(1953/アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督・脚本/イヴ・モンタン、シャルル・ヴァネル、ペーター・ヴァン・アイク、フォルコ・ルリ、ヴェラ・クルーゾー/149分)
1953年。あの「ローマの休日」と同じ年に作られたフランス製サスペンス映画の傑作だ。「ローマの休日」は何度観てもイイ気分になるが、これは体力のある時にしか観れない、じっくりと手に汗握る作品。NHK-BSで放送されたので数十年ぶりに観た。
サスペンスといっても、化け物が出てきたり変質者が出てきたりというモノではないし、殺人事件も起きない。油田の火災を消す為に液体爆薬ニトログリセリンをトラックで運ぶという単純な話である。しかし、僅かな振動でも爆発してしまうので、運転者にはもの凄い恐怖だ。運ぶのは2台のトラック。運転者は4人。極限状況に身を置いた男たちの人間ドラマでもある。
中米の油田のある国が舞台。様々な国から流れ着いた、その日暮らしの男共が集まるその町では、仕事もなく、誰もが故郷へ帰ろうにも先立つモノが無いという有様だった。酒場で働くリンダ(クルーゾー)はフランス人のマリオ(モンタン)が好きだが、雇い人の店主にもいい顔をしなければいけない。ルイジ(ルリ)という男と同居しているマリオの宝物は、パリに行った時のメトロの切符だった。
そんな辺境の町に白いスーツに身を包んで飛行機から降り立ったジョー(ヴァネル)は、裏世界を生きてきた風格があり、マリオは一目見て“兄貴”と呼んでしまう。ルイジは、ジョーに心酔するマリオに愛想を尽かし部屋を出ていく。酒場でルイジと揉めたジョーが、ルイジやその仲間を持ち前の度胸一つでぎゃふんといわせる。ハッタリもきかせる、実に男らしい男であった。
この町から600キロ離れた油田で火災が起き、石油会社は消火の為に現地までニトログリセリンを運ぶことにする。
『ロウソクを消すように、炎を吹き飛ばすのさ。』
報酬は一人2000ドル。石油会社の呼び掛けに沢山の男達が応募してきたが、選ばれたのはマリオ、ルイジ、ビンバ(アイク)そしてロシア人の男だった。夜中の3時。出発の時間にロシア人は現れず、次点だったジョーが行くことになる。
マリオはジョーと、ルイジはビンバと組んで2台のトラックで出発する。マリオ組が先発して、30分後にルイジ組が後を追う。1台は予備であり、安全のために30分の間隔を置いている。
マリオ組の最初のドライバーはジョー。ロシア人を脅して掴んだであろう仕事だったが、ジョーの運転は意外にも慎重だった。気分が悪いからとスピードを出さず、ついにはルイジ組に追いつかれてしまう。食あたりかもと言い出すジョーだったが、明らかに臆病になっているのが分かるマリオだった・・・。
この後、トタン板状になった道を通ったり、険しい山道での切り返しがあったり、普段はなんでもない事が爆薬を積んだ車にはとんでもない障害になる。
前半一時間は町の閉塞した状況がじっくりと描かれているが、メインはジョーとマリオの関係であろう。後半で逆転する二人の関係が前半との対比で強烈に浮かび上がる。
ジョー役のシャルル・バネルは、この作品でカンヌ映画祭の男優賞を受賞。同じクルーゾー監督の「悪魔のような女(1955)」にも刑事役で出ている。
▼(ネタバレ注意)
トタン板状になった道を通る時には、徐行ではなくある程度のスピードで波板の凸部分を走っていった方が揺れない。先行していたルイジ組にトラブルがあり、波板道の終盤で減速しなければいけなくなるが、それに気付かないマリオ組のトラックが追いつき、衝突寸前になる所がスリル満点。しかし、これは序章である。
険しい山道で切り返しの為に設けられた木材の突き出し桟橋では、木が腐れていたり、桟橋を吊っているワイヤーにトラックが引っかかったりする。手押し車が落ちたり、桟橋が崩れるところは真にダイナミックで、落下の恐怖が伝わってくる。
この後、旅の途中でジョーは何度も恐怖から逃げ出そうとするが、この桟橋のシーンで彼の面子は徹底的につぶされる。
