(1954/アルフレッド・ヒッチコック監督/レイ・ミランド、グレイス・ケリー、ロバート・カミングス、アンソニー・ドーソン、ジョン・ウィリアムズ/105分)
「暗くなるまで待って」の劇作家フレデリック・ノットの、同じくブロードウェイでヒットした舞台劇の映画化。「暗く・・」は眼の見えない女性が主人公だったので音に関する描写が巧みでしたが、今作も緻密に構成された犯罪ドラマで、小説を読むように筋を追っていくだけでも面白い作品です。
代理殺人によって完璧なアリバイ構築をもくろんだ犯罪計画が如何にして崩れていくか。交換殺人を計画した「見知らぬ乗客」ではテニス選手が被害者でしたが、ここでは首謀者が元テニス選手でした。
イギリスはロンドン。プロテニス・プレーヤーのトニー(ミランド)は、試合試合に明け暮れて、将来を心配する妻をかえりみない生活をしてきたが、ある日妻の浮気に気付く。引退後の自活には自信がなく、妻の財産が頼りなので浮気の件は話さずに彼女の希望通りに引退し、改心したフリをする。なんとか妻の心をつなぎ止める事は出来たが、いっそのこと彼女を亡き者にしようと計画を立てる。はたしてその計画とは。
若い夫婦が朝食のテーブルでキスをしている場面から始まり、ご亭主が席に着き、新聞を見ていた奥さんがある記事に目を留めた表情を捉えてショットが切り替わる。夫の方がトニーで、妻の名はマーゴ(ケリー)。
その記事は、ある作家がアメリカから帰ってきたというもので、次のショットでは、その作家とおぼしき男性とマーゴがオープニングと同じようなキスを交わしている。そこは先程の夫婦のアパートで、作家の名はマーク(カミングス)。
マーゴはトニーとの生活に希望がもてなくなった頃、マークと不倫関係になったのだが、その後のトニーの変貌に接し、マークとの関係を解消しようとしている所だった。
やがてそこにトニーも帰って来て、マークと握手を交わす。表向きはマーゴの友人としてマークを迎えている図だが、既にこの時トニーは計画を実行しつつあったのだ・・・。
数十年ぶりの再見で、あらすじは分かっていたはずですが、細かい所はほとんど忘れていました。その細かな段取りが面白いんですがね。ザッとですが、備忘録としてあらすじを書いておきましょう。
未見の方には、ネタバレ注意です。
▼(ネタバレ注意)
トニーは、大学時代の知り合いで弱みを握っているある男を呼び出し、弱みをネタにマーゴ殺害を依頼する。こんな計画だ。
マークがやって来た次の夜、マーゴを1人残してトニーとマークが連れだってパーティーに出かける予定があり、その時男が空き巣を装って部屋に侵入、物音に気付いて起きてきたマーゴを殺害する。
トニーが事前にアパートの入口近くに部屋の鍵を隠しておいて、夜の11時前に男はその鍵を使って中に入る。電話の近くに隠れていて、きっかり11時にトニーがパーティー会場からアパートに電話する。寝室から起きてきたマーゴが電話に出ても無言で通し、油断している彼女を男が背後から襲い絞殺するという段取りだ。殺した後は、物取りに見えるように部屋の中を散らかして、窓から逃げる。
計画には不測の事態が付き物で、映画的にはハラハラして面白くなる。
最初は入口に置いておく鍵の件で、マーゴのものを使う予定だったが、その夜は家にいる予定だった彼女が出かけると言うので、彼女が持っている鍵が使えなくなりそうになる。なんとか予定を変えさせて、彼女の鍵をハンドバッグから抜き取ることに成功する。
次はパーティー会場でトニーの腕時計が止まってしまい、その事に気付かず11時の電話が遅れてしまうこと。アパートで電話がかかるのを待っていた男も一旦帰りかけるが、部屋を出る直前に電話がかかる。慌てて部屋に戻った男は、しっかりとマーゴを捉えることが出来ず、逆にハサミで背中を刺され、痛さに倒れ込んだ際に更に奥深く傷を負い絶命してしまう。
女の力で洋服の上からハサミを突き刺すというのは無理な感じがするが、この辺はフィクションとして流しましょうか(アイスピックなら少しは“らしい”ですがね)。
