テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

華氏451

2008-12-22 | SF
(1966/フランソワ・トリュフォー監督・共同脚本/オスカー・ウェルナー、ジュリー・クリスティ、シリル・キューザック/112分)


 レイ・ブラッドベリは超有名なSF作家ですが、実は何を書いたかもよく覚えていませんし、多分ほとんど読んでないと思います。僕のSF好きもヴェルヌ以降は単発的にあれこれ読むくらいで、特に作家で選ぶことをしなくなったからですね。筒井康隆とか星新一とかは一時期続けて読むことはありましたが、ま、その頃は映画の方が面白かったというわけで・・・。

 さて、そのブラッドベリの原作をトリュフォーが映画化した、トリュフォーとしても珍しいSF映画です。トリュフォーなのに使われた言語が全編英語というのも希有な作品ではないですかね。数十年ぶりの再見です。

*

 本を所有することも読むことも禁じられた未来社会が舞台。
 オスカー・ウェルナー扮するモンターグの仕事は“ファイアー・マン”。字幕では消防士となっていたが、この未来社会では耐火建築が充実していて火事がない。だから“ファイアー・マン”は別の仕事をしている。法律で禁止されている本を隠れて読む者を見つけ出し、取り上げた本を焼き払うという文字通りの“ファイアー・マン”だ。『昔、消防士って火を消してたってホント?』なんて会話も出てくる。
 ほぼ全家庭の屋根にはアンテナが付いていて、人々の楽しみはTVだけ。だから40年前の映画なのに、既に今風の大きな画面の壁付きのテレビがあり、視聴者が家に居ながらにして参加できるTV番組まである。未来像がピッタシ!!
 ある日、吊り下げ型のモノレールでの通勤途中でモンターグは妻に瓜二つの女性クラリス(クリスティ~二役)に出逢う。モンターグの近所に住むという彼女は不確かな理由から小学校の先生の職を失いそうになっていて、そんな彼女の相談に乗るうちにモンターグは本に興味を持つようになり・・・という話。

 書物は人心を乱すので良くないものだとされ、本を読んでいる隣人を見つけたら通報するようなシステムもあるし、長髪の若者などは『だらしない格好をして・・・』と取り締まられる。ここに描かれている未来社会は、ちょっと前の東ドイツやソヴィエト、ルーマニア等の社会主義国家のようです。寒々しい住宅街の風景からもそんな感じが漂ってきます。
 SF映画と言っても近年のようにメタリックな街並やビルディングが出てくるシーンはなく、モノレールの走る所も緑が多い。この辺は『ウィキペディア(Wikipedia)』で<優れて叙情的な作風が特徴>と書かれた原作者の味が出ているのかも知れませんね。

 多分子供の頃からの教育により書物を忌み嫌ってきたモンターグは、仕事ぶりは真面目で上司の受けも良い。序盤では昇進の話も出ていたのに、徐々に違法と知りながら本にのめり込んでいくのがサスペンスフル。クラリスが書物を持っているらしいことは観客にはすぐに察せられるので、その後の展開も薄々分かるのだけど、さてそれでは彼の運命はどうなる? という興味が持続する。実は結末を忘れていたので、そうくるかってなもんです。数十年ぶりに見てもやっぱり面白かった。

 CG使いまくりのド派手な最近のSF映画を見慣れた方々には“ちゃちい”と見えるかも知れませんが、サスペンスたっぷりなモンターグの運命に注目して、更に書物に対する原作者の深い思いを感じながら観れれば、今でも十分に面白い映画だと思います。allcinemaの解説通り、<雪降り頻る中の詩的なエンディング>が印象深いです。

 原題もそのまま【(華氏)FAHRENHEIT 451】。451とは紙が燃える温度、つまり発火点のことです。因みに、華氏(F)を摂氏(C)に変換する【C=(F-32)÷9×5】という換算式を使うと、華氏451度は摂氏約233度になる。

