安保 徹(あぼ とおる)教授
新潟大学院歯学部総合研究所名誉教授
1947年、青森県生まれ。89年に胸腺外分化T細胞の存在を発見し、
96年に白血球の自律神経支配のメカニズムを解明。
その後も国際的な場で研究成果を発表し、免疫学の最前線で活躍を続ける。
著書に『免疫革命』(講談社インターナショナル)『医療が病いをつくる』(岩波書店)など多数。
がん患者向けの講演でも全国を飛び回っている。
週刊がん もっといい日より
がん患者さんのための『免疫とがん』講座
第1回 『偏った生き方が、がんを引き起こす』
「免疫の主役である白血球は自律神経に支配されており、働きすぎ、悩みすぎなど、 無理な生き方で自律神経のバランスがくずれ免疫が低下して、がんが発症するのです」 もう二度とがんにはなりたくない… がん治療中の方も、がんの治療をひとまず終えた方もそう考えるのではないでしょうか。 再びがんにならないためには、がんになった原因をきちんと理解して、その原因を取り除くこと、 治る理由を理解して、それを実践することが不可欠です。 ではなぜ、がんになるのか、再発を防いでがんを治すには、どうすればよいのでしょうか。 そこで『週刊がん もっといい日』では、がん患者さんのための『免疫とがん』講座を開講いたします。 その第一弾は、3回にわたり『免疫革命』などの著書で知られる 新潟大学大学院医歯学総合研究科の安保徹教授に、お聞きします。 ■取材・文: メディカルライター・内山 遥(うちやま はるか) 乳がん闘病中 |
ストレスによる交感神経緊張状態が
がんの発端に・・・
がんを経験した人なら誰しも、
「なぜ自分はがんになってしまったのだろう」と考えたことがあるでしょう。
私も、「まだ40代前半だし、それほど不摂生をしていたわけでもないのになぜ…」
と首をかしげたものです。
けれども安保徹教授は、がんの原因は自分自身のなかにあると言います。
「がんをはじめ多くの病気は、免疫が低下することによって起こります。
そして免疫力を低下させる元凶は、偏った生き方なのです。
ところが、
医療関係者も 一般の人も、なぜがんができるのかをきちんと理解していません。
だからがんを治すには、
“悪いものを取る”“小さくする”という考え方にしか辿り着けないのです」(安保教授)
“偏った生き方”が、発がんにつながるメカニズムは、
福田稔医師(日本自律神経免疫治療研究会理事長)との研究で発見した
「白血球の自律神経支配の法則」(福田―安保理論)で、実に明快に説明されます。
この理論は、免疫の主役である白血球は自律神経に支配されており、
働きすぎ、悩みすぎなど、無理な生き方によって自律神経のバランスがくずれ、
免疫が低下して、がんや慢性疾患を発症するという考え方です。
「白血球の95%は、細菌処理を得意とする顆粒球と、
ウイルスやがんなどの異物処理を行うリンパ球で占められています。
自律神経には、交感神経と副交感神経があり、あらゆる生命活動をコントロールしていますが、
交感神経が優位になると顆粒球が増え、副交感神経が優位になるとリンパ球が増えるのです。
通常、昼間仕事などでストレスを感じ、交感神経が優位になっても、
夜睡眠をしっかりとることで、副交感神経が優位になります。
つまり自律神経のスイッチが、スムーズに切り替えられているというわけです。
ところが毎日夜遅くまで働いたり、ストレスが続いたりして交感神経優位の状態が長く続くと、
白血球のなかの顆粒球が増え、リンパ球が減ってしまいます。
すると、増えすぎた顆粒球は活性酸素を放出し、
それが遺伝子にもダメージを与えてがんをつくり出してしまうのです。
一方で、がん細胞をやっつけてくれるはずのリンパ球は不足状態にあるので、
がん細胞の増殖が抑えられなくなり、がんを発症してしまうというわけです」
と安保教授は語ります。
