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世紀末に至るウィーン・モダニズムは素晴らしい_中之島 国際美術館 12/8まで

2019年09月02日 | 美術館・展覧会

六本木・新美術館で話題を集めた「ウィーン・モダン」展が、大阪・国際美術館に巡回してきました。クリムトに代表される世紀末芸術を創出したウィーンのモダニズム文化を、建築・ファッション・音楽など様々な角度から味わうことができます。

  • ウィーンのモダニズム文化の芽は、18c半ばの女帝マリア・テレジアの時代にまでさかのぼる
  • 19c半ばリンク通りの建設でウィーンは芸術の都へ躍進、名だたる音楽家も展覧会に多数登場
  • 日本では無名のウィーンの画家の作品は必見、ウィーン社会や文化を見事に伝える秀作揃い
  • ウィーン・ミュージアム所蔵の世紀末芸術のオンパレードは圧巻、クリムト以外もたっぷり楽しめる


19c後半に欧州で流行した「モダニズム」、この言葉が最も似合う街はウィーンだと印象付けられる展覧会です。「古きよき時代」とはまさに、19cのウィーンです。




この展覧会の出展作品は、ほとんどがウィーン・ミュージアムの所蔵品で構成されています。ウィーン・ミュージアムは2019年4月から改修のため長期休館となることもあり、今回のような目玉作品の大挙した来日が実現しました。

美術史博物館/ベルヴェデーレ/レオポルト博物館など、日本では他のウィーンの美術館に比べて正直知名度は低いですが、開設は1887年と美術史博物館より4年早い伝統あるミュージアムです。2003年まで名称はウィーン市博物館でした。所蔵100万点とウィーンの街の歴史を俯瞰するコレクションでは他を圧倒しています。クリムトやシーレら世紀末芸術の作品も、時代を映す鏡として多数所蔵されています。




展覧会は「モダニズムへの過程」をたどることができるよう構成されています。それぞれの章にはその時代をリードした政治家が紹介されています。

  • 第1章:啓蒙主義時代のウィーン 女帝マリア・テレジア~皇帝ヨーゼフ2世(1740-1790)
  • 第2章:ビーダーマイアー時代のウィーン 外相・宰相メッテルニヒ(1804-1848)
  • 第3章:リンク通りとウィーン 皇帝フランツ・ヨーゼフ1世(1848-1916)
  • 第4章:1900年-世紀末のウィーン ウィーン市長カール・ルエーガー(1897-1910)





ウィーンのモダニズムの起源を啓蒙主義の時代に求めたのが第1章です。合理的な考えに基づいた仕組みを積極的に導入し、社会の変革を進めた二人の皇帝を軸に展開していきます。

【展覧会 公式Instagramの画像】 マリア・テレジアとヨーゼフ2世の肖像画

二人の皇帝の肖像画からは威厳が強く感じられるように、対外的には欧州各国との戦争にあけくれていました。一方ウィーンの街は啓蒙主義の自由な精神にひかれた知識人が集まるようになります。古典派と呼ばれる音楽家のハイドンやモーツァルトが活躍したのもこの時代です。

ナポレオン戦争後の欧州の秩序を取り決めた「会議は踊る」で有名なウィーン会議から1848年の「諸国民の春」革命までの時代をウィーンでは「ビーダーマイアー時代」と呼んでいます。この時代のリーダー・メッテルニヒは、市民には抑圧的でした。会場にはメッテルニヒが愛用していた「カバン」という珍品も出展されています。

市民はファッションやインテリアなどを通じて日常生活に美しさを求めました。第2章ではそうした”ウィーンの民芸”を楽しめる展示が充実しています。

【展覧会 公式Instagramの画像】 ボール・ドレス

ファッションでは、シンプルなデザインと着心地の良さの両立が好まれるようになります。「ポール・ドレス」は当時の流行の典型で、確かにシンプルさの中に新しさを見出すことができます。

【展覧会 公式Instagramの画像】 シューベルトの眼鏡

ビーダーマイアー時代を代表する音楽家・シューベルトの「眼鏡」という珍品も展示されています。銀の細い額縁のカーブのラインの美しさが実に印象的です。




第3章はウィーンの街が世紀末芸術の創造に向かって急激に変わっていく時代です。第一次大戦のさなかまで68年の長きにわたって在位し、国民に絶大な人気のあった皇帝フランツ・ヨーゼフ1世がこの章の主役です。

政治的には、ハンガリーなど東欧の領土での影響力を次々失うようになり、欧州の強国ではなくなっていきます。一方東欧と西欧の接点として欧州屈指の多民族都市となっていたウィーンでは、多文化共生のために文化が奨励されるようになり、自由な創造の芽が一斉に吹き出すようになります。