次のスリル満点のシーンは、途中の山道に落石があって大きな岩が道をふさいでいる一幕。人力では岩を退かせない為に、ビンバがニトロで爆破させる。何十年経っても忘れられないシーンでした。
映画が始まって2時間経った頃、思いもかけない時に先行していたルイジ組のトラックが爆発する。突然起きるが、強烈な印象を残す描写が素晴らしい。
山道も下りに入り、平坦な道を走りながらマリオのためにジョーがタバコを作ろうとする。しかし、葉っぱを巻こうとしたその時、突風で葉っぱが吹き飛んでいく。ハッ!と顔を見合わす二人。フロントガラスの遠く向こうには煙が・・・。トラックが爆発した直後だった。つまり、タバコの葉っぱを飛ばしたのはルイジ達のトラックの爆風だったのだ。
この後、その爆発現場に着いた時の、戦場で大きな爆弾が落ちた後のような、枝が吹き飛んでしまった木々やポッカリ凹んだ道、そこを通っていた配油管から石油が吹き出しているという状景も凄い。
ここは、この映画の代表的なシーンとして映像が出回ってるので忘れられない場面です。油まみれのモンタンとバネル。モンタンって、元々はシャンソン歌手なんですがねぇ。
ジョーはトラックの前を歩いて先導して行くが、木に引っかかって転び、油の中で立ち往生したくないマリオは仕方なくジョーを轢いてしまう。片脚を折ってしまい、真っ黒な原油の中でのたうち回るジョー。まさに凄惨な状況になっていく。
もうすぐ目的地の火災現場に着くという頃、マリオの肩に凭れ、懐かしいパリの風景を思い浮かべながらジョーは息絶える。「真夜中のカーボーイ」にも似た、死の場面でした。
一人報奨金を得たマリオの最後は、小学生にさえもバレそうな展開になっていく。それまでのシーンに精力を使い果たしたとでもいうのでしょうか、久しぶりに観ても他に描き方は無かったのかと思う結び方でありました。
▲(解除)
1953年のカンヌ国際映画祭ではグランプリに輝き、ベルリン国際映画祭でも金熊賞を受賞した。
音楽は「ローマの休日」等と同じ大御所、ジョルジュ・オーリックであります。
リンダ役のヴェラ・クルーゾーは監督の奥方で、「悪魔のような女」ではリンダと違って心臓の弱い上品な女性の役でした。又、「悪魔のような女」のもう一人の女優シモーヌ・シニョレはイヴ・モンタンの奥様でした。
尚、1977年にウィリアム・フリードキンがリメイクした同名のアメリカ映画がある。油田の火災を消すためにニトロをトラックで運ぶという全く同じ設定ですが、さすがにラストだけはオリジナルと違っているようです。映画サイトを覗くとそれ程酷評でもないようなので、少しだけ観たい気が起きてきました。
1953年。あの「ローマの休日」と同じ年に作られたフランス製サスペンス映画の傑作だ。「ローマの休日」は何度観てもイイ気分になるが、これは体力のある時にしか観れない、じっくりと手に汗握る作品。NHK-BSで放送されたので数十年ぶりに観た。
サスペンスといっても、化け物が出てきたり変質者が出てきたりというモノではないし、殺人事件も起きない。油田の火災を消す為に液体爆薬ニトログリセリンをトラックで運ぶという単純な話である。しかし、僅かな振動でも爆発してしまうので、運転者にはもの凄い恐怖だ。運ぶのは2台のトラック。運転者は4人。極限状況に身を置いた男たちの人間ドラマでもある。
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![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/4d/a132bc734fc3c90a9e23c136d2b86e76.jpg)
そんな辺境の町に白いスーツに身を包んで飛行機から降り立ったジョー(ヴァネル)は、裏世界を生きてきた風格があり、マリオは一目見て“兄貴”と呼んでしまう。ルイジは、ジョーに心酔するマリオに愛想を尽かし部屋を出ていく。酒場でルイジと揉めたジョーが、ルイジやその仲間を持ち前の度胸一つでぎゃふんといわせる。ハッタリもきかせる、実に男らしい男であった。
