ。エロ、グロ、ナンセンスの時代も常に時代をリードしてきた番組だ。・・・ということになっている。今は、このような先進的な番組の果たした役割の+と-を考えるとテレビ局時代とは評価が大きく変わってきている。これはまた別の機会に。で、この番組で何をやったかというと、「水俣病」、「無農薬農業」、「体験型の新しい観光」の3つだった。しかもこの番組のリポート役には当時業界では相当評価が高かった「くまもと映画祭」のリーダーだった。
企画段階で蹴られるかもしれないと思ったが、読売テレビのプロデューサーやディレクターは大いに喜んでくれた。当時、実に先進的でチャレンジングな男たち(といってもまだこっちも同じ年頃だ。30代半ばか?)がいっぱいいて熊本だけでも飽きないほどだった。水俣は水俣病を現地で学びつつ裁判の支援をしたり、農業をしながら自分の生き方を考える水俣生活学校というのがあった。ここに私はスタッフと入り込み取材した。水俣病のドキュメンタリーはすでに名作が山ほどあったが、基本は患者さんの視点で(勿論、一番大事な視点だ)問うた番組が多かった。私は、自分自身が熊本に来て初めて発見した様々な感覚をそのまま生かして番組を作ってみたいと思っていた。11PMはまさに格好の番組だった。まさかあの11PMで真っ向から水俣病を扱うなどとは誰も思ってないだろう。しかも、日頃「H」を追いかけて日本文化のリーダーといっているこの番組のメインキャスターの藤本義一さんも一緒になって水俣病を考えるのだ。企画を練っているだけでワクワクしてきた。
水俣生活学校の校番(事務局長的な役割)をしていた柳田氏とは水俣病の患者さんが海を離れて甘夏を作り始め、都市部や学校給食に販売をし始めた頃から取材を続けていた。水俣に行けば朝まで飲んでは世界の現状を聞き、最後は屋根の上で雄たけびを上げるようないかにも肥後モッコス的な人だった。番組にも登場してもらい、藤本義一さんと実にテンポよく、マイペースで語っていた。日頃のままだ!!まさにこの時、柳田氏の語り口がいつもの水俣で話す時の口調と変わらないのを発見して、「これだ!」と思った。住民ディレクターの日常そのままの表現を大事にするというのはまさにこの頃から感じていたのだ、と今書きながら発見した。藤本義一さんは勿論だが、実に人の話を聞き出すのがうまいし、これは芸でもタレント性でもなくご本人の性格だと感じた。ゲストとなったほかの二人、リポーター役の映画祭のリーダーなど全員が同じくだったので、テレビ局のスタジオが水俣と阿蘇と天草、そして大阪(藤本さん)の日常が見事にチャンポンされた。実に興味深いことが起こった。(つづく)
(写真は北京のローラー青年)
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