オスマン帝国の包囲から街を守るための城壁が市域拡張のために取り壊され、現在のウィーンのメインストリートとも呼べるリンク通りが建設されたのもこの時代でした。ブルク劇場や美術史博物館など著名な文化施設が次々とオープンしていきます。

【展覧会 公式Instagramの画像】 フランツ・ルス(父)「司令官の制服で祝祭に臨むフランツ・ヨーゼフ1世」(部分)
【展覧会 公式Instagramの画像】 フランツ・ルス(父)「皇后エリーザベト」(部分)

若き日のフランツ・ヨーゼフ1世と皇后エリーザベトの肖像画を見ると、超美青年と美女のカップルだったことがわかります。気品・美しさ・包容力・威厳といった皇帝夫妻の理想的なイメージがすべて凝縮されています。古きよき時代のウィーンを象徴する名品です。

【展覧会 公式Instagramの画像】 ヴィクトル・ティルクナー「作曲家ヨハン・シュトラウス(子)」

ウィーンは各時代で次から次へと著名な音楽家を輩出するすごい街でもあります。この時代はヨハン・シュトラウス(子)です。トレードマークの長い口髭が、表情を実に優雅に見せている彫刻です。




第4章はクライマックスの「世紀末」です。クリムトらこの時代の芸術家たちのパトロンはユダヤ人の富裕層でした。欧州でも最もユダヤ人に寛容な都市だったウィーンで、斬新なデザインと絵画表現が次々と登場します。第一次大戦前夜の最後の輝きでした。

【展覧会 公式Instagramの画像】 グスタフ・クリムト「エミーリエ・フレーゲの肖像」(部分)
【展覧会 公式Instagramの画像】 エゴン・シーレ「美術批評家アルトゥール・レスラーの肖像」(部分)

クリムトとシーレの代表作とも呼べる名作はこの展覧会の目玉作品になっています。

クリムト「エミーリエ・フレーゲの肖像」のは、クリムトの数ある愛人の中で最も著名な女性を描いた作品です。官能的で挑発的な表現は抑え気味で、衣装のデザインや背景にトレードマークの金色を用いていません。青と緑を基調とした衣装のデザインからは、モダニズムを代表する斬新さが感じられます。現代のスーパーモデルのような威厳が感じられます。

シーレ「美術批評家アルトゥール・レスラーの肖像」は、パトロンを描いた作品です。シーレ特有の”ジグザグ感”のバランスがうまくとられており、まるで映画俳優のようにモデルをかっこよく見せています。

【展覧会 公式Instagramの画像】 マクシミリアン・クルツヴァイル「黄色いドレスの女性(画家の妻)」(部分)

「ウィーン分離派」設立メンバーのクルツヴァイル「黄色いドレスの女性(画家の妻)」も名品です。緑色の椅子に蝶の羽のように広げられた黄色のドレスの色使いは、世紀末ウィーンを強く感じさせます。表情には温かみがあり、世紀末ウィーンの生活を満喫する市民の空気も伝わってきます。

【展覧会 公式Instagramの画像】 ベルトルト・レフラー「キャバレー・フレーダーマウスのポスター」

このポスターも、とても「世紀末ウィーン」しています。デザインには怪しげながら人懐っこさもあり、現代で言う”キモカワ”です。当時のキャバレーは遊興の場と言うより知識人のサロンでした。そんなターゲットにピッタリささったであろう、素晴らしいデザインです。



唯一の写真撮影OK作品、クリムト「エミーリエ・フレーゲの肖像」

2019年の美術展は他にも「世紀末ウィーンのグラフィック」「クリムト展」といった「ウィーンものが目立つな」と感じていらっしゃる方も少なくないでしょう。2019年は日本とオーストリアの外交樹立150年で、両国の文化交流に特に力が入った年です。ANAが羽田からウィーン直行便を就航させています。久々にウィーンに行ってみたくなった展覧会でした。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



世紀末芸術の第一人者の広島県立美術館館長がやさしく解説

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<大阪市北区>
国立国際美術館

日本・オーストリア外交樹立150周年記念
ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:国立国際美術館、ウィーン・ミュージアム、読売新聞社、読売テレビ
会場:B3F
会期:2019年8月27日(火)〜12月8日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30(金土曜 8-9月~20:30、10-12月~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この会場で展示されない作品があります。
※この展覧会は、2019年8月まで国立新美術館、から巡回してきたものです。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。


同時開催
コレクション特集展示
ジャコメッティと II
【美術館による展覧会公式サイト】 ジャコメッティと II
会場:B2F

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていますが、企画展開催時のみ鑑賞できます。



◆おすすめ交通機関◆

京阪中之島線「渡辺橋駅」下車徒歩5分、大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車徒歩10分、
JR環状線・阪神本線「福島駅」・JR東西線「新福島駅」下車徒歩10分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
JR大阪駅→大阪メトロ四つ橋線→肥後橋駅

【公式サイト】アクセス案内

※この施設に駐車場はありません。


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