この町から600キロ離れた油田で火災が起き、石油会社は消火の為に現地までニトログリセリンを運ぶことにする。
『ロウソクを消すように、炎を吹き飛ばすのさ。』
報酬は一人2000ドル。石油会社の呼び掛けに沢山の男達が応募してきたが、選ばれたのはマリオ、ルイジ、ビンバ(アイク)そしてロシア人の男だった。夜中の3時。出発の時間にロシア人は現れず、次点だったジョーが行くことになる。
マリオはジョーと、ルイジはビンバと組んで2台のトラックで出発する。マリオ組が先発して、30分後にルイジ組が後を追う。1台は予備であり、安全のために30分の間隔を置いている。
マリオ組の最初のドライバーはジョー。ロシア人を脅して掴んだであろう仕事だったが、ジョーの運転は意外にも慎重だった。気分が悪いからとスピードを出さず、ついにはルイジ組に追いつかれてしまう。食あたりかもと言い出すジョーだったが、明らかに臆病になっているのが分かるマリオだった・・・。
この後、トタン板状になった道を通ったり、険しい山道での切り返しがあったり、普段はなんでもない事が爆薬を積んだ車にはとんでもない障害になる。
前半一時間は町の閉塞した状況がじっくりと描かれているが、メインはジョーとマリオの関係であろう。後半で逆転する二人の関係が前半との対比で強烈に浮かび上がる。
ジョー役のシャルル・バネルは、この作品でカンヌ映画祭の男優賞を受賞。同じクルーゾー監督の「悪魔のような女(1955)」にも刑事役で出ている。
▼(ネタバレ注意)
トタン板状になった道を通る時には、徐行ではなくある程度のスピードで波板の凸部分を走っていった方が揺れない。先行していたルイジ組にトラブルがあり、波板道の終盤で減速しなければいけなくなるが、それに気付かないマリオ組のトラックが追いつき、衝突寸前になる所がスリル満点。しかし、これは序章である。
険しい山道で切り返しの為に設けられた木材の突き出し桟橋では、木が腐れていたり、桟橋を吊っているワイヤーにトラックが引っかかったりする。手押し車が落ちたり、桟橋が崩れるところは真にダイナミックで、落下の恐怖が伝わってくる。
この後、旅の途中でジョーは何度も恐怖から逃げ出そうとするが、この桟橋のシーンで彼の面子は徹底的につぶされる。
次のスリル満点のシーンは、途中の山道に落石があって大きな岩が道をふさいでいる一幕。人力では岩を退かせない為に、ビンバがニトロで爆破させる。何十年経っても忘れられないシーンでした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/7e/dc0ccff111362c707362165be9793fdd.jpg)
山道も下りに入り、平坦な道を走りながらマリオのためにジョーがタバコを作ろうとする。しかし、葉っぱを巻こうとしたその時、突風で葉っぱが吹き飛んでいく。ハッ!と顔を見合わす二人。フロントガラスの遠く向こうには煙が・・・。トラックが爆発した直後だった。つまり、タバコの葉っぱを飛ばしたのはルイジ達のトラックの爆風だったのだ。
この後、その爆発現場に着いた時の、戦場で大きな爆弾が落ちた後のような、枝が吹き飛んでしまった木々やポッカリ凹んだ道、そこを通っていた配油管から石油が吹き出しているという状景も凄い。
ここは、この映画の代表的なシーンとして映像が出回ってるので忘れられない場面です。油まみれのモンタンとバネル。モンタンって、元々はシャンソン歌手なんですがねぇ。
ジョーはトラックの前を歩いて先導して行くが、木に引っかかって転び、油の中で立ち往生したくないマリオは仕方なくジョーを轢いてしまう。片脚を折ってしまい、真っ黒な原油の中でのたうち回るジョー。まさに凄惨な状況になっていく。
もうすぐ目的地の火災現場に着くという頃、マリオの肩に凭れ、懐かしいパリの風景を思い浮かべながらジョーは息絶える。「真夜中のカーボーイ」にも似た、死の場面でした。
一人報奨金を得たマリオの最後は、小学生にさえもバレそうな展開になっていく。それまでのシーンに精力を使い果たしたとでもいうのでしょうか、久しぶりに観ても他に描き方は無かったのかと思う結び方でありました。
