愛詩tel by shig

プロカメラマン、詩人、小説家
shig による
写真、詩、小説、エッセイ、料理、政治、経済etc..

2012年10月02日 10時23分52秒 | 

「ねえ、どこに行くの?」
 僕のシルバーのオープンカーは風を切って走った
「それは秘密さ」
「秘密?ぶー!」
 香織は不満げだ。
 でも僕は秘密にしておきたかった。
 いくつもの峠を越えたころ、香織は言った。
「ねえ、海の匂いがする」
「そうさ、目的地は海だ」
「やったー!私海大好き」
 車はヨットハーバーに到着した。
「乗れないの?」
「無論乗れる。二人乗りのディンギーだ」
 僕は真白いヨットの舫を解き、言った」
「さあ、先にのって」
 香織はこわごわ乗り込んだ。
「さあ、出発だ」
 僕は艇を押ししかるべき位置に座った。
 ところが肝心の風がない。
 艇は全く進まない
「どうしたの?」
「凪だ。こんな無風状態はとても考えられない」
「うふふ、あなたっていつもこうなんだから
こっちへいらっしゃい。膝枕してあげる」
 僕はそれから3時間も香織の膝でくつろいでいた。
いつしか眠りについていた。目覚めると、空が青い。
香織が言う
「ねえ、私凪って好きよ。こうしてゆったり波打つ
舟の上が好きなの。ありがとう。連れてきてくれて」
 僕は複雑だった。風を切って進むヨットも好きだが、
凪もいいもんだなあとしみじみ感じていた。
「香織、凪を有り難う」
「うふふ、どういたしまして」
 二人は見つめ合って笑った

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