京都・承天閣美術館で、新天皇の即位を祝う”言祝ぎ(ことほぎ)”をテーマに質の高い所蔵品を選りすぐった展覧会「言祝ぎの美」が行われています。京都らしく、いにしえの王朝文化をたっぷり味わうことができる構成にしあがっています。
- ”言祝ぎ”とは言葉に出して祝うコト。言葉に出さない意思表示を好んだ日本文化の中では特別な”コト”。
- 新天皇即位は特別な”コト”の筆頭格、今に伝わる美術品からその特別感を感じることができる
- 他館から借りものに頼らず、所蔵品だけで見事に展覧会を構成できるこの美術館の実力がわかる
承天閣美術館は、他館から借りた作品を中心に構成する企画展ではなく、自館所蔵品で構成するコレクション展を軸に回しています。自館コレクションだけで日本の古美術品の展覧会を回せるのは、東京では東博/根津/出光/静嘉堂/五島、関西では京博/細見/藤田/大和文華館くらいです。
美術館入口の新緑のシャワー
今回の展覧会は、この美術館のイメージが強い禅宗美術や若冲作品よりも皇室ゆかりの美術品が中心です。高僧の肖像画である・頂相(ちんそう)や高僧の書・墨蹟(ぼくせき)は少なめですが、天皇の手紙・宸翰(しんかん)は多めです。
【承天閣美術館公式サイトの画像】 伝徽宗「白鷹図」鹿苑寺蔵
第一展示室の初めから”言祝ぎ”にふさわしい名品が登場します。北宋最高の芸術家であった8代皇帝・徽宗(きそう)筆と伝わる「白鷹図」です。白い鷹というモチーフそのものが高貴な趣を見事に伝えており、北宋の院体画らしい写実的で品格のある画風が強いオーラを放っています。大空を飛び立たんとする白い鷹を新天皇にたとえることができます。
徽宗は、日本では平安時代後期に院政を始めて絶大な権力をふるった白河上皇とほぼ同じ頃が治世でした。日本の室町幕府8代将軍・義政に例えられるように、芸術では一流でも政治では無能と評される皇帝です。徽宗の治世下で満州族の金によって国を滅ぼされますが、徽宗の親族が南に逃れて南宋を建国したことで中国全土は安定します。
南宋は日本から多数の留学僧を受け入れ、鎌倉新仏教の興隆を刺激します。大仏様や禅宗様などの建築様式、喫茶の習慣、天目茶碗や水墨画といった最先端文化を留学僧が持ち帰ったことで、今に伝わるかけがえのない文化財や美術品を異国・日本でのこすことになります。徽宗は結果的に亡国の主となることで過去のしがらみを一掃し、中世の文化面での日中交流の橋渡しに絶大な功績を残すことになった人物と解釈することもできます。
相国寺は足利幕府の本家本流の寺です。歴代の足利将軍が相国寺/鹿苑寺/慈照寺を舞台に御物コレクションを形成し、日本文化に与えた徽宗の影響力を最も伝える寺でもあります。そんな相国寺に伝わる”言祝ぎ”にふさわしい数々の名品は、やはり格別な趣があります。
狩野常信(かのうつねのぶ)「源氏物語図屏風」は、狩野派作品ではあまり見かけない、やまと絵表現が美しい屏風作品です。常信は探幽の甥で4代将軍家綱の御用を務めたように探幽の次の世代の狩野派をリードした絵師でした。
源氏物語のような古典をモチーフにした絵は、江戸時代の初めに流行したため多くの作品がのこされています。その中でこの作品は、六曲一双屏風の大画面を活かし、寝殿造りの御殿と庭を借景の山を含めて雄大に描いています。屏風でも場面の一瞬をとらえて比較的狭い範囲が描かれることが多い源氏物語では珍しい構図でしょう。
江戸狩野らしい古式にとらわれない発想を「感じさせる作品です。I期6/23までの展示です。
【承天閣美術館公式サイトの画像】 伊藤若冲「葡萄小禽図」
【承天閣美術館公式サイトの画像】 伊藤若冲「月夜芭蕉図」
第二展示室では、常設展示の若冲の襖絵がいつものように観る者の心を落ち着かせてくれます。モチーフとして動物が目立つように描かれておらず、大きな余白を活かした構図が、若冲作品としては意外で目を引きます。無名の若冲が鹿苑寺の襖絵の作者に抜擢された、記念碑的作品でもあります。
円山応挙「七難七福図巻」は、七難と七福に遭遇する様子を平安貴族になぞらえて描いています。応挙の重要なパトロンだった円満院(えんまんいん)の門跡・祐常の発願で描かれた作品と考えられており、応挙作品では珍しくやまと絵風です。三井家をはじめとする裕福な町衆から高貴な門跡まで、クライアントの好みに応じた表現を見事に使い分けることができた応挙の腕のすごさを実感させてくれます。
「七難七福図巻」は重要文化財で、応挙の代表作の一つであると言えるでしょう。第二次大戦後に円満院から萬野美術館が入手し、2004年から相国寺の所蔵となっています。「孔雀牡丹図」「瀑布図」と並ぶ、相国寺所蔵の応挙の名品です。承天閣美術館は若冲だけではありません。
相国寺 庫裏
承天閣美術館のコレクション展はいつ見ても感心します。相国寺・鹿苑寺・慈照寺伝来品はもとより、萬野美術館のコレクションが加わったことが何といっても奥を深くしています。
「言祝ぎの美」展も、7/6からにII期展示では明の花鳥画の傑作「鳳凰石竹図」が登場します。「白鷹図」と並んで帝王を祝うにふさわしい名品です。
【承天閣美術館公式サイトの画像】 林良「鳳凰石竹図」
承天閣美術館、あえてコレクション展を訪れてみてください。
苔が美しい美術館参道の庭
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
日本人はなぜ舶来品が好きなのか?
________________
<京都市上京区>
相国寺 承天閣美術館
言祝ぎの美 -寺宝でつづる吉祥
【美術館による展覧会公式サイト】
主催:相国寺承天閣美術館、日本経済新聞社
会期:2019年4月6日(土)~9月16日(月)
原則休館日:展示替え期間(6/24~7/5)以外会期中無休
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30
※6/23までのI期展示、7/6以降のII期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。
◆おすすめ交通機関◆
地下鉄烏丸線「今出川」駅下車、3番出口から徒歩10分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
京都駅→地下鉄烏丸線→今出川駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設に駐車場はありません。
________________
→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal