北京の故宮で、スケールの大きさと高貴さを兼ね備えた外朝(がいちょう)エリアに引き続き、内廷(ないてい)エリアをレポートします。皇帝と家族のプライベートな建物が中心で、外朝とはうって変わって禁じられたエリアの日常を垣間見ることができます。
- 小さな区画が密集、室内に入れるところもあり、建物空間の個性の違いが味わえる
- 権威を誇示するようなデザインは少なく、こじんまりして落ち着いた空間が魅力的
- 西太后や溥儀ゆかりの建物も多く現存し、中国の近代史を目の当たりにできる
- 美術品の展示が複数個所で行われており、皇帝たちの愛したコレクションを堪能できる
公開されている区画・建物だけでも数十か所あります。外朝を見た後、いったん休憩してから回遊を始めないとかなり疲労します。もし疲労で内廷を見るのをあきらめると、北京旅行最大の失態になります。
ジョンストンが溥儀に家庭教師をした養性斎
内廷は外朝の最も奥にある保和殿(ほわでん)のすぐ北に位置する乾清門(けんせいもん)からおおむね北側のエリアで、乾清門は内廷の正門にあたります。
乾清門の北側の乾清宮・交泰殿・坤寧宮で構成されるエリアは「三宮(さんきゅう)」と呼ばれ、外朝の三殿と同じく紫禁城の中心線上にあり、内廷で最も重要なエリアです。乾清宮(けんせいきゅう)は、清朝の康熙帝(こうきてい)までは皇帝の寝室で、以降は皇帝が政務を執った建物です。
内廷の建物は比較的小さく、室内に入れるところも少なからずあります。間近に王朝美の装飾デザインが味わえる点も外朝では体験できない魅力です。
軍機処
乾清門の西隣には軍機処(ぐんきしょ)があります。高校の世界史の教科書で習った記憶のある方もいらっしゃるでしょう。皇帝への諮問機関として絶大な権力を誇った役所で、清朝末期に暗躍した軍閥・袁世凱(えんせいがい)もここに所属していました。
権力の大きさの割には小さい建物で、内部は軍機処の歴史がパネル解説されています。19cに眠れる獅子・清朝が崩壊していく矢面に立った歴史の生き証人です。
三宮から両側は妃の居住エリアで、それぞれ東/西六宮(ひがし/にしろっきゅう)と呼ばれています。清朝末期の同治帝の生母で絶大な権力を誇り、”悪女”のイメージが定着している慈禧皇太后は西六宮に居住していたため、西太后(せいたいごう)と呼ばれています。格式は日本と同じく東の方が上のようです。
御花園は紫禁城の中の楽園、溥儀もここで過ごした
三宮の北側は御花園(ぎょかえん)と呼ばれ、皇帝や妃が楽しんだ庭園のようなエリアです。紫禁城の中では目立って緑が多く、四季の花も楽しめます。中国全土から集められた石の築山が景観をさらに多様にしており、南国のような明るい雰囲気があふれています。
一角には、ラストエンペラー・溥儀が皇帝退位後に、スコットランド人家庭教師・ジョンストンから英語を習っていた養性斎(ようせいさい)がのこされています。室内には入れませんが、2Fに設けられた廊下が西洋風のデザインで印象付けられます。
神武門で行われていた展覧会
御花園のすぐ北側は、紫禁城の北側の門・神武門です。故宮の出口になっていますが、上層階は展覧会場になっています。ちょうどヴァチカン美術館とタイアップした展覧会が行われていました。故宮内では常時数か所でコレクションの展示や企画展が行われており、一大展覧会スポットにもなっています。
神武門は楼閣に上ることができ、故宮の黄色い屋根や北側の景山公園の絶景を間近にのぞむことができます。また北東隅の角楼(かくろう)まで高さ10mの城壁の上を歩いていくことができ、とても優雅な気分になれます。角楼は見張り台のような建物で、デザインは日本の天守閣によく似ています。
水晶宮
東六宮の延禧宮(えんぎきゅう)には、紫禁城初の西洋式鉄筋コンクリートで造られた水晶宮と呼ばれる建物が現存しています。紫禁城内には西洋風の建築はほぼないため、とても斬新です。