▲(解除)
1953年のカンヌ国際映画祭ではグランプリに輝き、ベルリン国際映画祭でも金熊賞を受賞した。
音楽は「ローマの休日」等と同じ大御所、ジョルジュ・オーリックであります。
リンダ役のヴェラ・クルーゾーは監督の奥方で、「悪魔のような女」ではリンダと違って心臓の弱い上品な女性の役でした。又、「悪魔のような女」のもう一人の女優シモーヌ・シニョレはイヴ・モンタンの奥様でした。
尚、1977年にウィリアム・フリードキンがリメイクした同名のアメリカ映画がある。油田の火災を消すためにニトロをトラックで運ぶという全く同じ設定ですが、さすがにラストだけはオリジナルと違っているようです。映画サイトを覗くとそれ程酷評でもないようなので、少しだけ観たい気が起きてきました。
・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 ![テアトル十瑠](http://8seasons.life.coocan.jp/img/TJ-1.jpg)
![テアトル十瑠](http://8seasons.life.coocan.jp/img/TJ-1.jpg)
子供の頃に初めて観て衝撃だった映画の一つです。
何十年ぶりで観ても、やっぱり凄い映画!
クルーゾーは未見の作品が多くて、NHKさんにもっと放送をお願いしたいもんです。^^
これ、ドキドキしっぱなしの映画でした。途中までは「トラック野郎」みたいだな~と思って観ていたのですが、なんとも言えない重苦しさが漂ってきて・・・そしてあのラスト。どうしてそうなっちゃうの~と思うぐらいのバッドエンディング。クルーゾー監督って底意地が悪いというか、なんというか・・・。
イヴ・モンタンはこの作品で俳優としても認められたそうですが、それも納得ですね。とてもシャンソン歌手には見えません・・・。
ジョーの変貌が面白いですよねぇ。
道をふさいでいる大きな落石をニトロで粉砕するシーンなんか観てる方もドキドキするし、小石の転がりにもビクついているジョーの気持ちも分からんではない。
走り去ろうとするトラックに必死に追いすがる姿も、前半の威勢の良さを考えると、見事な変貌。
カンヌの男優賞も納得ですね。
>これは体力のある時にしか観れない、じっくりと手に汗握る作品。
いったん観たらじっと観てしまうし、男たちの恐怖と緊張感が伝わってくる作品。
何回か観てますね。好きなんですわ。
段々と彼らの間に情けが通い合ってくる。こういうとこもいいんですわ。
男同士ならではの情の交わしあい。
瀕死のジョーを乗せて走らせるシーンなんてぐっと来てしまう。
ただ、トラックでニトロを運搬するというストーリーなんですけれど、演出の上手さでしょうね。こういう作品をみせられると、最近作はかったるくて、ゆるくって、やたら説明過ぎて押し付けがましくって…と愚痴りたくなる。
最近めっきりフランス映画好きになっていますが、その中でも記憶に残る一本です。
凄い!の一言。
また、こちらにもあそびにきます。
これからもよろしくおねがいします。
anupamさんちでお見かけしておりましたね。
>ジョーが原油の中で轢かれるシーンでは恐怖に声が出てしまった覚えがあります。
そうですねぇ。あそこは凄いですよねぇ。
コチラこそよろしくです。
クルーゾーの魔術にかかって、ゾクゾク、クラクラして下さい。
予備のツンパが必要なのは、むしろ「悪魔のような女」かもしれませんが。
anupamさんのところでいつもHNを拝見してました。anupamさん同様十瑠さんも、映画の背景やスタッフに至る深いところまでよく研究していらっしゃって、すごいですね!
私はただ気分で観てるだけですが、どうぞよろしくです。
数々の受賞している作品とは全く知らずに、まだ十代の頃にTVで観ました。
ジョーが原油の中で轢かれるシーンでは恐怖に声が出てしまった覚えがあります。
細かいシーンの記憶は薄れてますが、作品自体の力強さは忘れられません。
映画館で見たりしたら、逃げ場のない恐怖感で失禁(?)しちゃったかもしれません。