東京国立博物館で「三国志」展が行われています。「リアル三国志」というコピーが物語るように、最新の発掘・研究成果で雄大な歴史物語を表現します。三国志は、中国の歴史ドラマでは日本で最も有名と言えるでしょう。そんな人気のドラマの史実に”大接近”することができます。
- 三国志の時代を物語る出土品がこれほどたくさん現存するとは驚き、実物に勝るリアルはない
- 中国の文化財の最高格付け「一級文物」が、全162点の内42点を占める
- 2009年に発掘された三国志のヒーロー・曹操の墓の出土品が海外初出展
中国政府の全面協力の下、中国全土の博物館から最新かつ一級の三国志の”生き証人”が出展されます。中国の歴史のスケールの大きさに圧倒されます。
当時の主力兵器、矢が雨あられのように飛び交う展示室
「三国志」は、西暦の紀元前後をはさむ頃に中国で君臨していた漢王朝滅亡後の西暦200年頃からの約100年間、魏(ぎ)/呉(ご)/蜀(しょく)が覇権を争った三国時代をまとめた歴史書です。明から清の時代にかけて小説「三国志演義」として中国全土で広く知られるになり、日本では第二次大戦中に新聞に連載された吉川英治の小説で一躍有名になりました。
紀元前206年に項羽と争い勝利した劉邦が建国した前漢王朝から、再興された後漢王朝まで合わせ約400年間続いた漢の滅亡から、物語は始まります。
魏の建国を主導した曹操(そうそう)/曹丕(そうひ)、呉の建国を主導した孫権(そんけん)、蜀の建国を主導した劉備(りゅうび)/関羽(かんう)/諸葛孔明(しょかつこうめい)。誰もが一度は名前を聞いたことがあるスターが繰り広げるドラマは、国家や企業の生き残り戦略を象徴するストーリーとしても、日本人にも深く心に刻まれています。
吉川英治の小説の後、三国志をさらに大衆に知らしめたのが、1971(昭和46)年から連載された横山光輝の漫画、1982(昭和57)年からNHKでTV放映された人形劇、1985(昭和60)年に初めて発売されたPCシミュレーション・ゲームです。世代を超えて日本でも親しまれていることがわかります。
出展品所蔵元の博物館は中国全土に及ぶ
展覧会の主催者に「中国文物交流中心」が名前を連ねています。公式サイトを見る限り、中国政府による文化財の保管・展示を統括する国家機関のようです。日本ではさながら、文化系の国立博物館を統括する(独行)国立文化財機構や国立美術館を統括する(独行)国立美術館を併せたような機関でしょう。
外国の美術館の所蔵品が大々的に展示される展覧会で、所蔵元となるその国の文化財に関する国家機関や所蔵美術館自体が主催者に名を連ねることは決して多くありません。主催者に名を連ねると、成功した時の果実は大きくなりますが、リスク責任も負わなければなりません。所蔵元が主催者に名を連ねる今回の展覧会は、中国政府肝いりの展覧会と言え、日本で言う国宝級の文化財も多数出展されます。
展覧会プロローグ、NHK人形劇の主役たち
展覧会は以下に構成されています。
- プロローグ 伝説のなかの三国志
- 第1章 曹操・劉備・孫権 英傑たちのルーツ
- 第2章 漢王朝の光と影
- 第3章 魏・蜀・呉 三国の鼎立
- 第4章 三国歴訪
- 第5章 曹操高陵と三国大墓
- エピローグ 三国の終焉 - 天下は誰の手に
プロローグでは、三国志の主役を象徴する作品が並びます。NHK人形劇の主役を務めた人形の展示の前では、実際の放送を見た記憶があると思われる40歳代後半より上の世代の人たちが熱心に見入っています。
展覧会チラシの表紙に採用されている「関羽像」中国・新郷市博物館蔵は、明代の青銅像です。恰幅の良いボディ、そのボディを包む気品ある武具、苦渋の決断の瞬間のように集中力の高まりを究極に芸術的に表現した表情、いずれも日本では目にすることができない中国のスケールの大きさを感じさせる表現です。
日本の四天王の造形との共通点も感じられますが、中国的な表現には日本文化の偉大なる先輩として尊敬の念を禁じえません。
【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
第1章では章タイトルにもなった「英傑たちのルーツ」を感じさせる名品が並んでいます。
「玉豚(ぎょくとん)」中国・亳州市博物館蔵は一見、単なる翡翠(ひすい)の塊に見えますが、古代中国では貴人が死後にも豚肉が食べられるようにと遺体の手に握らせていました。当時の最先端文化を今に伝える逸品です。出土した墓は、曹操の父親の墓とする説が有力で、とてつもない権力と財力の大きさも伝わってきます。「一級文物」に指定されています。
「一級文物」とは、日本で言う国宝や重要文化財に相当する、中国の動産文化財に対する格付け制度の中で最高峰に位置付けられる評価です。
