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横浜美術館に原三溪旧蔵品が一堂に里帰り_まさに夢の美術館9/1まで

2019年08月01日 | 美術館・展覧会

横浜美術館で、日本美術史上最高峰のコレクターである原三溪(はらさんけい)のコレクションを全国から集めた大々的な展覧会「原三溪の美術 -伝説の大コレクション」が行われています。三溪の生前にかなわなかった美術館創設の夢が、没後80年の今年2019になって実現した、”夢”のような展覧会です。

  • 横浜を愛した三溪の旧蔵品が一堂に里帰り、史上最高の”同窓会”と言える灌漑深い展覧会
  • 三溪旧蔵品を所蔵する全国の美術館が、生誕150年&没後80年の記念展開催に大々的に協力
  • 三溪という人物の灌漑深いフィランソロピー精神を強く体感、現代人も三溪から多くを学ぶべし


2019年は横浜美術館にとって開館30周年でもあり、郷土のヒーローでもある三溪の生誕・没後の節目の年と重なります。横浜美術館としてまさに満を持した展覧会です。




首都圏在住の方は関東随一の名園で名高い横浜・本牧の三溪園から、原三溪の名前を知っている方も少なくないと思われます。明治から大正にかけて日本の基幹輸出産業だった生糸で巨万の富を築き、美術品の蒐集もさることながら、関東大震災の復興など、横浜の街にとってはかけがえのないヒーローが原三溪です。

現在に続く大企業をのこさなかったため実業家としての知名度は全国的には高くないですが、日本の美術史にとっては偉大な功績を残した数寄者(すきもの)です。超一流の審美眼を通じて超一級品が集まったことにより、散逸や破損を最小限にとどめ、多くの蒐集品が美術館に安住の地を得る礎をのこしました。

美術品は所蔵者を転々とすると、管理が安定しないことから破損したり行方不明になったりしがちです。

原三溪は美術品だけでなく、解体の危機にさらされていた古建築も蒐集し、広大な三溪園の中に風景と調和するよう移築しています。三溪園が名園と呼ばれる所以は、関東大震災や第二次大戦の戦災を耐え抜いて今にのこった古建築の素晴らしさにも支えられていることに、ほかなりません。

原三溪は自らの本宅として造営した三溪園の一部を1906(明治39)年に市民に無料公開しています。美術や文化におけるフィランソロピーを実践した近代の実業家としては異例の早さです。その三溪園の中に、自らの蒐集品を公開する美術館創設も夢見ていましたが、関東大震災の復興事業に忙殺され、実現できませんでした。

今回の展覧会は三溪の夢を実現するとともに、パトロンとしても若手美術家を育てた三溪のフィランソロピストとしての側面もたっぷり味わえます。150点を超える出展品の多くは、長期公開が困難な日本画です。展示期間は一般的な日本画の展覧会よりかなり細かい6期に分かれていることにご留意ください。


三溪園の雄大な風景

展覧会は、三溪の数寄者としての多彩な側面が理解しやすいよう構成されています。

  • プロローグ
  • 第1章 三溪前史 -岐阜の富太郎
  • 第2章 コレクター三溪
  • 第3章 茶人三溪
  • 第4章 アーティスト三溪
  • 第5章 パトロン三溪


企画展会場の2F入口では、三溪蒐集品の中核と呼べる超一級品を第二次大戦直後の混乱期に引き継いだ奈良・大和文華館とその初代館長・矢代幸雄(やしろゆきお)の功績がパネルで紹介されています。矢代は松方コレクションの形成にも関わった当時を代表する美術史家であり、若い頃から三溪の審美眼に薫陶を受けていました。

今回の展覧会でも国宝「寝覚物語絵巻」、南宋画の超一級品として伝毛益筆の重文「蜀葵遊猫図/萱草遊狗図」など数多の名品が横浜に里帰りします。


プロローグで三溪の足跡をまずは押さえる

「プロローグ」では展覧会の構成を俯瞰できるよう、章立てにもなった三溪のコレクター/茶人/アーティスト/パトロンとしての側面を物語る作品がコンパクトにかつ刺激的に揃えられています。