無言電話の予定が、その電話によって計画が破綻したことに気付いたトニーは、たまたま電話をかけたフリを装い、とりあえず誰にも話すなと言いおいて、あわててアパートに帰る。ことの成り行きを聞きながら、トニーは考える。下手をすれば自分への疑いも生まれ、全てが水の泡だ。この後のトニーの処置が謎めいていて、後でその意図が分かってくるのも面白い。
結局、死んだ男は浮気をネタにマーゴを恐喝していて、逆に彼女に殺されたと警察が判断。マーゴは殺人罪で死刑判決を受ける。当初の計画通りには行かなかったが、変更措置が上手くいって結果はトニーの思い通りになったわけだ。
勿論、映画はそれで終わるわけはなく、優秀な刑事の推理と行動により、最後はトニーの犯行が明らかになる。
▲(解除)
ほとんどがアパートの内部で展開する話で、この辺も「暗くなるまで待って」と同じです。
有名な音楽家と同じ名前のジョン・ウィリアムスは、今作と同じ54年の「泥棒成金」でもグレース・ケリーと共演していました。如何にもイギリス人らしい雰囲気の持ち主で、今回は、とぼけた味を醸し出しながら捜査ではしつこく鋭い指摘をする刑事の役。終盤の逆転劇のキーポイントは、まさしく“キー”でした。ラストシーンで口髭を整える仕草が笑わせます。
夫役は先日ご紹介した「失われた週末」のレイ・ミランド。少しばかり大仰だったあちらよりも、腹にイチモツ、いやいや腹の中に三つも四つも悪い手を持ちながら冷静に対処する不気味さがお見事でした。
脚本は原作者フレデリック・ノット本人、撮影はヒッチ作品常連のロバート・バークス、音楽はディミトリ・ティオムキン。
尚、今回のヒッチさんはフレームの中の動かない写真の中に登場します。
「暗くなるまで待って」の劇作家フレデリック・ノットの、同じくブロードウェイでヒットした舞台劇の映画化。「暗く・・」は眼の見えない女性が主人公だったので音に関する描写が巧みでしたが、今作も緻密に構成された犯罪ドラマで、小説を読むように筋を追っていくだけでも面白い作品です。
代理殺人によって完璧なアリバイ構築をもくろんだ犯罪計画が如何にして崩れていくか。交換殺人を計画した「見知らぬ乗客」ではテニス選手が被害者でしたが、ここでは首謀者が元テニス選手でした。
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イギリスはロンドン。プロテニス・プレーヤーのトニー(ミランド)は、試合試合に明け暮れて、将来を心配する妻をかえりみない生活をしてきたが、ある日妻の浮気に気付く。引退後の自活には自信がなく、妻の財産が頼りなので浮気の件は話さずに彼女の希望通りに引退し、改心したフリをする。なんとか妻の心をつなぎ止める事は出来たが、いっそのこと彼女を亡き者にしようと計画を立てる。はたしてその計画とは。
若い夫婦が朝食のテーブルでキスをしている場面から始まり、ご亭主が席に着き、新聞を見ていた奥さんがある記事に目を留めた表情を捉えてショットが切り替わる。夫の方がトニーで、妻の名はマーゴ(ケリー)。
その記事は、ある作家がアメリカから帰ってきたというもので、次のショットでは、その作家とおぼしき男性とマーゴがオープニングと同じようなキスを交わしている。そこは先程の夫婦のアパートで、作家の名はマーク(カミングス)。
マーゴはトニーとの生活に希望がもてなくなった頃、マークと不倫関係になったのだが、その後のトニーの変貌に接し、マークとの関係を解消しようとしている所だった。
やがてそこにトニーも帰って来て、マークと握手を交わす。表向きはマーゴの友人としてマークを迎えている図だが、既にこの時トニーは計画を実行しつつあったのだ・・・。
数十年ぶりの再見で、あらすじは分かっていたはずですが、細かい所はほとんど忘れていました。その細かな段取りが面白いんですがね。ザッとですが、備忘録としてあらすじを書いておきましょう。
未見の方には、ネタバレ注意です。
▼(ネタバレ注意)
トニーは、大学時代の知り合いで弱みを握っているある男を呼び出し、弱みをネタにマーゴ殺害を依頼する。こんな計画だ。
