京都の西陣にある大報恩寺(だいほうおんじ)は全国的な知名度はさほど高くありませんが、京都では千本釈迦堂(せんぼんしゃかどう)の通称でとても愛されている寺です。本堂は洛中(京都市街の中心部)で唯一、応仁の乱を生き抜いた奇跡的な建造物です。
そんな奇跡の本堂と共に、応仁の乱を生き抜いた美仏が東博に出開帳(でかいちょう)します。普段は防災のため本堂と霊宝殿に分かれて安置されている仏様が、本堂で本尊を囲むように安置されていた元来の状態で展示されます。最近の展覧会の仏像展示では必須となっている360度鑑賞もばっちりです。
鑑賞という目的では格段に環境が良くなります。京都から出開帳を見に東京にまで出かけることは永らく”ありえない”ことでしたが、最新の展覧会はわざわざ出かける価値があります。
大報恩寺は、鎌倉時代初めの1221(承久3)年に創建されました。国宝の本堂はその6年後の上棟で、洛中最古の建造物です。京都で一番と言いたいところですが、京都市全域では郊外の醍醐寺・五重塔が最古です。平安時代半ばの951(天暦5)年建立です。こちらも数々の戦乱を生き抜いた奇跡的な建造物です。
大報恩寺・本堂建築の大工の棟梁の妻だった女性が、ふくよかなお面で知られる「おかめ」の発祥と京都では知られています。夫婦円満など、千本釈迦堂で最も信奉を集めるご利益となっています。
【公式サイトの画像】 ご紹介した作品の画像が「展覧会のみどころ」に掲載されています
本尊の重文・釈迦如来坐像は快慶の後継者である行快(ぎょうかい)の作です。寺創建の頃の造立で、快慶らしい落ち着きと洗練を兼ね備えた作風をきちんと受け継いでいる印象を受けます。そんな中にも目じりのやや上がった行快の個性も表現されています。師よりもさらに腕を磨いたことを、行快が形に残したかったように思える本当に美しい美仏です。
本尊は現在も年3回(8月六道まいり、12月大根炊き、正月)の計14日ほどしか公開されていない秘仏です。黄金色の肌がのこされており、保存状態の良さも見事です。
応仁の乱を生き抜いた国宝の本堂
本尊・釈迦如来以外の仏像は普段は霊宝殿にいらっしゃいます。本尊を取り囲む本来のポジションで展示されている重文・十大弟子は、寺創建直前から本堂上棟の頃にかけて、快慶とその一門により造立されたものです。十体揃っていることも、他に聞いたことがありません。
十大弟子の造立例では興福寺・国宝館所蔵(現存は6体のみ)がよく知られています。素朴な印象を受ける奈良時代の興福寺の十大弟子に比べ、鎌倉仏だけあってリアルな表現がとても目立っています。釈迦の高弟たちが仏法の習得に立ち向かう真剣な姿を、実に写実的に美しく表現しています。
【公式サイトの画像】 興福寺・国宝「乾漆十大弟子立像」
私個人的には重文・六観音像が最も楽しみでした。京都・千本釈迦堂の霊宝殿でもお会いしていますが、ほれぼれするほど美しいいお姿はもちろん、やはり背後を見られることがポイントです。
六観音とは、六道輪廻と観音信仰が結びついた日本独自のものです。”6”に合わせるように、六種の観音が六道ごとに人々を救うとされ、平安時代に大流行しました。六観音揃った現存例は他にありません。作者と製作年代がわかっていることもあり、国宝昇格に相応しいのではと個人的には期待しています。
六観音は1224(貞応3)年頃の造立で、作者は運慶の次男・康運が改名し名乗った肥後定慶(ひごじょうけい)とその一門と考えられています。他の作例では京都・鞍馬寺の聖観音像が著名です。
六観音像は、運慶の確立した写実表現に女性的な繊細さが加味されています。お顔もそうですが、背後から見たなで肩やお尻のラインが実に艶やかです。聖観音の二の腕の細さと指先の表現も絶品です。10/30からの後期展示では光背が外されます。背中の美しさがよりわかるようになります。
展覧会では、北野経王堂(きたのきょうおうどう)に関する解説・展示がしっかりとなされています。北野経王堂は足利義満が建立した寺で、三十三間堂よりはるかに大きい巨大な堂宇がありました。江戸時代には荒廃しましたが、伝来品の多くが大報恩寺に移管されて現存しています。六観音像も北野経王堂にあったものと考えられています。
方広寺大仏と同じく、京都でも知る人が少なくなった北野経王堂ですが、輝いていた時代があったことを紹介しようとした展覧会の企画者には頭が下がります。
東博からスカイツリーが見えます
昨年2017年にも「史上最大の運慶展」で話題になったように、東博は仏教美術の大規模展がトレンドです。来年2019年春には東寺・講堂の立体曼荼羅がやってきます。平安時代のイケメン仏のトップスター・帝釈天ももちろん出開帳します。どんな展示の演出があるのか、今からとても楽しみです。
こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。
慶派の仏師は運慶・快慶ほかにもたくさんいます
東京国立博物館
特別展 京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】
主催:東京国立博物館、大報恩寺、読売新聞社
会期:2018年10月2日(火)~12月9日(日)
会場:平成館 2F特別展示室 第3室・第4室(デュシャン展の向かい側)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~20:30)
※10/28までの前期展示、10/30以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
大報恩寺(千本釈迦堂)
【公式サイト】http://www.daihoonji.com/
◆おすすめ交通機関◆
JR「上野駅」下車、公園口から徒歩10分
JR山手・京浜東北線「鶯谷駅」下車、南口から徒歩10分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩15分
東京メトロ・千代田線「根津」駅下車、1番出口から徒歩15分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩15分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR東京駅→山手・京浜東北線→上野駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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