三溪が特にお気に入りだった琳派の作品が目を引きます。尾形乾山作の重文「武蔵野隅田川図乱箱」大和文華館蔵は、桐の箱に直接線だけで描いて表現しており、今見てもかっこいいと感じられる乾山らしいデザインが秀逸です。8/7までの展示です。

【展覧会公式サイト コレクター三溪】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

8/9以降は同じく大和文華館蔵で、三溪が薫陶していた本阿弥光悦作と伝えられる重文の「沃懸地青貝金貝蒔絵群鹿文笛筒(いかけじあおがいかながいまきえぐんろくもんふえづつ)」に展示替えされます。”光悦作”と特定されていませんが、光悦らしい動物をシルエットのように描く表現が見事です。

【横浜美術館 公式サイトの画像】 今村紫紅「伊達政宗」

三溪がパトロンとして支援した今村紫紅の「伊達政宗」横浜美術館蔵は、小田原の陣の秀吉の下にはせ参じた伊達政宗を、有名な白装束でもなく、眼帯もつけない素顔で描いています。背景に十字架を描くことで政宗の決意を示しており、歴史人物画の斬新な表現として注目されます。通期展示です。



主要な三溪旧蔵品を所蔵する大和文華館

「第1章 三溪前史 -岐阜の富太郎」では、三溪が横浜で原家に婿入りする前の岐阜の実家の写真や、三渓に文人画を教えた祖父の作品が展示されています。三溪の美術への目覚めは、文人画からスタートします。

「第2章 コレクター三溪」では、茶道具以外の古美術コレクションが集約されており、三溪のコレクションの幅の広さと審美眼の高さをしっかりと確認できる、今回の展覧会でも最も華やかな章です。

【e国宝の画像】 「孔雀明王像」東京国立博物館蔵

第2章の展示は仏画から始まります。日本仏画の最高傑作の一つ、国宝「孔雀明王像」東京国立博物館蔵は、時の重鎮・井上馨から美術品としては当時の最高記録の一万円で購入し、コレクターとしての名を一躍有名にした記念碑的な名品です。

高野山に伝来していたこの仏画は、細かく刻んだ金/銀箔を絵の模様にそって貼っていく「截金(きりかね)」という手法で装飾されているほか、平安時代末期の作とは思えないほど彩色もよく残っています。夜間の暗い密教の儀式でしか使用されなかったためと考えられますが、驚異的な保存状態のよさです。真っ暗闇の中、ろうそくの灯りだけでこの作品を見てみたいものです。

展示は8/78までです。8/9以降は重文「愛染明王像」細見美術館蔵と入れ替えされます。

【大和文華館 公式サイトの画像】 「寝覚物語絵巻」

国宝「寝覚物語絵巻」大和文華館蔵も、「孔雀明王像」と並んでこの展覧会の目玉作品の一つです。王朝文化の繊細な表現の美しさは国宝「源氏物語絵巻」に匹敵し、雲母や切箔による装飾性の高さにも息をのみます。幕末に館林藩主を務めた秋元家が後水尾天皇から拝領したと伝わる至宝を三溪が入手したものです。

愛好していた琳派の画家たちに影響を与えた名品であると三溪が推察していたほどのお気に入りの作品です。8/9以降の展示です。


 近世絵画の魅力も三溪は見逃さなかった

三溪のコレクションは江戸時代以前の作品では浮世絵を除いてほとんど網羅されており、各時代の一級品が揃っていることが展示からは伝わってきます。

【京都国立博物館 公式サイトの画像】 伝雪舟等楊「四季山水図巻」

重文・伝雪舟「四季山水図巻」京都国立博物館蔵は、大内家伝来から毛利博物館所蔵となった国宝「山水長巻」に対し、新発田藩主だった溝口家に伝来した「山水小巻」と呼ばれる10mを超えるスケールの大作です。

雪舟真筆と確認されていませんが、三溪はこの作品をこよなく愛し、臨終の際にも枕元に置かせたという逸話がのこされています。雄大な山水の風景を自らの三溪園に重ねたのかもしれません。通期展示ですが、展示場面は入れ替えされます。