マークがやって来た次の夜、マーゴを1人残してトニーとマークが連れだってパーティーに出かける予定があり、その時男が空き巣を装って部屋に侵入、物音に気付いて起きてきたマーゴを殺害する。
トニーが事前にアパートの入口近くに部屋の鍵を隠しておいて、夜の11時前に男はその鍵を使って中に入る。電話の近くに隠れていて、きっかり11時にトニーがパーティー会場からアパートに電話する。寝室から起きてきたマーゴが電話に出ても無言で通し、油断している彼女を男が背後から襲い絞殺するという段取りだ。殺した後は、物取りに見えるように部屋の中を散らかして、窓から逃げる。
計画には不測の事態が付き物で、映画的にはハラハラして面白くなる。
最初は入口に置いておく鍵の件で、マーゴのものを使う予定だったが、その夜は家にいる予定だった彼女が出かけると言うので、彼女が持っている鍵が使えなくなりそうになる。なんとか予定を変えさせて、彼女の鍵をハンドバッグから抜き取ることに成功する。
次はパーティー会場でトニーの腕時計が止まってしまい、その事に気付かず11時の電話が遅れてしまうこと。アパートで電話がかかるのを待っていた男も一旦帰りかけるが、部屋を出る直前に電話がかかる。慌てて部屋に戻った男は、しっかりとマーゴを捉えることが出来ず、逆にハサミで背中を刺され、痛さに倒れ込んだ際に更に奥深く傷を負い絶命してしまう。
女の力で洋服の上からハサミを突き刺すというのは無理な感じがするが、この辺はフィクションとして流しましょうか(アイスピックなら少しは“らしい”ですがね)。
無言電話の予定が、その電話によって計画が破綻したことに気付いたトニーは、たまたま電話をかけたフリを装い、とりあえず誰にも話すなと言いおいて、あわててアパートに帰る。ことの成り行きを聞きながら、トニーは考える。下手をすれば自分への疑いも生まれ、全てが水の泡だ。この後のトニーの処置が謎めいていて、後でその意図が分かってくるのも面白い。
結局、死んだ男は浮気をネタにマーゴを恐喝していて、逆に彼女に殺されたと警察が判断。マーゴは殺人罪で死刑判決を受ける。当初の計画通りには行かなかったが、変更措置が上手くいって結果はトニーの思い通りになったわけだ。
勿論、映画はそれで終わるわけはなく、優秀な刑事の推理と行動により、最後はトニーの犯行が明らかになる。
▲(解除)
ほとんどがアパートの内部で展開する話で、この辺も「暗くなるまで待って」と同じです。
有名な音楽家と同じ名前のジョン・ウィリアムスは、今作と同じ54年の「泥棒成金」でもグレース・ケリーと共演していました。如何にもイギリス人らしい雰囲気の持ち主で、今回は、とぼけた味を醸し出しながら捜査ではしつこく鋭い指摘をする刑事の役。終盤の逆転劇のキーポイントは、まさしく“キー”でした。ラストシーンで口髭を整える仕草が笑わせます。
夫役は先日ご紹介した「失われた週末」のレイ・ミランド。少しばかり大仰だったあちらよりも、腹にイチモツ、いやいや腹の中に三つも四つも悪い手を持ちながら冷静に対処する不気味さがお見事でした。
脚本は原作者フレデリック・ノット本人、撮影はヒッチ作品常連のロバート・バークス、音楽はディミトリ・ティオムキン。
尚、今回のヒッチさんはフレームの中の動かない写真の中に登場します。
・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】
復活してくださって嬉しい限りですよう
しかも、立て続けに名画を2本記事にしてくださってからに、若輩者にはたまりませんわ。
リメイク版の「ダイヤルM」を観たときに、オリジナルの方も再見してみました。ストーリーは頭に入っているものと思っていたのですが、案外細かい部分は忘れていますねえ。再見でも新鮮に観賞することができました~
レイ・ミランドは、こちらの方がクセのある複雑なキャラクターで良かったですよね。
あと恥ずかしながら、ヒッチ先生がどこに出てらっしゃるのか見抜けなかったのですが、写真でご登場とは。巨匠もお茶目でございます。
お帰りなさいませ!!!
