空海がプロデュースした仏像ワールドが、京都・東寺からほぼそのまま、東京国立博物館に出開帳(でかいちょう)しています。特別展「国宝 東寺 ―空海と仏像曼荼羅」です。2019年に開催される幾多の展覧会の中でも、出展内容のレベルの高さはピカ一です。
- 空海自筆の書跡など東寺所有の美術品の国宝20点の内17点が出展、密教美術の最高峰を満喫
- 1,200年続く東寺の最重要儀式の会場を国宝仏画も交えて再現、平安時代の究極の非日常空間。
- 21体の美仏で構成される講堂の立体曼荼羅から15体が上野に集結
- 普段見られない角度や明るさで仏教美術を鑑賞できる展覧会の利点を堪能できる
東寺がそっくり上野に移転してきたかのような、日本最高峰の密教美術の展示が実現しています。平安京の一番のお寺の収蔵品はやはり別格であり、何よりそれらが今まで伝えられてきたことも格別です。
東博は近年、毎年1~2回の特別展で関西を中心にした著名寺社の文化財を公開する特別展が恒例になっています。東寺をメインテーマにした特別展は、2011年夏の「空海と密教美術」以来、8年ぶりになります。東寺は京都の著名寺社の中でも、文化財の公開に積極的です。
展覧会公式
YouTube 動画 「増長天 搬出映像」
近年の展覧会のPRには動画が使われることがすっかり普通になりましたが、展覧会の概要を俯瞰的に紹介するだけでなく、「展示品の搬出/搬入」に焦点をあてた動画も目立つようになりました。
平面でさほど画面も大きくない日本画の展覧会ではどうしても作業が地味になりますが、仏像などそれなりの大きさのある今回のような展覧会では、結構”萌え”ます。搬出/搬入作業は、普通の家庭の引っ越しの何百倍も丁寧に映ります。動画の主役は、イケメン帝釈天にとは対照的に、人造ロボットのような表情が観る者をとらえて離さない増長天です。
美術展は観覧者が見えないところでとてもコストがかかっています。一般的な特別展の観覧料\1,500前後の価値をかみしめながら展示品を見ると、お披露目されている美術品自身がとても喜ぶでしょう。
会場は平成館の2F東西両方の展示室を使用しています。西側の1,2室が第1会場で、仏画/法具/書跡を中心に東寺と真言密教の足跡を伝える展示です。東側の3,4室が第2会場で、仏像を中心とした立体曼荼羅ワールドの展示です。
仏像や工芸品以外の仏教美術は長期展示に耐えられないため、今回の展示ではおおむね一週間単位で、都合10回もの展示替えが行われます。特にお目当ての作品は、公式サイトでダウンロードできる作品リストPDFで展示期間をあらかじめ確認されることをおすすめします。
【展覧会公式サイトの画像】 第1章「空海と後七日御修法」
展示室は、始まりからとても荘厳な空気に包まれています。最初に「弘法大師像」が観る者を出迎えます。
現在知られる弘法大師・空海の肖像は、空海存命中に弟子・真如親王が描いたとされる画像を模写したものがほとんどです。空海は高僧の中でも最も神格化されており、その肖像は若々しくきわめて聡明に描写されています。展示品は鎌倉~南北朝時代の作品ですが、そうした神格化されたがゆえに突っ込みどころがない美しい姿を明瞭に伝えています。展示替えがあります。
続いて「御請来目録(ごしょうらいもくろく)」「風信帖(ふうしんちょう)」が、ひっそりと展示されています。驚くなかれ、日本の歴史を伝える書の不朽の名品です。もちろん国宝です。
御請来目録は、唐への留学から帰国した空海が持ち帰った品を朝廷に報告するリストで、最澄の自筆です。展示は4/21までです。風信帖は、最澄宛の空海自筆の手紙です。空海の流れるような格調の高い書体が何とも言えず美しさを感じさせます。5/19までの展示です。
皇室との特別なゆかりを今に伝える美しい意匠
続いて、東寺に限らず真言宗全体として最も重要な儀式・後七日御修法(ごしちにちみしほ)の会場を再現した、真言密教の宇宙のような空間に足を進めます。後七日御修法は空海の死の直前に始められ、国家や天皇の安泰を祈る年明けに催される儀式です。明治まで永らく宮中で行われており、日本最高峰の宗教儀式と言えます。
金剛盤や五鈷鈴といった法具は、空海が唐より持ち帰ったものです。祭壇を取り囲む五大尊像(ごだいそんぞう)は五体の明王を表したもので、後七日御修法の本尊です。平安時代末期の作品ですが彩色がよく残っており、明王の醸し出す怪しさに洗脳されてしまいそうです。入れ替えながら展示されますが、非展示期間はレプリカが展示されます。空間の趣はしっかりとつかむことができます。これらもすべて国宝です。
【展覧会公式サイトの画像】 第2章「真言密教の至宝」
後七日御修法の再現空間では、両界曼荼羅(りょうかいまんだら)が、さらにこの展覧会の神秘性を増しています。東寺が所蔵する3通りが入れ替えながら展示されます。4/21までの展示は「甲本」と呼ばれ、平安末期の1191(建久2)年に制作された重文です。空海が持ち帰った原本を忠実に模写したと考えられている神護寺の国宝・高尾曼荼羅とかなり構成が合致します。こちらも原本の模写と考えられています。
