上野の西洋美術館でかなり大規模な「ルーベンス」展が行われています。ルーベンスは、17cのヨーロッパで最も人気のあった画家の一人で、明るく濃厚なタッチのバロック絵画が各国の宮廷を魅了していました。1975年のアニメ「フランダースの犬」の最終回を思い出す方もいらっしゃるでしょう。
展覧会では幅広いモチーフのルーベンス作品約40点が世界中の美術館から集められており、迫力のある作品のオンパレードです。2018年秋の上野は、フェルメール、ムンク、デュシャン、大報恩寺とはずせない大規模展が勢揃いです。西洋美術館のルーベンス展はとてもよく仕上がった展覧会と言えます。
主に市民が顧客だったフェルメールと主に宮廷・教会が顧客だったルーベンスの二人の魅力は本当に対照的です。17cのヨーロッパ絵画はとても華やかな時代でした。
ルーベンスはアントワープの名家の出身で、8年間のイタリア留学で画家としての地位を不動のものにします。各国の宮廷にも顔が広く、外交官のような仕事もこなしていた紳士でした。
展覧会は、彼を大いに飛躍させることになったイタリアとの関わりを軸に、絵のモチーフごとにフロアを構成しています。
彼がイタリアを訪れたのは1600年からの8年間で、イタリア各地で古代ローマやルネサンスの巨匠たちの作品の表現を学びます。また当時のローマはカラヴァッジオの超リアルなバロック絵画が人気を集めており、明暗と写実を徹底したカラヴァッジオの表現からも大いに刺激を受けました。
イタリアはルーベンスにとって絵画を学んだだけではなく、ヨーロッパ中の宮廷に広がる彼の人脈を広げるきっかけとなった国でもあります。訪ねた宮廷や教会の実力者に気に入られ、次の訪問先への紹介状をもらったり、使者として訪ねるようになっていました。こうして彼の人脈は芋づる式に広がっていきます。偉い人の心をつかむのが上手ないわゆる”ジジイ殺し”の才能にあふれていたのでしょう。
ルーベンスはアントワープへの帰還後も思いでの地・イタリアの友人との交流を大切にします。何度も再訪を試みたようですが、ついにはかないませんでした。外交官の仕事や大量に舞い込む絵の注文をさばく大工房の経営など、超多忙な人だったのです。
展覧会は肖像画のフロアIから始まります。「クララ・セレーナ」は、ルーベンスの長女の5歳の頃の肖像画で、つぶらな瞳の前には自然と人が多く集まってきます。ルーベンスの面影も感じます。この作品を所蔵するリヒテンシュタイン侯爵家はスイスとオーストリアに挟まれたミニ国家の元首で、世界有数の絵画コレクションを持つことでも知られています。
展覧会には侯爵家から8点が出展されています。展覧会チラシ表紙に採用された「エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち」は最後のフロアVIIで輝きを放っています。ギリシャ神話の寓意を描いたこの作品は、ルーベンスらしいふくよかな肉体表現と赤い頬がまるでぷよぷよと動き出すように描かれています。傑作です。
侯爵家コレクションは素晴らしい作品ばかりです。絵の解説パネルでは所蔵先を確認してみてください。
【公式サイトの画像】 リヒテンシュタイン侯爵家コレクション(SCALA archives)「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」
【公式サイトの画像】 リヒテンシュタイン侯爵家コレクション(SCALA archives)「エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち」
フロアVIには「絵筆の熱狂」というタイトルが付けられています。これは後世に彼の作品を評して名付けられたもので、その名の通り躍動感にあふれた作品が目白押しです。
「パエトンの墜落」はギリシャ神話の一場面を、ローマ滞在時に描いたものです。画家として初期の作品で、タッチに若々しさが見えます。雲の間から強く照らす太陽光線をスポットライトのように浮かび上がらせる手法は、イタリアのバロック絵画によく見られます。イタリアへの強い思い入れを感じさせます。
【公式サイトの画像】 National Gallery of Art, Washington DC「パエトンの墜落」
ルーベンスは大画面の作品が多いことでも知られています。日本初公開の「聖アンデレの殉教」も3m×2mの大作で圧巻の迫力です。他にも大作は多く、世界中の美術館から借りていることから、輸送費と保険料がかなりの高額になっていると想像できます。そんな努力が実った、素晴らしい構成の展覧会に仕上がっています。
地下の入口横のロビーでは、アントワープ・聖母マリア大聖堂の「キリスト昇架」「キリスト降架」の美しい4K映像が流されています。「フランダースの犬」の最終回で、ネロ少年がこれら絵に祈りながら息を引き取ったあのルーベンスの最高傑作です。手を合わせたくなるようなオーラは映像を通じてでも感じられるほどです。こちらもぜひ。
JR上野駅の公園口を北側に移設する工事が行われていました。西洋美術館と東京文化会館の間の大きな通りの正面に改札ができ、車を通れなくして横断歩道もなくすようです。2020年7月、オリンピック直前の完成予定ですが、現在の改札前の信号待ちの混雑がなくなるだけでもずっとスムースになります。
こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。
欧州美術史の巨匠が語るルーベンス
国立西洋美術館
ルーベンス展 ―バロックの誕生
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】
主催:国立西洋美術館、TBS、朝日新聞社
会期:2018年10月16日(火)~2019年1月20日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~17:00(金土曜~19:30)
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
◆おすすめ交通機関◆
JR「上野駅」下車、公園口から徒歩2分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩8分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩8分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
JR東京駅→山手・京浜東北線→上野駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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