愛友丸は、本牧(ほんもく)埠頭沖に投錨した。
すでに真夜中である。
板長が作ってくれた夜食を食べると、船の仲間はそれぞれ寝床に入った。
それから2時間後、静まりかえる船内を、耕一は音もなく甲板に上がった。
外は闇夜で何も見えない。
数百メートル先に、埠頭の明かりが小さく見えた。
聞こえるのは船に寄せる波の音だけだ。
耕一は、着ている衣類を脱いでパンツ一丁になった。
脱いだ衣類と靴、そしてお金が入ったビニール袋を風呂敷で慎重に包むと、それを頭の上に乗せて両端をあごでしっかり結んだ。
その格好のままで、甲板から垂らした縄梯子を伝って海に降りた。
春の海の水はまだ冷たかった。
耕一は、深呼吸をすると、静かに水の中へ身体を入れた。
そして、ゆっくりとした平泳ぎで泳ぎ始めた。
埠頭の小さな明かりを目指して・・・・・。
幸い、ほとんど波はない。
船中の誰かに感づかれさえしなければ大丈夫だ。
耕一は、祈るような思いで、ひと掻きひと掻き泳いだ。
30分ほど泳いで、ようやく埠頭まで半分くらいのところまで来た。
愛友丸を振り返ってみたが、特段の変化はないようだ。
耕一は海の中で一休みして、そして頭の荷物を縛り直し、再び泳ぎ始めた。
一時間後、耕一は本牧埠頭の岸壁をよじ登っていた。
愛友丸から追いかけてくる者はいない。
《やったぞ! 脱出成功だ!》
そこで一休みしたいところだが、休んでいるわけにいかない。誰かに見られたら不審者と間違われる。
用意したタオルで急いで身体を拭いて衣類を着た。
そして上着とズボンのポケットに札束を押し込んだ。
《地獄の沙汰もカネ次第だ。この札束が俺を護ってくれる》
札束で膨らんだポケットを確認すると、耕一は周りの様子を注意深く窺いながら、足早に歩き始めた。
続く・・・・・・・
そうですよね。頭に風呂敷包みを縛って・・・。
でも泳ぐにはそれしかなかったようですよ。
平泳ぎは、ゆっくり泳げば結構長い距離を泳げるんですよね。
なにしろ耕一の必死の脱出劇ですから・・・。
今日も有難うございました。
耕一さんが
頭に荷物を縛って・・・
その姿、想像したら時代劇に出てきそうな姿で、
ちょっと笑ってしまいました。
30分以上泳いでというのは、
かなりの距離ですね。
長距離でも泳げる人、羨ましい・・・(笑)