西域を感じさせる造形美はエキゾチック
大阪市立東洋陶磁美術館で「唐代胡人俑(こじんよう)」展が行われています。「胡人」とは、中国から見た北方や西方を中心とした異民族を指します。「俑」とは被葬者をあの世で慰めるために墓に副葬された陶製の人形のことで、西安にある秦の始皇帝の「兵馬俑」が特に有名です。
この展覧会では、西安からさらに西の甘粛省で発見された唐時代の将軍の墓の出土品60点を、胡人俑を中心に展示しています。いかにも西域の民族を感じさせる顔の表情や衣装の造形美は、異民族の神秘性が表現されています。
漢民族を感じさせる兵馬俑とは明らかに異なり、奈良の正倉院に伝わる神楽面の趣の方により近しいことがわかります。実物のオーラを体験するまで、きっとワクワクすること間違いなしです。
シルクロードを通じた交易は長らくソグド人が中心でした。ソグド人は現在の中国の西隣の国・タジキスタンに住んでいた民族ですが、定住にこだわらずシルクロード全域で交易に携わっていました。
中国の漢民族は匈奴・突厥・ウイグルといった異民族の侵入にしばしば悩まされ、「万里の長城」を築いたことはよく知られています。ソグド人も異民族ですが、政治的に漢民族に対抗するようなことはしませんでした。それどころかペルシャ(現在のイラン)やトルコから明らかに中国文化とは異なる珍品をもたらしたことで、中国では好意的にとらえられていたようです。
ソグド人は多民族との同化が進んだため、現代ではほぼ民族として存在しません。しかしこの展覧会の胡人俑は、出土した時代や場所をふまえて、今はなきソグド人の文化や風俗を表現したものと考えても大きな間違いはないでしょう。
出品作品の画像
【画像出典】 展覧会チラシPDF
胡人俑の目の堀は深く鼻も高い、明らかにインド・ヨーロッパ系民族の顔です。ポーズもとても多様です。ガッツポーズ、どや顔、やったあ、現代の日本人の価値観では様々な意味が連想されます。しかし果たして何を示しているのかは作った人に聞かないとわかりません。
ミステリアスではありますが、どの胡人俑もとても生命力にあふれています。とても生活を楽しんでいたであろうことが想像できます。衣装もエキゾチックです。中国国内ではとても目立ったでしょう。1300年前の中国の異国情緒をリアルに現代に伝えてくれます。
胡人以外にもラクダなど様々な動物の俑も出展されています。ラクダはとても足が長く、唐三彩のラクダよりもスマートでカッコいいです。馬も筋肉美がリアルに表現されており、とても速く走れそうに見えます。ラクダも馬も、当時のソグド人にとって大切な交易商品でした。商品サンプルとして、中国にはない表現でいかにも目を引くよう造形したのかもしれません。
女性の俑も天平時代の吉祥天のように頬がとてもふくよかです。日本に残る天平絵画の表現が、西域の文化の影響を強く受けていることが確信できます。
国立国際美術館との連携企画「いまを表現する人間像」の展示
会場内では、近隣の国立国際美術館との連携企画で“現代の人間の像”が展示されています。ぜひ唐代胡人俑と表現の違いを見比べてください。ワクワク感に見事にこたえてくれる展覧会です。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
平山郁夫が考える玄奘の西域への旅
大阪市立東洋陶磁美術館
開館35周年記念・日中国交正常化45周年記念特別展
「唐代胡人俑―シルクロードを駆けた夢」
http://www.moco.or.jp/exhibition/current/?e=440
主催:大阪市立東洋陶磁美術館、甘粛省文物局、NHK大阪放送局、NHKプラネット近畿、朝日新聞社
会期:2017年12月16日(土)~2018年3月25日(日)
原則休館日:月曜日、2017/12/28~2018/1/4
※この展覧会は、他会場への巡回はありません。
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