クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

耕一物語ー一文商い屋の女

2014-11-18 18:18:06 | 物語

夏子が住むその家は、車通りの多い県道沿いに建っていた。

その県道をはさむ広大な土地は、千倉で指折りの地主の敷地であり、その地主は材木商などを営む資産家であった。

夏子は、その資産家の娘であった。

その夏子がどうして雑貨屋などやっているのか・・・・・。

 

 

夏子は出戻り女であった。

嫁ぎ先から離縁されて、子連れで実家に帰ってきたという。

余程のことがなければ、千倉一の資産家の娘が離縁などされるものではないが、余程のことがあったのだろう。

彼女は5歳になる子供を連れて実家に戻ってきた。

戦後のその当時、働き盛りの男の多くは戦死しており、女性が良縁を得ることは難しかった。

従って、子連れの出戻り女が再婚できる可能性はほとんどなかった。

そんな娘のために、資産家の父親は県道沿いの敷地に家を一軒建て、雑貨屋として生計を立てるよう面倒みたのだった。

雑貨屋は「一文商い屋」とも云われ、素人でもできる商売であった。

 

 

 

田舎街のその小さな雑貨屋は、地元で取れた季節の野菜や果物なども売っていた。

仕事が無かった日の午後、耕一はその雑貨屋の前を通りかかった。

店先に、おいしそうな柿がダンボール箱に入れられて売られていた。

柿は耕一の大好物であった。

《買っていってどこかで食べようかな・・・》

耕一は、立ち止まって柿を手にとってみた。

すると、店の中から女の声がした。

「お兄さん、その柿とてもおいしいよ。オマケしてあげるから買っていって頂戴な」

耕一は、ザルに柿を数個入れて、店の中に入って行った。

「あら、あんた、もしかして房丸の機関長さんかい?」

店の女がそう云った。

千倉の町では、耕一は既にかなりの有名人であった。

「ええ、そうですけど・・・」

いつものことなので、耕一は特段気にする事もなく応じた。

「あらあら、まあまあ、機関長の耕一さんかい。噂では聞いていたけど、あんた良い男だね・・・」

「・・・・・・」

「その柿、ぜんぶ持ってっていいわよ。今日は、私のプレゼント」

「いやいや、そういう訳には・・・・」

「いいからいいから。それよりあんた、今まで色々と苦労したんだってねぇ。横浜の話も噂で聞きたいわょ。今お茶を入れるからさぁ、すこしゆっくりしていきなよ」

耕一は、女に手を取られ、店の奥の居間に連れて行かれた。

昼寝をしていた女の子が、目を覚まして急に泣き始めた。

 

 

それが、夏子との初めての出会いであった。

ここにも、暗い過去を背負った、寂しい思いをしている女がいたのだ。

そして、その寂しさに人一倍共鳴する男がそこにいた。

 

 

続く・・・・。 

 

 


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3 コメント

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クロの部屋へようこそ (里山のクロ)
2014-11-20 06:39:16
お姫さま、天女様、おはようございます。

港港に女あり・・・・。
カッコいい海の男はモテルんですね・・・。
「据え膳食わぬは武士の恥」とかいう諺もありますが、まあ、ああいう状況ではしょうがないでしょうね。

でも、「行きは良い良い帰りは怖い」という言葉もありますから、これからどうなっちゃうんでしょうかね・・・・。
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私の知り合いは (chidori)
2014-11-19 18:39:45
ふと思いました。みなと港に女ありって、この事かしら?
私は夏雪草さんみたいにおませではないので、みなと港に女ありは、港には必ず女がいて、漁から帰る父ちゃんを待っているのかと思いましたよ。
私の知り合いの人は50歳で亡くなりました。みなと港に女がいたからだと、正妻が話していました。
よくわからないけど、女がいたら早死にするのですか?

次が楽しみです。

返信する
あらら (夏雪草)
2014-11-19 02:39:07
こんばんは。

正に、港、港に女ありですね。
困ったものですねぇ(笑)
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