体温が低いと免疫力は低下する
がん発症を考えるとき、もう一つ大事なキーワードがあります。それは、「低体温」です。
リンパ球は、体温が高い状態で活発に働きます。
かぜで熱が上がるのは、体温を高めてウイルスをやっつけるリンパ球を増やすため。
基礎体温が高い人は、免疫力が高いのですが、
低い人は、免疫力が低下して病気になりやすいのです。
なぜでしょうか。安保先生は、こう指摘します
「自律神経と体温にも、密接な関係があります(グラフ)。
交感神経が優位になりすぎると、血管が収縮して血流が悪くなり、体温も低下
してしまうのです。
体のなかで、がんができやすいのは、冷えたり血流が悪い場所です。
たとえば女性に乳がんが多いのは、乳房が突き出ているので血液が届きにくいから。
また、ストレスで胃が痛む人は、胃の血流障害を起こしやすく、胃がんを発症しやすいのです。
反対に、楽をしすぎている状態、
つまり副交感神経が優位過剰でリンパ球が多すぎる人でも体温が低下してがんを発症する
ことがあります。
血管が開きすぎて 血流障害を招くうえ、運動不足で代謝熱が低下し体温が低くなるからです。
このタイプは肥満の人に多く見られます」
あなたのがんの原因はなんですか?
さて、がんを経験された方は、発症前の自分を振り返ってみてください。
なにか思い当たることが、あるはずです。
自分の生き方が偏っているなんて思いもしなかった私も、発症前に、
冷えが原因と思われる月経困難症や不妊症という
トラブルを抱えており、体温は35.7℃前後という状態でした。
夜中まで仕事をしていたことも多かったし、ストレス解消方法はもっぱらお 酒…。
なんと体によくない生活だったことか。
安保先生は、
「日本人は、まじめで頑張り屋さんが多いから、自分では普通に生きているつもりでも、
知らないうちに無理してしまっているんですよ。
とくに男性と同じように働いている女性は、頑張り過ぎてしまいがちですね」と言います。
皆さんも、がんになった原因が思い当たったでしょうか?
がんになった原因を、きちんと知ること。
それが、がんを治す第一歩なのかもしれません。
次回は、
がんを治すための心の持ち方、三大療法はどこまで受けるべきかについて、お聞きします。
<安保先生にもう一言・・・>
「早期発見・早期治療ががんをつくる」
がんが早期で見つかる。
これは一見、ラッキーであるようなイメージがありませんか?
私も、「早めにがんを見つけて治療できてよかった」と思っていました。
ところが安保先生は、「早期発見が、がんをつくるのだ」と指摘します。
「私たちは、無理して疲れると休むでしょ。
発がんしていたとしても、休養することによって免疫が上がり、がんは消えるものなのです。
でも、そのタイミングで検診したりすると、早期がんが見つかって、がん患者にされてしまう。
それに、がん検診の場合、結果が出るまで、誰でも不安になります。
それが大きなストレスになって、がんをつくり出してしまう」というわけです。
さらに安保先生は、
「実際に、がん検診を受けたグループのほうが、発がん率が高いというデータも多いのです。
でも、そういうデータは、あまり日の目を見ない。
がん検診をする人が増えて、早期発見で見つかっても、がん患者は減らず、
かえって増えるばかりだという事実が、
がん検診には意味がないということを物語っていると思います」
と話しています。
■取材・文:内山 遥(うちやま はるか) 女性誌や医療関係の雑誌に執筆するメディカルライター。 2006年2月、入浴中に左胸のしこりを見つける。 検査の結果、クラス5、ステージⅡの乳がんとの 診断。 4月に乳房温存手術を受け、リンパ節に転移があったため、抗がん剤治療を6クール受ける。 さらに放射線治療を受けて、現在はホルモン剤を服用中。 |
提供:株式会社サン・メディカ
其の弐につづく