 トリュフォーと一緒に脚本を書いたのはジャン=ルイ・リシャール(「黒衣の花嫁」、「アメリカの夜」etc)。
 撮影は後に監督に進出するニコラス・ローグ。
 音楽はヒッチコックでお馴染みのバーナード・ハーマンでした。この後「黒衣の花嫁」でもトリュフォーと組んでいます。



・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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6 コメント

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TB有難うございました。 (オカピー)
2008-12-23 02:42:21
内容的にも評価的にも全く異論ありません(笑)。

現在のSF映画は殆ど、アメ・コミじゃんてなもんで、こういう本格的なのはないなあ。
今年観た「サンシャイン2057」は、日本ではいたく評判が悪かったけど、結構良いSF映画でしたよ。

仰るように旧社会主義国みたいな関し社会ですが、北朝鮮で「長髪は馬鹿になる」と髪が強制的に切られている、という報道があってから暫くして観直したので、北朝鮮を思い出しましたね。

で、以前「『リベリオン』は『華氏451』にそっくり」と書いたことがあるのですが、wikipediaによると【オマージュ作品】だそうです。^^

最近始まったウェブリの映画ブログ・ランキングで4位となりました。
これからもTB及び書き込みでご協力お願い致します。
返信する
訂正です (オカピー)
2008-12-23 02:44:11
関し社会

  ↓

監視社会

でございました。
返信する
いらっしゃいませ、オカピーさん (十瑠)
2008-12-23 07:51:01
>最近始まったウェブリの映画ブログ・ランキングで4位となりました。

最近始まったのですか?じゃぁ、私は始まった頃に見たんですね。しかとランキングは見ましたよ。すげぇって。
因みに、姐さんもlivedoorの映画レビューのランキングでトップ10入りされてますね。
gooさんは、ジャンル別のランキングがないので私の方は・・・。
返信する
Unknown (万葉樹)
2009-02-07 16:19:46
未見の映画が多いので、コメント先に困っている訪問者です。

この映画はタイトルのインパクトが強くて途中までははっきりと覚えていますが、おっしゃるように、私もラストがどうなったのか判然としていません。

当時、学生で図書館学を学んでいたときにそのテキストに紹介されていまして、教官も強く薦めるので、興味をもった映画でした。

書物の衰退どころか、TVまで顧みられなくなりそうなネット時代なのですが、個人の表現・思想の自由はこの映画とは
逆に広がるばかりですね。

六、七〇年代あたりのSFはいまのCGでの凝った映像からすればショボいかもしれないですが、いかにもありえそうでありえない未来社会を描いたところがおもしろいですよね。

ソラリスは旧作を観ましたが、まさかリメイクがあるなんて知りませんでした。機会があればレンタルしてみます。


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タイトルが…。 (万葉樹)
2009-02-07 16:26:27

タイトルを入れ忘れておりました。

「昔のほうのSFがおもしろいかも」とでも。
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万葉樹さん、いらっしゃい (十瑠)
2009-02-07 22:05:29
>未見の映画が多いので、コメント先に困っている訪問者です。

そうですか。鑑賞歴が(人間も)古いので、新しい作品が少ないですもんね。
「華氏451」、ラストをお忘れでしたら、もう一度どうですか。

>書物の衰退どころか、TVまで顧みられなくなりそうなネット時代なのですが、個人の表現・思想の自由はこの映画とは逆に広がるばかりですね。

そうですねぇ。それは人間同士の繋がりの希薄さにも結びつくんですが、変なところでは画一的な流れが出来たりして、本当に思想の“自由度”が増しているのかはちょっぴり疑問でもあります。

>ソラリスは旧作を観ましたが、まさかリメイクがあるなんて知りませんでした。機会があればレンタルしてみます。

リメイクは(多分)字幕の不備で、一度目は内容を誤解しました。
ソ連版を観た方のほうが理解し易いと思います。
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