西日本最大の巨大ターミナル、大阪・梅田から北に一駅行くと中津の町があります。古くからオフィス・工場・飲食店と住宅が混在するエリアですが、近年は梅田が近いこともあってタワーマンションの建設が目立ちます。
その中津に、1年に2か月間しか開館しない一風変わった美術館があります。戦国末期から江戸時代初期にかけて、日本と西洋の交流の結果生まれた南蛮美術を収集・展示する南蛮文化館です。
重要文化財の南蛮屏風を筆頭に、螺鈿や金細工など、日本人が初めて出会った西洋人から学んだ文化がとても器用に表現されていることには驚きます。キリスト教信仰に用いた絵画や十字架からは、信者の敬虔な思いが現代にも伝わってきます。
神戸市立博物館の池永コレクションと並んで日本有数の南蛮美術コレクションです。11月に鑑賞できます。
関西は大阪府北部を中心にキリスト教信者が安土桃山時代に多く存在しました。高槻城主だった戦国大名・高山右近が中でも著名です。江戸時代になって禁教になると、信者は地下へもぐります。信仰に関わる品は開かずの蔵の奥で400年間眠り続け、20cになって発見されて、明るみに出たものが大半です。
南蛮文化館は、代々中津一帯の広大な地主だった北村家の当主が戦後になって収集を始め、1968(昭和43)年に現地に開館しました。収集にあたっては神戸市立博物館に南蛮美術コレクションを寄贈した池長孟(いけながはじめ)の著作をよく研究していたようです。収集のために多くの不動産を手放したのも池長孟と同じです。
公開を年に2か月、5月と11月に限っているのは開館当初からの伝統で、気温と湿度の影響から作品を守るため、とのことです。
入口
重要文化財の南蛮屏風は、2Fの南蛮美術の展示室にあります。六曲一双のツインの大画面にまず圧倒されます。洛中洛外図のように南蛮人と日本人の交流の様子を金地に描いた典型的な画風で、南蛮船や黒人、宣教師、教会といった基本アイテムが繊細に描かれています。
神戸市立博物館の狩野内膳筆の重要文化財・南蛮屏風の描き方に近く、とても構図のバランスが良い印象を受けます。彩色も綺麗にのこっており、大切に守られてきたのでしょう。
2Fには洛中洛外図もあり、東西交流に関連する安土桃山時代の文化全般に、北村氏の関心が及んでいたことがうかがえます。十字架の文様が入った茶碗は、デザイン的にとても興味深い作品です。どんな味がするか、この器でぜひ茶を飲んでみたいと思ってしまいました。
1Fはキリシタンが信仰に用いた遺品が展示されています。「悲しみのマリア像」はファンも多いようで、イタリア人画家が描いたという陰影を駆使した表情の描写が目を引きます。旧家の土塀に竹筒に入れられた状態で隠されていたそうです。丸められた際の折り目が痛々しいですが、マリアの顔の部分にはなぜか目立った折り目が入っていません。このことも神がかり的なパワーを感じさせます。絵としても素晴らしい名品です。
天正遣欧使節の記録文書や十字架など、400年前のキリシタンの息吹が伝わってくる遺品が数多く展示されています。安土桃山時代は、西洋という新しい刺激に、とても生き生きとしていたのだと思いを馳せます
こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。
南蛮とは何ぞや?
南蛮文化館
【公式サイト】http://www.namban.jp/namban/
会期:毎年5月と11月
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:00
※この美術館は毎年春秋の2か月間のみ、所蔵品を入れ替えながら公開しています。
※ご紹介した作品が展示されていない場合もあります。
◆おすすめ交通機関◆
阪急神戸線・宝塚線「中津」駅下車徒歩3分
大阪メトロ御堂筋線「中津」駅下車5番出口から徒歩6分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
JR大阪駅(阪急梅田駅)→阪急神戸線・宝塚線→中津駅
※この施設には駐車場はありません。
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