この作品も土曜洋画劇場(?)だったか、その後に放送開始になった日曜洋画劇場だったか、でみました。十瑠さんがおっしゃる通り「細かな段取り」に、子ども心にもほんとにハラハラ、ドキドキ、ビックリでした。前半は悪いとは思いながらも「ご亭主(殺人者)」側の心理でみちゃいました。そして鋏のシーンでは予期せぬ展開に「どうしましょ」と思いましたが、そこからは変わり身の速さで「奥様」側の心理でみた記憶があります。(笑)
「さよなら、さよなら、さよなら・・・。」の淀川長治さんが「ダイヤルMを廻せのMはね、MURDERのM。つまり、殺人のMなんですね~。こわいですね~。」って解説して下さったように記憶してます。
『何でも観てやろう』ではなくて、初心にかえって、観たいものから観ようと決めましたら、立て続けになってしまいました。(笑)
「モダン・ミリー」の★二つは我ながら辛過ぎですね。オールドファッションが好きな方には★四つくらいはあるでしょうね。
リメイクも何年か前に観ましたが、ほとんど忘れています。
>レイ・ミランドは、こちらの方がクセのある複雑なキャラクターで良かったですよね。
アル中患者より、抑えた演技でした。ヒッチコックさんに鍛えられましたかな?
写真と言ってしまえばすぐにお分かりになるでしょうから、これ以上は言いませんよ。^^
恥ずかしながら、戻って参りました!
私も淀川さんの番組で観たのが最初だと思います。その解説も覚えていますよ。
あちらのダイヤルにはアルファベットもあって、ミランドのアパートの電話番号の最初がMだったようです。
原題も「DIAL M FOR MURDER」。恐いですネェ~
ミステリー的に観ていくと、鍵のトリックがやや弱いんですね。成立はするのですが、警察の初動捜査次第では成立しないという綱渡り的なところがあります。
グレース・ケリーの服装が段々地味になって行くという演出が良いです。彼女の人生の浮沈を象徴しているんですね。
>服装が段々地味になって行くという演出が・・・彼女の人生の浮沈を象徴しているんですね。
全くその通りですが、私は刑事と犯人のやりとりが面白くって、死人が出てからは彼女にはほとんど注視しませんでした。ラスト・シーンまでは。
それにしても、何度観ても面白い映画でした。脱帽
グィネス・パルトロゥの「ダイヤルM」
結構面白いと思ったけど、きっとオリジナルのほうがはるかに良いのでしょう。
リメイク版の原題は「パーフェクト・マーダー」
何で「ダイヤルM」に固執したのかな・・ダイヤルフォンじゃない時代なのにね。
人間の描き方はリメイク版の方があくどくて“らしい”との評判も聞きます。
オリジナルは、善悪がはっきりしていて、探偵小説を読むように悪事の段取りやら解決の成り行きを楽しむ感じですかね。
アスカパパさんはお馴染みさんですから、そのDCHさんではなくDCPさんのコメントも以前読んでいますが、感想は、差し控えさせていただきます。