空海の持ち帰った原本は現存しないため、東寺に伝わる最古の両界曼荼羅は国宝の「西院本」です。西院とは現存する御影堂のある区画のことです。この西院で使用されてきたものと考えられています。永らく存在が忘れられており、1934(昭和9)年になって蔵から発見されました。
後七日御修法で永らく使用されてきた甲本は損傷が激しいのに対し、西院本は保存状態が良いことが何といっても注目されます。そのため日本で最も著名な曼荼羅図の一つになっています。
展示は4/23~5/6です。私は2015年の東寺での特別展で見たことがありますが、あらためて図録で見ても、彩色の美しさは感動的でもあります。甲本より二回りほどサイズは小さいのですが、美しさが甲本を上回る存在感を示しています。
5/8以降は、後七日御修法に現役で使われている「元禄本」が展示されます。その名の通り制作は新しく、最も正確に曼荼羅ワールドの様子を確認することができます。
【京都国立博物館公式サイトの画像】 山水屏風
仏教美術には全く見えない屏風が、会場の一角で輝きを放っています。京都国立博物館蔵の国宝「山水屏風(せんずいびょうぶ)」です。真言密教で仏弟子になる儀式の際に用いられた屏風で、いつしか平安貴族の邸宅にあった屏風が転用されたと考えられています。
平安時代半ばの作品で、日本で仏画以外の絵画がのこされるようになった最初期の作品です。世界でほとんど現存しない唐代の絵画を彷彿とさせる描写がなされており、平安絵巻とは対照的に、とても描写は柔和です。文化的歴史的価値がはかりしれない傑作です。4/21までの展示です。4/23以降は東寺蔵の国宝「十二天屏風」が展示されます。
【展覧会公式サイトの画像】 第3章「東寺の信仰と歴史」
国宝「女神坐像」は東寺の南大門にある鎮守八幡宮の八幡三伸の一つで、日本最古級の神像です。とても包容力のある肝っ玉母さんのような造形が印象的です。女神に従う国宝「武内宿禰(たけのうちのすくね)坐像」は上半身裸です。一目で僕(しもべ)とわかる造形が見事です。古代エジプトの僕の彫像を思わせる神秘的な趣が魅力です。
南北朝時代にまとめられた東寺の歴史書「東宝記」も、東寺の積み重ねてきた歴史の奥深さを物語っています。図示も含めて丁寧に記録されており、世界的にも稀有な歴史史料が現存する国・日本を象徴する逸品です。
東寺・講堂
あまりに名品が多すぎて、とても紹介しきれません。熱中すれば展覧会場を全部見るのに一日かかるでしょう。展覧会後半のレポートは次回ということで、ご容赦ください。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
東寺立体曼荼羅の魅力を他の平安仏と比較できる
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<東京都台東区>
東京国立博物館
特別展
国宝 東寺 ―空海と仏像曼荼羅
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】
主催:東京国立博物館、教王護国寺(東寺)、読売新聞社、NHK、NHKプロモーション
会場:平成館 特別展示室
会期:2019年3月26日(火)~2019年6月2日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~20:30)
※会期を10通りに分割し、一部展示作品/場面が入れ替えされます。
詳細は公式サイトでダウンロードできる作品リストPDFでご確認ください。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。
<京都市南区>
東寺(教王護国寺)
【公式サイト】 http://toji.or.jp/
◆おすすめ交通機関◆
JR「上野駅」下車、公園口から徒歩10分
JR山手・京浜東北線「鶯谷駅」下車、南口から徒歩10分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩15分
東京メトロ・千代田線「根津」駅下車、1番出口から徒歩15分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩15分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR東京駅→山手・京浜東北線→上野駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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