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東京でブレイクした横山華山展が京都に凱旋_京都文化博物館 8/17まで

2019年07月22日 | 美術館・展覧会

昨年2018年の秋、東京駅のステーションギャラリーで会期が進むにつれ入場端数がうなぎ上りに増えていった横山華山(よこやまかざん)展。仙台を経た長い巡回の旅がフィナーレの地・京都にやってきました。

  • 横山華山は江戸時代有数の超絶技巧を持つ絵師、多様な画風のすべてで腕前の良さに全くぶれはない
  • 京都画壇の絵師にうるさい京都人も、華山の多様な作品に触れると必ずや虜になる
  • 東京展では未出品の作品が、京都展では数多く鑑賞できる


京都でもおそらくほとんどの人が横山華山の名を始めて耳にするでしょう。京都でも強烈な印象を観る者に植え付けることは間違いなしです。



私も昨年2018年秋の東京駅のステーションギャラリーの展覧会を見るまでは、華山の名前を知りませんでした。主催者も展覧会の主人公となる絵師の知名度の低さをしっかりと認識していたようで、とても興味深い展覧会のキャッチコピーを付けています。

東京/宮城展は「見ればわかる」。知名度が低いものの魅力を印象付ける日本語の殺し文句です。このキャチコピーは、華山の地元となる京都展では「まだいた、忘れられた天才絵師」変更されています。東京展の印象を思い出すべく、京都展とチラシを見比べていて気付きました。

江戸時代の絵師は、浮世絵を除くと江戸よりも京都を拠点に活躍した絵師の方が、現代ではよく知られています。京都人にとってはあらゆる画風の江戸絵画を見慣れていることもあり、「まだいた」と華山の実力をストレートに表現しようとしたのでしょう。

異なる開催地で巡回展をそれぞれ見る機会はなかなかないですが、開催地によるPR手法の違いから展覧会の個性により深く触れることができます。「巡回展を見比べる」機会を増やしていきたいとあらためて感じました。



キャッチコピーは変わっていますが、展覧会の構成(章立て)は東京展からは変わっていません。展覧会の構成(章立て)自体を変える巡回展は、日本国内ではまずありません。国をまたがるように観客の文化の土台自体が変わる場合に限られるでしょう。

【公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

スタートは、華山が最初に学んだ曾我蕭白(そがしょうはく)の影響を受けた作品の展示から始まります。私もそうでしたが、華山の超絶技巧はこの最初の展示で強く印象付けられます。

「蘭亭曲水図」大英博物館蔵や「四季山水図(倣蕭白押絵貼屏風)」はいずれも、山水画にしてはきわめて表現が繊細で、写生画や文人画などの要素の影響も見て取れます。師の蕭白よりも”上手い”と感じるほどです。

人物画でも写実的な表現の上手さが目立ちます。「六代横山喜兵衛像」は、華山が養子に入った家の当主の肖像で、武家の棟梁のように威厳を持って描かれています、養父への特別な敬意を感じられます。

「孟嘉落帽・臥龍三顧図屏風」福井県立美術館蔵は、山水の中で人物だけが美しく着色され、画面の中では小さい人物だけにスポットライトをあてているように感じさせます。著名な古典のドラマの一瞬をわかりやすくとらえた表現が注目されます。前期のみの展示です。

「蛭子大黒図」は商人の姿で語り合う二人の福の神の表情がとてもにこやかです。いかにも京都の富裕な町衆に好まれそうな構図と表現です。前期のみの展示です。

この作品や京都の祭りの様子を描いた風俗画など、東京展には出品されなかった作品が京都展では多数お目見えしています。加えて、この展覧会の出品作品の所蔵者は個人蔵がとても多いのが特徴です。少なからずの所蔵者は、限られた展示可能期間から京都展を優先して貸し出したのでしょう。


京都文化博物館の休憩室、京町屋の坪庭のよう

山水風に表現した名所の風景画も驚きの連続です。「花洛一覧図」京都市歴史資料館(大塚コレクション)蔵は、洛中洛外図のように京都の町を西から俯瞰した作品です。大正昭和に多く見られる観光のための都市鳥観図のように、より高い視線から建物の特徴を精密に描いています。洛中洛外図のように雲は描かれず、特定のスポットだけを拡大して描くような構図ではありません。

何らかの西洋の風景画を見て刺激を受けたのかもしれません、それだけ構図は斬新です。南画のタッチで描いていることもきわめて斬新です。華山の”多様性”を深く感じることができる名品です。

「紅花屏風」山形美術館(長谷川コレクション)蔵は、華山の代表作です。とてもいきいきと染料の紅花の製造工程を描いています。京都の富裕な町衆の発注と考えられており、華山は描くために紅花の産地の羽前国(山形県)まで”出張”しています。発色が素晴らしく最高級の絵具を使っているのでしょう。

山形までの出張費や絵師を拘束する時間も踏まえると、破格の画料だったことが容易に想像できます。展覧会後半、8/3-17限定の目玉展示です。

「四条河原納涼図」京都府(京都文化博物館管理)蔵は、町民が河原でたたずむ様子をいきいきと描いています。タッチは南画風ですが表現は写実的で、写真を見ているようです。この作品も東京展に出品されなかった名品です。

もう一つの目玉作品「祇園祭礼図巻」も京都人を間違いなく釘付けにするでしょう。祇園祭では、幕末の禁門の変の焼失により、巡行を中断している山鉾が少なからずあります。以来150年経った近年、復活の機運が盛り上がっています。2014年に復活した大船鉾は、鉾の装飾の考証にあたって「祇園祭礼図巻」を大いに参考にしています。

時代考証に自らの作品が使われるとは、華山も天国でさぞご満悦でしょう。

国内の資産家や外国の美術館で200年以上眠り続けてきた横山華山。”奇想の絵師”として評価と知名度が定着する日が早く訪れることを願ってやみません。同じく”永らく忘れられていた”絵師である、若冲や蕭白に匹敵する感銘を伝えてくれます。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



いにしえから祇園祭はみやこ人を魅了し続けていた
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<京都市中京区>
京都文化博物館
特別展
横山華山 まだいた、忘れられた天才絵師
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:京都府、京都文化博物館、日本経済新聞社、テレビ大阪、BSテレビ東京、京都新聞
会場:4F,3F展示室
会期:2019年7月2日(火)〜8月17日(土)
原則休館日:7/8,22,29
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金曜~19:00)

※7/21までの前期展示、7/23以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、2018年11月まで東京ステーションギャラリー、2019年6月まで宮城県美術館、から巡回してきたものです。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄烏丸線「烏丸御池」駅下車、5番出口から徒歩3分
阪急京都線「烏丸」駅下車、16番出口から徒歩7分
京阪電車「三条」駅下車、6番出口から徒歩15分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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