東六宮のさらに東側には追加料金が必要なエリアが二か所あります。一つ目は「奉先殿(ほうせんでん)区」で、清朝が蒐集した世界中の時計が展示されています。日本の江戸・明治の時計と同様に、”超絶技巧”が連発です。
故宮の一級の美術品は台北だけではない
もう一つは「寧寿宮(ねいじゅきゅう)区」です。故宮のコレクションの常設展示では最大規模の「珍宝館」が含まれるため、必見のエリアです。故宮の一級品はすべて台北にあると思いがちですが、珍宝館の展示を見るとそれが”思い込み”であることに気付きます。
台北に移されたのは全体の1/3ほどで、国共内戦の混乱の中、あらゆる一級品をチェックして台湾に移送するのは不可能だったことが容易に予想されます。北京の故宮の珍宝館に展示されている宝飾品や王冠などの金細工を見ると、国民党にとっては台湾に”移し漏らした”と感じざるを得ない一級品ばかりです。
暢音閣
珍宝館では清朝の乾隆帝ゆかりの品も見応えがあります。寧寿宮は清朝全盛期の最後の皇帝・乾隆帝がお気に入りだったエリアで、清朝全盛期の洗練された芸術空間が見事にのこされています。
乾隆帝の時代から70~80年後、西太后もこのエリアを愛していたようです。頻繁に鑑賞したと伝えられる京劇の舞台・暢音閣(ちょうおんかく)がのこされています。緑を基調としたデザインがどこか女性的ながらも、とても高貴な印象を与えます。
内廷こそ中国の王朝美を楽しめる
内廷エリアは、外朝エリアに比べて人波が目立ちません。外朝にあるような大きな広場は皆無で、小さい区画に分散するため目立たなくなっていると思われます。また外朝に比べ、中国人の団体客も少なめな印象です。知名度の高い太和殿周辺だけを見て帰ってしまう団体が少なくないと思われます。
内廷の区画は高さ10mもある赤い壁で囲まれており、外の様子はまったくうかがい知ることができません。巨大な壁は、皇帝であっても自由に外出できない窮屈さを象徴していますが、反面誰にも干渉されずに自分の好みに合わせて生活や芸術を楽しんだ空間なのでしょう。形式にとらわれない王朝美が時代や主人に応じて表現されていると感じられます。
内廷を見るとあらためて、紫禁城が世界遺産の中の世界遺産であることを実感します。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
世界の巨大建造物のトリビアには驚愕
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<中華人民共和国北京市東城区>
故宮博物院
【公式サイト(英語)】https://en.dpm.org.cn/
【AraChina 中国旅行(日本語)】紫禁城(故宮)
原則休館日:月曜日、春節の前日(旧正月の大晦日)
入館(拝観)受付時間:8:30~16:00(11-3月は~15:30)
※公開されるエリアは、修復工事などにより頻繁に変更されます。
※公開されるコレクションは、頻繁に変更されます。
※天安門に入る際のセキュリティチェックとチケット購入にそれぞれ30分以上要する場合があります。
※入場者数が80,000人を超えると、その日の入場は打ち切られます。
※週末を中心に中国の連休時期は混雑が激しくなります。
※有料エリアへの入口は南側の午門、出口は北側の神武門と東側の東華門に限定されます。
※外国人観光客は実質的にチケットのオンライン予約は利用できません。
※外国人観光客はチケットの購入にはパスポート(現物)が必要です。
◆おすすめ交通機関◆
地下鉄1号線「天安門東」もしくは「天安門西」駅下車
「午門」チケット売り場まで各徒歩10分(セキュリティチェックの待ち時間含まず)
「午門」から内廷エリア正門「乾清門」まで徒歩15分(外朝見学時間含まず)
北側出口「神武門」から地下鉄8号線「中国美術館」駅まで徒歩15分
東側出口「東華門」から地下鉄1号線「天安門東」駅まで徒歩10分
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