全国の博物館・美術館でICOM(国際博物館会議)京都大会を記念する展覧会が行われています。京都文化博物館のICOM開催記念の展覧会はダブル開催、「百花繚乱ニッポン×ビジュツ展」と「京の歴史をつなぐ」です。
- 「百花繚乱」では東京富士美術館所蔵の江戸絵画を中心とした日本美術の名品40点を紹介
- 鈴木其一「風神雷神図襖」は、襖の表裏に別々に風神雷神が描かれた珍しい構図
- 「京の歴史をつなぐ」では、普段はない角度から京都の文化遺産の珍品を展示
- 平安時代の羅城門や江戸時代の四条河原と南座界隈のミニチュア模型がとてもわかりやすい
両展覧会とも写真撮影OKという、ユーザーフレンドリーな仕組みにも好感が持てます。写真NGが当たり前だった壁を、SNSによるPR効果が着実に崩しつつあります。
東京富士美術館は、1983(昭和58)年に創価学会インタナショナル(SGI)会長・池田大作により創設された美術館です。八王子にあります。西洋絵画や日本美術では各時代を俯瞰できるほどのコレクションを集めており、設立から間もない美術館としては驚きの約3万点を所蔵しています。
また国内外の美術館との作品の貸出/借入に非常に積極的な美術館としても知られています。今回のようなまとまった数を貸し出す展覧会も、海外を含め年に幾度も行われています。
展覧会は、「キモカワ」「サムライ」「デザイン」「黄金の国」「四季」「富士山」の6つのテーマで構成されています。最初のテーマ「キモカワ×日本美術」では、早速見応えのある「キモカワ」が目に飛び込んできます。
【東京富士美術館 公式サイトの画像】 狩野尚信「猛虎図」
【東京富士美術館 公式サイトの画像】 伊藤若冲「象図」
【東京富士美術館 公式サイトの画像】 長澤蘆雪「南天に雪兎図」
探幽の弟・狩野尚信の「猛虎図」は、墨画のタッチと大きな余白が絶妙な色合いに変化して虎の姿を幻想的に見せています。時を経ているためでしょう。大きくデフォルメされていながらもつぶらな瞳が、印象的です。若冲おなじみの“切れ目”の象も、ちゃっかり存在感を示しています。蘆雪の「南天に雪兎図」は、師匠・円山応挙の画風を忠実に再現したように、雪の静寂まで見事に表現しています。
【東京富士美術館 公式サイトの画像】 歌川広重「名所江戸百景 浅草田圃酉の町詣」
【東京富士美術館 公式サイトの画像】 歌川国芳「里すずめねぐらの仮宿」
窓際に腰掛けて外を見つめる猫の後ろ姿を描いた広重「浅草田圃酉の町詣」は、おそらくこの展覧会の「カワイイ」作品ランキング1位になるでしょう。国芳「里すずめねぐらの仮宿」は、遊女絵が禁止された際に、スズメを遊女になぞらえて賑わう遊郭の様子を描いています。絵師と版元の商魂には舌を巻きます。スズメを擬人化した表現の腕前はさすが国芳です。
「デザイン×日本美術」では、江戸琳派の師弟作品に注目です。
【東京富士美術館 公式サイトの画像】 鈴木其一「風神雷神図襖」
【東京富士美術館 公式サイトの画像】 酒井抱一「白梅図」
其一「風神雷神図襖」は4面の襖の表裏に風神雷神をそれぞれ単独で描いています。宗達→光琳→抱一と琳派の絵師にとって最重要モチーフである風神雷神を、其一は通常の二曲一双の2倍の画面サイズで、しかも表裏に描くパフォーマンスを思い付いたのです。師匠の抱一が、光琳模写の風神雷神図の裏に自信の最高傑作「夏秋草図屏風」を描いたパフォーマンスから、発想だけをパクったような気がしてなりません。
その抱一は、しとやかな「白梅図」で弟子の「風神雷神図」を見守っているようです。“たらしこみ”が美しく、茶室の掛け軸に使うと絶品です。
【東京富士美術館 公式サイトの画像】 伊年 印「春秋草花図屏風」
【東京富士美術館 公式サイトの画像】 呉春「蘭亭脩契図」
「四季×日本美術」でも琳派作品が輝いています。俵屋宗達の工房「伊年」印がおされた「春秋草花図屏風」は、寛永文化の繁栄を象徴する名品です。華やかさと上品さのバランスが見事です。一方、「蘭亭脩契図」は呉春の器用さがよくわかる作品です。彼はこの美しい南画と、師の応挙から学んだ写実画を描き分けることができたのです。
【東京富士美術館 公式サイトの画像】 「武蔵野図屏風」
