クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

耕一物語ー智子

2014-11-10 21:02:28 | 物語

船主の一人娘智子は、千倉でも評判の美人であった。

美人であっただけではない、気が利いて愛嬌があった。

高等女学校を出たばかりの智子は、千倉の若い男達の憧れの的だった。

 

 

その智子が、好奇心一杯の目を輝かせながら耕一を見つめている。

耕一はその眼差しに気づいていたが、わざと気づかないふりをして、ポケットからタバコを取り出して火を付けた。

「智子、耕一君にお酌をして差しあげなさい」

二人の様子を横目で見ていた父親が、娘にそう云った。

智子はにっこり微笑んで、熱燗の徳利を手に取ると、

「機関長、お疲れ様でした。一杯いかがですか」

と、耕一に勧めた。

「どうも・・・」

耕一は無愛想に杯を受けた。

智子は怪訝な顔をして、耕一を見た。

「どこかお体の具合が悪いのですか?」

「いや、そういうわけではないけど・・・」

 

 

その様子を、座敷の末席に座って、お酒を飲みながらチラチラと見ている若い男がいた。

借金をして、泣きそうな顔をしていた末松だ。

末松と智子は、小学校の同級生だった。

貧乏な漁師の倅で、腕白小僧だった末松は、ある時、智子に意地悪をして泣かせてしまった。

本当は、優しくして仲良くしたかったのだが、腕白小僧は照れくさくてそんなことはできないのだ。

その日の夜、末松は父親にこっぴどく叱られた。

「バカ野郎! 船主様の大事なお嬢さんを、いじめて泣かすとはなんということだ! あのオヤジさんの機嫌を損なって、房丸に乗れなくなったら、俺達は食って行けなくなるんだぞ。二度とあのお嬢さんにはチョッカイ出すな!」

末松はそれがトラウマになって、その日以降、智子には近づけなくなったのだ。

 

 

あれから10年近くが経った。

中学を卒業して漁師になった末松は、もう逞しい一人前の漁師になっていた。

そして、船主屋敷での宴席に、末席とは云え参加させてもらえるようになった。

その宴席に、末松が少年の頃から憧れていた智子が座っている。

すっかり女っぽくなった智子の姿を見ているだけで、末松の心は天にも昇る思いであった。

智子と話すチャンスはないだろうかと、その姿を追いながら、末松は酒を飲んでいた。

《だが、それにしても、機関長の智子に対するあの態度はどうしたことだ。もっと嬉しそうな顔をしても良いはずだが・・・」

末松も怪訝な思いで、耕一の顔を見た。

 

 

続く・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
羨ましい (ひげ爺さん)
2014-11-10 21:30:13
里山のクロさん、こんばんは。

まあ何と、耕一青年に好意を寄せる女性が次から次へと…
いい加減に一人に集中しろって、焼きもちを焼いています(笑。
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男心女心 (夏雪草)
2014-11-11 06:27:23
おはようございます。

無愛想な態度をとる人に限って、
好意を隠していること、
よくありますね。

子供の頃に、わざとチョッカイ出す男の子も、
今思えば可愛いものです。

智子さん、
案外末松さんと一緒になった方が幸せだったりして・・・
まだ誰と一緒になるか、わかりませんけどね(笑)
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羨ましい (里山のクロ)
2014-11-11 21:50:20
ひげ爺様、こんばんは。

本当に羨ましい限りです。
神様は不公平だと、つくづく思います。
でも、彼はこれから色々と大変なことになって行くのであります。

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男心女心 (里山のクロ)
2014-11-11 22:01:55
夏雪草姫、こんばんは。

男心を知り尽くしておられる姫には適いませんな・・・・。
でも、「男と女の間には、深くて暗い河がある・・・」とかいう歌がありましたが、なかなか想定通りには行かないのが、男と女の関係かも知れませんよね・・・・。
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まぁまぁまあ (chidori)
2014-11-12 05:24:06
里山のクロ様
これで、耕一がすぐ手や足を出しては物語は面白くないですね。
いや、私は、男心はわかりません。夏雪雪草さんのようなロマンチックなポエムもかけません。
ひげさんのようによだれを垂らす人はたくさん知っています。
如何に展開する多待ちましょう。
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なんですと? (ひげ爺さん)
2014-11-12 09:00:04
↑なんですと? ひげさんのようによだれを垂らす人?
カチ~ン(笑。 まいったなぁ(ガッカリ。
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まぁまぁまあ (里山のクロ)
2014-11-12 22:36:01
chidoriさん、こんばんは。

それはちょっと、と言うか、かなり、ひげさまを誤解されているのではないでしょうか・・・。
よだれを垂らしているのは拙者の方でございます。
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ありがとうございます (ひげ爺さん)
2014-11-12 22:46:10
里山のクロさん、助け舟、ありがとうございます。

こんなふうに思われていたのかと思うと、ガッカリして…・
言わずもがなのコメントをしてしまいました。 恥じています。
いやいや、里山のクロさんもそんな方では無いのは十分承知しています。
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