伊藤若冲の「樹花鳥獣図(じゅかちょうじゅうず)屏風」は、升目書きでカラフルに動物たちを描いた傑作としてとても著名な作品です。所蔵している静岡県立美術館で行われる展覧会でぜひ見たいと以前から思っていましたが、ようやく念願がかないました。「屏風爛漫」展の目玉作品として登場しています。
- 樹花鳥獣図は本拠地・静岡県美でも公開機会は少ない、高精細複製品もあわせて展示される
- 屏風作品に特化した珍しい展覧会、折り曲げた平面だからこそ感じる魅力を発見できる
- 近世・近代絵画コレクションでは定評のある静岡県美、企画展でもすぐれた作品を他所から集めている
訪れた日はサクラが満開で混雑しているにもかかわらず、駐車場の空車案内情報盤が故障して渋滞を招いていました。展覧会の中身は素晴らしいものでしたので、残念でした。
綴プロジェクトによる高精細複製品は写真撮影OK
静岡県立美術館は、富士山や南アルプスをのぞむ景勝地として名高い日本平の北側の山麓にあります。日本平を挟んだ反対の南側には、徳川家康が駿府で生涯を終えた直後に葬られた久能山東照宮があります。美術館には県立中央図書館や県立大学が隣接しており、静岡市における県の一大文教エリアになっています。
県立美術館の開館は1986(昭和61)年で、バブル期に多く見られた地方美術館の開館ラッシュの典型です。多くの地方美術館はコレクションの充実に苦労し、「ハコもの行政」と揶揄されました。静岡県立美術館は、地方の都道府県立の美術館の中でもコレクションの充実ぶりが目立ちます。一例をあげると、昨年話題を呼んだ横山大観展でチラシに採用された「群青富士」も静岡県美の所蔵品です。
【静岡県立博物館公式サイトの画像】 横山大観「群青富士」
公式サイトに大口寄贈者の名前が掲載されていないためわかりませんが、県内を中心に質の高いコレクターからの寄贈もしくは購入が蓄積された賜でしょう。
美術館入口のある本館
今回の展覧会「屏風爛漫」は、全27点の屏風の内、11点が館蔵品です。館蔵品は伊藤若冲や石田幽汀をはじめ、無落款の作品も含めて非常に充実している印象を受けます。私は静岡県美を訪れるのは初めてでしたが、うわさに聞いていたコレクションの質の高さをこの目で確認できたような気がしました。
展覧会順路の最初のテーマは「祝祭の空間」、その入口正面に若冲の「樹花鳥獣図」が展示されています。目玉作品をトップバッターに持ってきたことから、後に続く作品の質の高さに学芸員は自信を持っていると感じられます。
【静岡県立博物館公式サイトの画像】 伊藤若冲「樹花鳥獣図屏風」
私は「樹花鳥獣図」の本物を見るのはこれが2回目です。最初に見たのは2016年春に滋賀県のMIHO MUSEUMで開催された「かざり」展です。「樹花鳥獣図」と同じく、モザイク模様のような升目書きで描かれたプライス・コレクションの「鳥獣花木図」が同時に展示されたことで、話題を呼んだ展覧会です。
比較して見た第一印象は、静岡県美の「樹花鳥獣図」の方が表面の剥げや彩色の劣化が目立ち、保存状態が良くないことです。「かざり」展では、両作品は横に並列ではなく対面するように展示されていましたが、それでも明らかにわかりました。プライス・コレクションの「鳥獣花木図」の方が明確に彩色や升目が美しく残っています。
静岡県美の「樹花鳥獣図」は、描かれた動物や植物の種類が多く、生き物の楽園としての華やかな情景がより伝わってきます。どちらが良いかという次元を超えてすぐれた作品同士であることだけは間違いありません。
今回の展覧会では、単独で見るので保存状態の問題は目立たなくなります。かえって若冲が到達した独自の世界観を幽玄に示しているように感じられます。絵は見せ方で本当に印象が変わってしまします。高精細複製品を順路の最後において状態を比較しにくいようにしたのは、本物しか発しないオーラに敬意を表したためでしょう。高精細複製品を写真撮影OKにするために分離したという理由もあると思われます。いずれにしろ心憎い演出です。
全体の2/3ほどが六曲一双(ろっきょくいっそう)で作品が大きく、一点一点かなりの迫力があります。
【静岡県立博物館公式サイトの画像】 石田幽汀「群鶴図屏風」
円山応挙の師として知られる石田幽汀「群鶴図屏風」は、おびただしい数の鶴の集団を描いた珍しい構図です。一羽ごとの描写はかなり精密で、屏風の中からはばたくように思わせるリアル感があります。江戸時代の写実表現の先陣を切ったような作品です。テーマ「祝祭の空間」にふさわしい名品です。
【静岡県立博物館公式サイトの画像】 小林清親「川中島合戦図屏風(裏:龍虎墨竹図)」
続くテーマは「屏風いろいろ」。屏風で表現されるモチーフや構図の多様性を味わえます。
明治初期の東京の街並みを抒情的に描いた”光線画”で知られる小林清親には珍しい、故実をモチーフにした作品です。裏にこれまた古典的な龍虎竹を描いているのも面白いところです。武田信玄を守る兵たちが上杉謙信の突進を前にして、どこかへっぴり腰に見えるのがユニークです。
続く「四季を愛でる」では、狩野山雪「四季花鳥図屏風」個人蔵が注目されます。山雪らしく、まっすぐ描いた岩場の間に雄大な空間を設け、その空間を取り囲むように木々や鳥をさりげなく配置しています。屏風で折り曲がった空間はより奥行きがあるように見えます。京都的なとても上質な印象を与える作品です。
【静岡県立博物館公式サイトの画像】 狩野永良「西王母・東方朔図屏風」
狩野永良(えいりょう)は、山雪から4代後の江戸時代半ばの京狩野の当主です。「西王母・東方朔図屏風」は主要クライアントである御所や公家好みを感じさせる一方で、文人画のような洒脱さもあります。とても不思議な作品です。
点数は27点とさほどではないですが、作品が大きいだけにとても濃厚な展覧会です。見終わった後は案外疲れを感じるかもしれませんが、リフレッシュできり空間もきちんと用意されています。ロダン作品を体育館のような巨大空間に点在させた展示室・ロダン館です。屏風を見た後に、180度雰囲気が異なる芸術作品を見ると、水を得た魚のようにどこかシャキッとしてきます。
ロダン館
若冲の升目書き作品はもう一点、個人蔵「白象群獣図」があります。静岡県美に寄託されているという話を聞いたことがありますので期待していましたが、今回の展覧会には出展されていませんでした。登場機会を楽しみに待ちたいところです。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
インテリアに面白い
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静岡県立美術館(静岡市駿河区)
企画展
屏風爛漫 ひらく、ひろがる、つつみこむ
【美術館による展覧会公式サイト】
主催:静岡県立美術館
会期:2019年4月2日(火)〜5月6日(月)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:00(金土曜~19:30)
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この会場で展示されない作品があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。
◆おすすめ交通機関◆
静岡鉄道「県立美術館前」駅下車、南口から徒歩15分
JR東海道線「草薙」駅下車、県大・美術館口から徒歩25分
JR静岡駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
静岡駅→徒歩→新静岡駅→静岡鉄道→県立美術館前駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には無料の駐車場があります。
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