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呉春 池田でリボーン 応挙を超える_逸翁美術館 12/8まで

2019年09月20日 | 美術館・展覧会

大阪・池田・逸翁(いつおう)美術館で『画家「呉春」池田で復活(リボーン)』展が行われています。
 四条派の祖・呉春(ごしゅん)コレクションでは日本有数の所蔵品をたっぷりと味ことができます。


 このデザイン、見覚えがない?


 目次

  •  小林一三と呉春、池田は共通のマザータウン
  •  (写実+洒脱)÷2=呉春


 展覧会のチラシ/ポスターのデザインを見て、何かひらめきませんでしたか?
そう、ゴジラ→東宝→阪急→逸翁美術館という連想が成立します。



 小林一三と呉春、池田は共通のマザータウン


 逸翁美術館は、阪急電鉄の創業者・小林一三(こばやしいちぞう)が蒐集した美術品を展示・保管するために、彼の邸宅を利用して開設されました。
 美術館のある池田市は、阪急電鉄が日本で初めて住宅を分譲し、住宅ローンで販売することで沿線の乗客を増やしたという、阪急電鉄はもとより、日本の私鉄のビジネスモデルの原点のようなところです。

 小林一三の人となりについては、以前ご紹介した拙ブログをご参照ください。
 【美の五色】 小林一三 ~日本人の生活スタイルを創った男が残した思い出

 東隣の箕面市と共に大阪平野の北端に位置し、風光明媚な景観と背後の山から湧き出す豊かな水にも恵まれています。
 この湧水が、逸翁美術館と呉春の縁(えにし)の原点です。

 江戸時代の初め、北摂(摂津国北部)エリアで酒造りが盛んになり、江戸への”下り酒”で巨万の富を築いた日本最大の大店・鴻池家が本拠とした伊丹はその中心地となります。
 西宮・灘は江戸時代後半になって栄えるようになります。
 現在の酒処として池田はほとんどイメージされませんが、江戸時代前半には伊丹と並ぶ”下り酒”のトップブランドでした。
 ”下り酒”で儲けた大店が多数あり、師の与謝蕪村のパトロンがいたことから、呉春は池田に拠点を移すことになります。

 呉春が京都から池田に拠点を移した直接的な理由は、相次いだ身内の不幸に見舞われた呉春を嘆いた師の蕪村が、環境を変えることでリフレッシュをすすめたためです。
 池田の大店は、京都の新進気鋭の絵師・呉春を温かく迎えます。
 呉春という名は、池田滞在時に名乗り始めた名前です。それまでは松村月溪(まつむらげっけい)と名乗っていました。
 呉春は池田で傷心を癒やし、画才にあらためて火をつけます。
 展覧会の名称「復活(リボーン)」は、池田の地が呉春の画業を大きく発展させたことに基づいています。

 ちなみに池田の酒蔵は現在も1軒だけ醸造を続けています。
 その銘柄「呉春」は絵師にちなんで名づけられました。



 美術館の周囲は現在もお屋敷街


 時を経て、小林一三は結婚した時の嫁入り道具に含まれていた与謝蕪村の掛軸に目を奪われます。
 事業に成功した後、本格的な美術品蒐集は蕪村から様々な方向に発展していきます。
 一三が呉春作品と出会うと、母なる池田との縁もあり、一三の審美眼に火が付きました。

 逸翁美術館は蕪村/応挙/呉春といった江戸時代半ばの京都画壇のコレクションが何と言っても秀逸です。
 ”池田酒”が逸翁美術館の原点なのです。


 (写実+洒脱)÷2=呉春


 展覧会はすべて、逸翁美術館(阪急文化財団)が所蔵する作品だけで構成されています。
 館としての自信を垣間見ることができます。
 展示は前後期でほとんどが展示替えされますが、前後期2回訪問をおすすめします。
 逸翁美術館の呉春コレクションをほぼ完ぺきに堪能することができます。
 展示室が館蔵の呉春作品で埋め尽くされている光景は圧巻です。

   

 呉春は師の蕪村が病に伏すと京都に戻りますが、献身的な看病の甲斐なく蕪村はこの世を去ります。
 呉春はこのタイミングで人生を大きく変える出会いに再び恵まれます。
 写実画で当時の京都画壇を一世風靡していた円山応挙です。

