(1992/ジェームズ・アイヴォリー監督/エマ・トンプソン、アンソニー・ホプキンス、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ヘレナ・ボナム=カーター、ジェームズ・ウィルビー、サミュエル・ウェスト、ジェマ・レッドグレーヴ/143分)
歳のせいか根気がなくなって長い文章を書けなくなったみたい。なので今回も(或いはこれからもずっと)ツイート風の備忘録になります。
しばらく自分好みのテイストの映画に触れてないのでJ・アイヴォリーの「ハワーズ・エンド」をツタヤで借りてきた。「日の名残り」が大好きだったからだけど、1回目の鑑賞後の印象は「とにかく長い」。観終わってチェックしたら2時間20分という大作でした。ま、それでもダレる事は無かったんだけどね。
時代背景は違っても主演の二人が同じこともあって画のテイストは似てるけれど、語り口は「日の名残り」ほどのピリピリ感がないというか、かなり違ってる。考えればアレは原作がイシグロ・カズオだし、コレはE・M・フォスターだしね。14年前に観たきりだから明言は出来ないけど、語り口は同じE・M・フォスター原作の「眺めのいい部屋」に似てる気がする。同じ監督だし、脚本も同じだから当然かもしれないけど・・。
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20世紀初頭のイギリスが舞台の「ハワーズ・エンド」には二つの家族が出てくる。
マーガレット(トンプソン)を長女とするシュレーゲル家は父親がドイツ人で母親はイギリス人。既に親夫婦は亡くなっていて、次女のヘレン(カーター)と高等学校に行っているティビーという少年がいる。更には何かと口を出してくる母方の叔母がいて、四人で仲良く暮らしている感じ。シュレーゲル家には大きな屋敷などは無いが、日々の暮らしに困らないだけの財産を受け継いでいるようだった。文学や芸術を愛し、食事やコーヒーを摂りながら諸々な議論を交わすのも好きな家族だ。
ヘンリー(ホプキンス)を家長とするウィルコックス家は、一代で会社を興して富豪になった資産家で、妻のルース(レッドグレーヴ)と二人の息子と末の長女がいた。子供たちは既に大人で、映画の冒頭、ウィルコックス家の田舎の別荘「ハワーズ・エンド」にヘレンが泊まっている所から物語はスタートする。「ハワーズ・エンド」はルースの生家でもあった。
二つの家族は共にドイツを旅行した折に旅先で知り合い、ウィルコックス家の次男ポールに惹かれたヘレンが「ハワーズ・エンド」に招待されたというのが冒頭のシーンの経緯だ。そこで二人は燃え上がるが、それは一晩で萎むことになる。ヘレンが勢いでマーガレットに『ポールと婚約した』なんていう手紙を出したもんだから、大慌てで叔母さんが「ハワーズ・エンド」を訪ねるという一幕もあり、両家にとっても気まずさを残すことになってしまう。という所までがいわばプロローグだろうか。その数か月後、ロンドンのシュレーゲル家の住む家の前に偶然にウィルコックス家が引っ越してくるのである。
知らぬ振りもできまいと考えたのか、マーガレットは向いのウィルコックス家を訪ね、ルースと親しくなっていく。ルースはマーガレットよりもかなり年上だったが彼女を妹の様に信頼した。マーガレットも実業家の妻にしては繊細な雰囲気を醸し出すルースに親しみを覚え、クリスマスプレゼントのリストアップや買い物に付き合ったりした。
実はルースは病気を抱えておりもうすぐ手術をするんだとマーガレットに告白した。マーガレットもまた今の家が借家であり1年半後には明け渡さねばならないと話した。それを聞いたルースは是非とも「ハワーズ・エンド」を見せたいと言った。
E・M・フォスターの作品は文化や階級の違いからくる葛藤をテーマにすることが多いらしいが、「ハワーズ・エンド」には二つの割と裕福な家庭の他にもう一つ、仕事に就いていなければ生活に困ってしまう所謂一般人の家庭も出てくる。ロンドンに帰ったヘレンが行った音楽会で間違って傘を持ち帰った青年レナード・バストのそれである。
生命保険会社に勤めるレナードは年の離れた女性ジャッキーと二人暮らしだが、文学や天文学に興味を持つロマンチックで繊細な青年だった。一方、ジャッキーは物事を深く考えず、レナードの愛だけを生きる縁(よすが)にしているような女だった。
隣に座っていたヘレンに自分の雨傘を持ち帰られたレナードは彼女の後を追い、シュレーゲル家に立ち寄ることになる。傘を取り戻しただけでなく、彼にすれば意外なおもてなしを受けそうになり早々に帰路に着くが、その時に渡されたマーガレットの名刺がその後の二つの家族に何かと面倒になるくらいの縁をもたらしてしまうのである。
ルースは手術を受けるが経過は思わしくなく、ほどなくして亡くなってしまう。亡くなる直前ルースは看護婦に紙と鉛筆を頼み、「ハワーズ・エンド」をマーガレットに譲るとメモをしたためた。ルースの死後、病院からその手紙を受け取ったウィルコックス家では家族会議が開かれたが、ルースのメモは遺言書として不備でもあったし、彼女の意思は黙殺されることになった。