第2章では、三国志が始まる前、後漢王朝が滅亡する時代の名品が並んでいます。「酒樽(しゅそん)」中国・甘粛省博物館蔵は、後漢末期の将軍の墓から出土した青銅に鍍金した器で、刻まれた紋様の繊細さと気品の高さが際立ちます。一級文物です。日本ではまだ弥生時代、中国にはこの装飾を作り出す高度な技術がすでにあったのです。
「「倉天」磚(そうてんせん)」は、後漢王朝が滅亡するきっかけとなった黄巾(こうきん)の乱で、反乱軍となった新興宗教団のキャッチフレーズを刻んだ煉瓦のような石材です。北京の天安門広場にある中国国家博物館、日本で言う東博のような、中国を代表する博物館からの出展品です。
第3章は、三国志では最も見せ場となる魏/呉/蜀の三国の戦いにまつわる品の展示です。「弩(ど)」中国・湖北省博物館蔵は現代のボーガンのような武器で、引き金を引いて矢を発射する当時の主力兵器です。一級文物です。
展示室では矢が雨あられのように飛び交う様子を、天井に無数の矢をセットして表現しています。とてもインスタ映えする空間で、三国志のクライマックス「赤壁の戦い」を彷彿とさせます。
第4章は、戦いではなく三国で栄えた文化を今に伝える名品の展示です。「舞踏俑(ぶとうよう)」中国・重慶中国三峡博物館蔵は、女性が笑顔で踊る様子をとてもふくよかに表現しています。俑は墓の副葬品となる人形であり、蜀では豊かな文化を謳歌していたことがしのばれます。
「神亭壺(しんていこ)」中国・南京市博物総館蔵は青磁の名品、一級文物です。磁器は当時のハイテク素材で経済的に豊かだった江南地方で後漢時代から本格的な製造が始まっていました。優美なデザインと独特の色合いが上流階級にもてはやされ、呉の豊かさを今に伝えています。
会場で再現された曹操の墓
第5章は、2009年に発掘されて世界的な注目を浴びた英雄・曹操の墓に関する展示です。展示室では石室空間を立体的に再現しており、石室内の写真と共にリアルな趣を体験することができます。
曹操の墓から出土した「罐(かん)」は、白磁の器でボディの白色が何とも言えず上質です。白磁はそれまで隋の時代から製造が始まったと考えられてきたため、定説を300年以上さかのぼる”大発見”となります。類例や資料の新たな発見により、定説の修正が確かなものになることが待たれます。
三国志にあまり関心のない方でも、中国の悠久の歴史と文化をたっぷり体験でき、心が豊かになることを実感できます。日本文化の大先輩です。ぜひお出かけください。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
島田紳助がナレーションしていた1982年放映の人形劇
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<東京都台東区>
東京国立博物館
日中文化交流協定締結40周年記念 特別展
三国志
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】
主催:東京国立博物館、中国文物交流中心、 NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
会場:平成館 特別展示室
会期:2019年7月9日(火)~9月16日(月)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~20:30)
※この展覧会は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
フラッシュ/三脚/自撮り棒と動画撮影は禁止です。
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、2019年10月から九州国立博物館、に巡回します。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。
◆おすすめ交通機関◆
JR「上野駅」下車、公園口から徒歩10分
JR山手・京浜東北線「鶯谷駅」下車、南口から徒歩10分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩15分
東京メトロ・千代田線「根津」駅下車、1番出口から徒歩15分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩15分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR東京駅→山手・京浜東北線→上野駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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