「富士山×日本美術」は展覧会のフィナーレにふさわしい雄大な富士山を描いた作品がならんでいます。「武蔵野図屏風」は作者不詳ですが、江戸時代初期の作品で、やまと絵表現を意識してとても優雅に富士山と武蔵野の遠景を描いています。緑と金色をバランスよく配置しています。
3F に下りると「京の歴史をつなぐ」に展覧会がスイッチします。美術作品の展示よりも、過去の研究資料や手紙、書籍、写真といった往事の文化財との接点を伝える資料や、建造物や町並みのミニチュア模型の展示が充実しています。普段見る機会がなかなかない展示です。京都の文化財の継承の歴史をしっかりと学ぶことができます。
入口では京都の街の過去と現代の地図を重ね合わせ、飛ぶ鳥のように見たい方向に進めるVRが人気を集めていました。他にも各所で動画による解説をモニターで見ることができるようになっています。一見難しく感じられるテーマに親しみを持ってもらおうとする工夫が感じられます。
平安京の正門だった羅城門のミニチュア模型が人気を集めています。南側正面が完成後、北側裏面を建設中の状態で復原しています。建設作業に携わる人々の食事や作業道具の解説も興味深く、平安時代の研究が着実に進んでいることを興味深く学べます。
平安時代随一の貴族の藤原家の邸宅・東三条殿のミニチュア模型も、現存しない寝殿造りの邸宅と庭を忍ぶことができるみごとな作品です。江戸時代に平安京の大内裏を考証した地図も展示されており、過去の研究の蓄積が現代の歴史や文化の解釈につながっていることがわかります。
元禄時代の四条大橋の袂で7軒の芝居小屋が賑わっていたミニチュア模型にもとても関心が持てます。300年の時を経て、芝居というエンタメ需要は現存する南座に集約されていったのです。明治に岡崎で行われた勧業博覧会のミニチュア模型もあります。現在美術館が建ち並ぶエリアに、洋風のしゃれた展示会場が立ち並んでいた様子は実に壮麗です。
昭和の頃の市電が走る町並みや祇園祭の写真も展示されています。高齢の方が昔を懐かしむように熱心に見ている様子が印象的でした。
2F の常設展示コーナーの一角では「辰野金吾没後100年 文博界隈の近代建築と地域事業」も開催されています。京都文化博物館の別館・赤煉瓦の建物は旧日本銀行京都支店で、辰野金吾が設計しました。界隈の三条通を中心に続々と洋風建築が建てられた時代を検証しています。
【京都文化博物館 公式サイト】 辰野金吾没後100年 文博界隈の近代建築と地域事業
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
博物館の舞台裏ってどうなってる?
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<京都市中京区>
京都文化博物館
特別展
ICOM京都大会開催記念 東京富士美術館所蔵
百花繚乱 ニッポン×ビジュツ展
【京都文化博物館による展覧会公式サイト】
【東京富士美術館による展覧会公式サイト】
主催:京都府、京都文化博物館、京都新聞、テレビ大阪
会場:4F特別展示室
会期:2019年8月25日(日)〜9月29日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金曜~19:00)
企画展
ICOM京都大会開催記念
京の歴史をつなぐ
【京都文化博物館による展覧会公式サイト】
主催:京都府、京都文化博物館
会場:3F総合展示室
会期:2019年8月29日(木)〜9月29日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~19:00
◆両展覧会共通
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この展覧会は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。
◆おすすめ交通機関◆
地下鉄烏丸線「烏丸御池」駅下車、5番出口から徒歩3分
阪急京都線「烏丸」駅下車、16番出口から徒歩7分
京阪電車「三条」駅下車、6番出口から徒歩15分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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