【九州国立博物館 公式サイトの画像】 狩野永徳「松に叭叭鳥・柳に白鷺図」

狩野永徳「松に叭叭鳥・柳に白鷺図」九州国立博物館蔵は、京都・大徳寺聚光院の国宝の障壁画を思わせる永徳らしい力強いタッチが印象的です。三溪の頃には伝狩野元信とされてきましたが、三溪は永徳の筆であると主張していました。永らく行方不明で永徳の真筆として発見されたのは、つい最近21cになってからです。三溪の審美眼の高さをうかがわせる名品です。8/7までの展示です。

琳派以外の江戸絵画も、久隅守景/宮本武蔵/住吉具慶/渡辺崋山/浦上玉堂とビッグネームの名品が出展されています。

【北野美術館 公式サイトの画像】 円山応挙「中寿老左右鴛鴦鴨」

円山応挙「中寿老左右鴛鴦鴨」北野美術館蔵は、鴨の生き生きとした動きが応挙の写実表現のレベルの高さをありありと伝えてくれます。三幅の真ん中に描かれた老人の着物の淵を彩る青のラインが、作品全体の印象を見事に引き締めています。通期展示です。


中国絵画も三溪は大切にした

【大和文華館 公式サイトの画像】 伝毛益「萱草遊狗図・蜀葵遊猫図」

中国絵画の名品も三溪は見逃していません。南宋の画家・毛益筆と伝わる重文「萱草遊狗図・蜀葵遊猫図」大和文華館蔵の二点は12cの作品で、犬と猫の毛並みのモフモフ感を表現した作品では世界最古ではないかと思えるほどの驚きの美しさを保っています。猫の「蜀葵遊猫図」は8/7まで、犬の「萱草遊狗図」は8/9以降の展示です。



横浜美術館は、みなとみらいにあって緑にあふれる

「第2章 コレクター三溪」だけでもものすごいボリュームですが、出展リストに含まれなかった名品があります。大和文華館が引き継いだ三溪コレクションの中の最高峰作品の一つで、佐竹本三十六歌仙絵の中でも最も人気があった一つ「小大君(こおおきみ)」です。

あまりに高額なため益田鈍翁により切断されて売立てに掛けられた佐竹本三十六歌仙絵は、5人しかいない女流歌人が艶やかな表現から最も人気を集めていました。1919(大正8)年に益田邸で行われたくじ引きにより購入作品が決定しましたが、三溪は3番人気の「小大君」を見事入手します。

「小大君」がこの展覧会に出展されなかったのは、時を置かず10月から始まる京都国立博物館「佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」への出展が優先されたためと推測されます。劣化しやすい国宝・重文の公開は法律で厳しく展示期間が制限されています。やむをえません、京都に足を運びましょう。

【展覧会公式サイト】 京都国立博物館「佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」

「第3章 茶人三溪」以降は、次回レポートします。近代の画家を育てたパトロンとしての功績の紹介は、次回にご期待ください。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



行けない、買い忘れた、持ち帰るのが重いなら 展覧会公式図録
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<横浜市西区>
横浜美術館
開館30周年記念
生誕150年・没後80年記念
原三溪の美術 伝説の大コレクション
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:横浜美術館、日本経済新聞社
会期:2019年7月13日(土)~9月1日(日)
原則休館日:木曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金土曜~19:30)

※会期中6回に分けて一部展示作品/場面が入れ替えされます。
 詳細は「展示替えリスト」PDFでご確認ください。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

東急東横線直通・みなとみらい線「みなとみらい」駅下車、3番出口から「マークイズ」を通って徒歩3分
JR京浜東北・根岸線「桜木町」駅下車、東口から「動く歩道」「ランドマークプラザ」を通って徒歩10分
横浜市営地下鉄ブルーライン「桜木町」駅下車、北1口から「動く歩道」「ランドマークプラザ」を通って徒歩15分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:50分
東京駅→JR上野東京ライン→横浜駅→JR根岸線→桜木町駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には有料の駐車場があります。
※休日やイベント開催時は、渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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