上京したときの楽しみのひとつが、友人とのランチの食べ歩きだ。元栄養士だった友は、食べ歩きや食材求めの達人で、ついて行くといつも得るものがたくさんあるので、連絡を取り合っては出掛けている。
彼女はまた、おしゃれも上手で、寒い雪の日もスカートで過ごし、それに合うコートをセンスよく着ていた。宮崎は車社会の文化だが、東京は地下鉄文化で、仕立ての良いコートと靴だったら、一応信用されると自分なりに思い込んでいる。そのようなことを意識して、私にとっては高めのコートを初おろしした。
復元工事が終り綺麗に蘇った東京駅地下で待ち合わせて、近くのビルの彼女一押しのランチに向かった。エレベーターから降りると、落ち着いたフレンチレストランにもかかわらず、大行列ができていた。何かで紹介されたのだろうかと詮索しながらも、気の長くなった年齢の二人でも、到底その行列に加わる勇気はなかった。似た感じのレストランで済ませたが、二人とも残念でしょうがなかった。
それから、高級な食材を扱っているスーパーに行ったが、お勧めのレバーペーストは品切れ、パンは焼きあがりに時間がかかりそうなので諦めて帰路についた。それにしてもついてなかった。
その数日後、子どもが予約していた新発売のデジカメを受け取りに、また同じコートを着て出かけた。
代金は支払済みだったので5階に案内され順番券を持ち、暫くして番が回ってきたので受け取り口に行ったが、地下二階ですとのことだった。地下二階で、店員さんを捕まえ案内された所に行くと、一階に行ってくださいと、また言われた。一階に行くと、やはり新商品は地下二階ですと言われまた地下二階に下りたら、先ほどの店員さんが、予約票と照らし合わせて渡してくれた。何やら子どものおつかいみたいで、バツが悪く早々帰宅した。
玄関でそのコートを脱いでハンガーに掛けた途端、お歳暮を送ったと姉から嬉しい電話があった。このコートはついないのかしらと、まだ季節は残っているのに、早々に仕舞った。
上京日程も過ぎ、宮崎に帰るとすぐ親戚が友達から貰ったと、カシミアのコートを自慢げに見せてくれた。“それ、ついてないコートかも”とは口が裂けても言えなかった。(>_<)
コートを持たないメダカの冬支度。日当たりの良い窓辺で越冬。