 呉春は画業人生の前半生を蕪村に学んだ南画、後半生を応挙に学んだ写実画と、画風を転換させた器用な絵師のイメージがあります。
 ”転換”というよりは”融合”と言う方がフィットしていると私は感じます。
 呉春は応挙の生真面目なまでの写実画に洒脱の趣を加え、肩の力を抜いて味わえる「四条派」の画風を起こしました。
 応挙が起こした円山派の画風を瞬く間に凌駕し、竹内栖鳳や堂本印象ら、現代まで続く京都画壇の主流となっています。

 呉春の”洒脱”の趣は、ゼロから生み出したものではなく、師の蕪村の個性そのものです。
 蕪村と応挙、二人の対照的な師の”いいとこどり”を見事に成就したのが、呉春です。
 呉春は京都の金座の役人と言う裕福な家に生まれ、俳句や横笛などの”あそび”もさらりとこなす、都会的で粋な社交好きの人物でもありました。こうした人柄も呉春の洗練された表現を支えています。



 新館

 展示はおおむね制作時期の順に並べられています。

 「平家物語大原小鹿画賛」は、チラシに採用されているキュートな鹿です。
 ゴジラ的フォントでチラシに大書きされた「ゴシュン」というキャッチコピーと実によく合っています。

 「十二カ月京都風物句図巻」はタイトルの通り、人々がふざけるように生活を楽しんでいる様子を12通り描いています。
 蕪村が得意とした洒脱な表現が見事に受け継がれています。巻替されますが通期展示です。

 「桜花游鯉図」は呉春の写生画の円熟味を感じさせる名品です。
 桜の木の上下をぼやかせることで、鯉がまるで空中を泳いでいるかのように見せています。前期のみの展示です。

 【阪急文化財団ブログの画像】 呉春「秋夜擣衣図」

 「秋夜擣衣図」は、写生画と南画が見事に融合した作品です。
 俳句に詠む農家の情景を絵にしたような趣があり、素朴ながらも洗練された表現を感じさせます。
 前期のみの展示です。

 【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 呉春「白梅図屏風」逸翁美術館

 逸翁美術館が誇る呉春の代表作「白梅図屏風」は後期展示です。
淡い藍色に染めた絹本に描くという、アイデアで、夜にひっそりと花を咲かせる白梅の情景を見事に描き出しています。
藍色の背景をこれほどまでに上手に使う並外れた才能を感じさせる重要文化財です。



 どこかで見たことある...


 今年2019年はなぜか、円山・四条派の展覧会が目白押しです。
 4月にこのブログでもお伝えした西宮市大谷記念美術館「四条派への道 呉春を中心として」が行われました。
 9月からはリニューアルオープンした東京・大倉集古館で「桃源郷展―蕪村・呉春が夢みたもの―」が行われており、11月からは京都国立近代美術館で、先に開催の東京藝大美術館から巡回してきた「円山応挙から近代京都画壇へ」が始まります。

 【展覧会公式サイト】 「円山応挙から近代京都画壇へ」京都国立近代美術館

 回顧展が開催されることが多い主役の生誕/没後の周年にも、応挙/呉春のいずれもあてはまりません。
 呉春以下、四条派の絵師たちの知名度は応挙に比べると高くありません。
 応挙の写実画を発展させた四条派の絵師たちに光が当たる意味では、集中開催は効果的です。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



呉春と池田の縁を今に伝える酒

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 <大阪府池田市>
 逸翁美術館
 池田市制施行80周年記念
 画家「呉春」―池田で復活(リボーン)!
 【美術館による展覧会公式サイト】

 主催:阪急文化財団(逸翁美術館)
 会期:2019年9月14日(土)~12月8日(日)
 原則休館日:月曜日、10/21~10/25
 入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

 ※10/20までの前期展示、10/26以降の後期展示で展示作品が大幅に入れ替えされます。
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



 おすすめ交通機関:
 阪急宝塚線「池田」駅下車、徒歩10分
 JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
 JR大阪駅(梅田駅)→阪急宝塚線→池田駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には無料の駐車場があります。
 ※休日やイベント開催時は、道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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