マーガレットとヘレンは週に一度の討論会の後、偶然街でヘンリーと会う。その時にヘレンはヘンリーにレナードの事について相談をする。傘の件の後、浮気を疑ったジャッキーの勘違いを正すためにレナードが再度シュレーゲル家を訪れる機会があり、姉妹は彼に好印象を持っていた。知的で繊細な事務員をしている青年が、仕事だけでなく知的活動においても十分な成果が上げられるようにという親切な友人としての相談だったが、立ち話でもあり、ヘンリーはレナードが勤める保険会社の悪い評判を聞いていたので早めに退職することを進言した。後に姉妹の助言を信じたレナードは会社を辞めるが、ヘンリーが破産すると明言した保険会社は潰れる事は無く、反対に転職先の銀行から業績悪化の為の人員整理の対象にされてしまう。これは全てヘンリー・ウィルコックスのせいだとヘレンは思うようになる。
ヘレンはヘンリーを嫌っていたが、逆にマーガレットは新しい家を探すのに彼を頼り、ヘンリーも彼女の力になることに喜びを見出し始めた。新しい家が見つかった頃、ヘンリーはマーガレットに求婚し、マーガレットも快く受けた。ヘンリーの子供たちは若い後妻候補に「ハワーズ・エンド」を獲られてしまうと危機感を募らせ、マーガレットは妹のヘンリー嫌いに難儀する。更にはレナードを巡るヘレンの対応の過程でヘンリーとジャッキーの意外な関係も暴かれることになり、それはヘンリーとマーガレットの関係、そしてウィルコックス家の尊厳にもかかわる事件へと発展していく・・。
まぁ、あらすじを書いていてもエピソードの順番がどうだったか分からなくなってしまう感じなんだけど、登場人物の心情も少しあやふやな感じもある。マーガレットとヘンリーの恋の進展もいつ始まったのかもわからないし、なにしろレナードの気持ちが分からない。あんなにジャッキーを疎ましく思っていた彼が、何故にずるずると同棲から結婚へと進んでしまったのか? どうやら小説を読めばもう少し分かるみたいだけど、映画は2回観たけど不可解だった。レナード・バストは映画ではただの厄介な青年でしかない。最後に彼は「ハワーズ・エンド」にやって来るんだけど、マーガレットに陳謝に来たはずなのに、最後の最後に一番ひどい結果をもたらしてしまうんだ。そしてヘレンもマーガレットにとっては身内だけにもっと厄介な存在かも知れない。映画のその後を考えると、彼女が一番疫病神だな。
「ハワーズ・エンド」が結局は元の持ち主ルースの望んだようになって、この物語が人の世の不思議さを描き出したようになってるけど、色々と無理くりな設定、展開が感じられて感服することは無かったな。お薦め度は★三つ半。繊細な心理状態を見事に表現した主演の二人の演技に★半分おまけです。
1992年のアカデミー賞で作品賞他にノミネート。主演女優賞(トンプソン)、脚色賞(ルース・プラワー・ジャブヴァーラ)、そして美術賞を受賞した。
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・お薦め度【★★★★=シリアスドラマの好きな、友達にも薦めて】 
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ちょっとこちらに訪問するのを忘れておりました。
昨日その記事と関連する小説「ハワーズ・エンド」の比較感想文みたいなものをアップしましたが、その折十瑠さんの名前をお借りしました。事後承認ですが、悪しからずお願い申し上げます。
>色々と無理くりな設定、展開
映画は意外と思えるほど原作と殆ど同じで、小説の解説を書いていた池澤夏樹氏も、フォースターにはそういう傾向があると仰ってますね。作者の特権乱用と言っても良いくらい人を殺すとも言っています。この辺りが非常に面白い解説でした。
十瑠さんの作品に対する全体的印象は正鵠を得ていたということになると思います。
>なにしろレナードの気持ちが分からない。
>あんなにジャッキーを疎ましく思っていた彼が、
>何故にずるずると同棲から結婚へと進んでしまったのか?
記事にも書いたように、小説はあくまでマーガレットが主役で、レナードはお話を進展させる駒に過ぎず、その辺りも書いてあったかもしれませんが、何となく読み進めてしまい、僕にも不明。
ただ、マーガレットやヘンリーの心情は映画よりは鮮明に解ります。
小説に関する記事は慌ただしく書いたので、どうにも言わんとするところが不明瞭な文章になってしまいましたが、今さらジローにつき、そのまんま東です。
お時間がある時にでも、小説の記事もどうぞ。
最近はパーソナルソングスの更新ばかりで筆が進みません。映画も時々は観てるんですがね。
数日忙しかったのでその「ハワードエンド」に関する記事見逃しています。早速、読ませてもらいやす。
>今さらジローにつき、そのまんま東です。
プッ。