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揃ってお会いできるのは面白い ~日韓それぞれの半跏思惟

2016年12月10日 | 美術館・展覧会


仏像はアジアの各地に数多く伝わっており、その表情はその国の民族の特徴が表れていることが多く興味深い。中でも朝鮮半島の仏像は、日本に仏教や仏像を伝えた国であり、日本の仏像とよく似ている。

仏教は飛鳥時代の538年(557年説もある)、欽明天皇の治世で聖徳太子が活躍する約半世紀前、朝鮮半島南東部を支配しヤマト政権と親密であった百済(くだら)から伝わったとされる。百済から仏像や経典を携えた使者が、大阪(難波津)から大和川を船で上り、大陸からの使者や物資の船着場だった奈良県桜井市の金屋に上陸したと推定される場所に、「仏教伝来の石碑」が建てられている。

その石碑の近く飛鳥寺には、飛鳥時代の渡来人仏師・鞍作止利(くらつくりのとり)が日本で制作したという日本最古の仏像が伝わっている。この飛鳥寺・釈迦如来像や法隆寺・釈迦三尊像は、頬がふくよかでなく目には玉眼がないことが特徴で、現在朝鮮半島で確認できる同時代の仏像とほとんどそっくりだ。

日本と朝鮮半島の仏像に並んで見比べながらお会いできる機会は非常に少ない。上野の東京国立博物館の東洋館に朝鮮半島の仏像が展示されているが、日本の仏像は本館に展示されているので直接見比べることはできない。

並んでお会いできる機会がないかと思っていたところ、日韓の国宝仏像を並列展示される展覧会が、両国の国交正常化50周年を記念してソウルと東京で開催される情報をキャッチし、驚いた。日本代表はアルカイックスマイル(微笑)の表情で著名な奈良・中宮寺の日本国宝・菩薩半跏像、韓国代表はソウルの国立中央博物館蔵の韓国国宝78号半跏思惟像、いずれも両国を代表する非常に著名な仏像だ。

韓国の国宝78号像は6世紀(日本の飛鳥時代)、日本の中宮寺像は7世紀後半の作で、時代がやや異なる。両者を見た第一印象は似ているようには感じない。韓国の国宝78号像は日本の中宮寺像よりも、大阪・藤井寺の野中寺(やちゅうじ)の釈迦如来像にそっくりだ。しかしこの時代の仏像表現の特徴であるアルカイックスマイルを見比べると、作った仏師の表現力の豊かさと時代のニーズが伝わってくる。

日本の中宮寺像は「控え目で清楚な」微笑をしている。外国人が見れば意思表示がわからないかもしれないと思えるほど微妙な笑みである。制作当初はあでやかに彩色され宝冠をのせていたと分析されているが、今は木造に下地として塗られた漆が黒光りしている。その黒の存在感が控え目な表情と交わって、中宮寺像の中性的で神秘的な魅力を絶妙に形作っている。朝鮮半島の様式ではなく白鳳時代に見られたような日本独自の表現を追求して作られたもののように思う。

韓国の国宝78号像は「伏し目がちだが微笑んでいることがわかりやすい」表情だ。日本の等身大以上の大きさの金銅仏では多くないと思うが、体の線が細く、頭部は胴体に比べ大きい。そのため微笑みの表情がはっきりとわかる。微笑みには母親のような包容力があり、光の当たり方によって金属特有の微妙な色の変化があり、一層表情を豊かにさせる。

ソウルの韓国国立中央博物館は、米軍基地の跡地に2005年に移転・新設されたもので、展示フロアは非常に大きい。延床面積は、韓国国立中央博物館137,000㎡、東京国立博物館合計68,787㎡と二倍違う。常設展示作品は非常に多い。展示解説パネルは韓日中英の四か国語が完備、掲出数も多く、韓国の文化を理解するためには非常に親切だ。

上野の東博なら法隆寺館や東洋館を含めても全部見るのに1日で済んでしまうが、ソウルの国立博物館は全部見るのに1日では足りない。この要因は展示作品の量や質の問題ではなく、展示解説パネルの違いが大きい。いかに鑑賞者に楽しんでもらおうとしているかのマーケティング努力の差だ。東博で日本美術を常設で展示する本館は、両端の壁にガラスディスプレイが並んでいるだけという旧式感は否めず、床面積も小さいため、国家を代表する博物館・美術館としては貧弱である。

またソウル国立中央博物館は常設展が無料。文化の紹介に対する国家としての財政的取り組みの違いが大きい。インバウンド市場の近年急速に伸びているが、東博や京博に本物の日本美術を見たいと思ってやってきた外国人は、がっかりして帰ってしまうことも多いのではないか。

飛鳥時代の6~7世紀はムハンマドがイスラム教を起こし、イスラム帝国が急速に版図を広げていた。中国では隋が長い分裂時代に終止符を打ち中国を統一、朝鮮半島でも新羅が初めて朝鮮半島に統一国家を樹立、アジアの各地で新しい文化が芽生える安定国家があらわれた時代であった。

両像とも常設展示されており、奈良・ソウルを訪れる機会があれば是非会いに行かれることをおすすめする。

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。
「ここにしかない」名作に会いに行きましょう。

休館日 なし(例外が発生する可能性もあるので訪問前にご確認ください)
公式サイト
 韓国国立中央博物館(日本語版)https://www.museum.go.kr/site/jpn/home
 中宮寺 http://www.chuguji.jp/


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