崖下転落事件から数ヵ月後、拙者はご主人様のお供をして山の中を歩いていた。
「クレソンが生育する沢の水源はどこか?」と、ご主人様は沢に沿って道なき道を上流に向かって歩いて行く。拙者はこのような場所は苦手である。ケモノの臭いがプンプンするのだ。あのイノシシの奴らが潜んでいる気配がプンプンとする。
拙者は両耳をピンと立てて、厳戒態勢を取りながらご主人様の後を歩いていた。その時、森の中で妙な気配がした。
「ワンワン!」と、ご主人様に注意喚起し、気配の方向へ向かって突き進んだ。
「おい、どうしたんだクロ!」
太めのご主人様はリードを持ち直し、あわてて後を追ってくる。
妙な気配は白骨となってそこに横たわっていた。
「何だこりゃ! 骨か? いや頭蓋骨だ・・・・ おおツノじゃないか!」
ご主人様は恐る恐るそのツノの先端に触れてみた。そしてそっと持ち上げた。
「随分と立派な鹿のツノだ・・・・・・。 これは里山屋敷の良い飾りになるわい。 クロちゃんでかした! ご褒美をあげよう」
「ワン!」
その立派なツノは、江戸屋敷の囲炉裏の壁に飾られた。
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