時間というものが希望が無ければ流れないものであることは確かである。しかし、悲哀というものが時間がもたらす結果であり、しばしば希望をも凌駕する。
イメージ(見えるもの)を映しているのではなくて、見えないものを映している。それは、世界の無意識のようなものである。(ダスキン・ホフマン先生のことば)
私の新刊です。パリの街を撮影した物語仕立ての写真集。ジャン・ピエールに出会った夏、そして、ジャン・ピエールを見失った夏。A5判変形。64頁、ソフトカバー。定価1500円+税。まもなく全国の大型書店で発売します。また、アマゾンや竹林館のホームページからもご注文いただけます。ストーリーとともにパリの街を楽しんでくださいね♪
その日
わたしは砂になりたかった
あなたの足に
踏まれるために
あるいは波に
ざざっーと
離れたり寄ったりしながら
あなたを眺めていたかった
それから鳥であったなら
おおきな輪を描きながら
歩くあなたを
追いかけていただろうに
荒れた夜明けの浜辺
秋の初めの
けれど
その日
わたしは砂になれず
わたしは波になれず
ましてや鳥にもなれず
秋の初めの
長い影法師であった
都会の黄昏に
彫像のように立ち尽くす
藍色の
影法師であった
ジャック・プレヴェール
この愛
こんなに激しく
こんなにもろく
こんなにやさしく
こんなにも望みにない
この愛
ひかりのように美しく
お天気が悪ければ
同じようにご機嫌ななめ
こんなにも本物の愛
こんなにも素敵な愛
幸福で
愉快で
こんなにもあざけり笑う
暗闇の中の子どものようにこわがって震え
真夜中にも落ち着き払った男のように
頼もしく
他の人たちをこわがらせ
しゃべらせ
真っ青にさせたこの愛
見張られた愛
僕らがみんなを見張っていたために
追い詰められ、傷つけられ、踏みつけられ、止めを刺され、否定され、忘れられた愛
それは僕らが、愛を追い詰め、傷つけ、踏みつけ、止めを刺し、否定し、忘れたから
この愛そっくりそのまま
それでも、こんなに生き生きしていて
少しも翳らない
それはきみのもの
それは僕のもの
そうであったもの
いつも新しいもの
そして変わらなかったもの
一本の木のように真実で
一羽の鳥みたいに震えて
夏のように照りつけて、生き生きとして
僕らは二人ともできる
行ったり、戻ったり
忘れることだって
その上 眠ること
目覚めること、悩むこと、年をとること、
そして再び眠ること
死を夢見ることも
僕らはできる
目を覚ますこと、ほほえむこと、笑うこと、
若返ること
僕らの愛はそこに住む
牝ろばのように強情に
欲望のようにはつらつとして
記憶のように残酷で
後悔のように愚かで
思い出のようにやさしく
大理石のように凍てついて
陽のようにきれいで
子どものようにたよりなく
ほほえみながら僕らを見つめ
黙ったまま僕らに話しかける
そして僕は
震えながら聞く
僕は叫ぶ
僕はきみのために叫ぶ
僕は僕のために叫ぶ
お願いだ
きみのため、僕のため、愛しあっている者たちのために
愛しあった者たちのために
僕は叫ぶ
きみのため、僕のため、他のみんなのために
僕の知らない人のために
そこにいてくれ、と
愛よ、
今、きみのいる所
かつてきみのいた所
その場所にいてくれ
動かないでくれ
行かないでくれ
愛された僕ら
僕らはきみを忘れてしまったけれど
きみだけは僕らを忘れないでくれ
僕らにはきみしかなかったのだ、この地上に
僕らを凍えさせないでくれ
ずっと遠く、いつも
どこでもいいから
僕らに命のしるしを与えてくれ
ずっと遠く、森の隅から
記憶の森の中から
突然現れて
僕らに手をさし延べてくれ
そして救ってくれ
僕らを。
『Paroles』より「Cet amour」
この愛
こんなに激しく
こんなにもろく
こんなにやさしく
こんなにも望みにない
この愛
ひかりのように美しく
お天気が悪ければ
同じようにご機嫌ななめ
こんなにも本物の愛
こんなにも素敵な愛
幸福で
愉快で
こんなにもあざけり笑う
暗闇の中の子どものようにこわがって震え
真夜中にも落ち着き払った男のように
頼もしく
他の人たちをこわがらせ
しゃべらせ
真っ青にさせたこの愛
見張られた愛
僕らがみんなを見張っていたために
追い詰められ、傷つけられ、踏みつけられ、止めを刺され、否定され、忘れられた愛
それは僕らが、愛を追い詰め、傷つけ、踏みつけ、止めを刺し、否定し、忘れたから
この愛そっくりそのまま
それでも、こんなに生き生きしていて
少しも翳らない
それはきみのもの
それは僕のもの
そうであったもの
いつも新しいもの
そして変わらなかったもの
一本の木のように真実で
一羽の鳥みたいに震えて
夏のように照りつけて、生き生きとして
僕らは二人ともできる
行ったり、戻ったり
忘れることだって
その上 眠ること
目覚めること、悩むこと、年をとること、
そして再び眠ること
死を夢見ることも
僕らはできる
目を覚ますこと、ほほえむこと、笑うこと、
若返ること
僕らの愛はそこに住む
牝ろばのように強情に
欲望のようにはつらつとして
記憶のように残酷で
後悔のように愚かで
思い出のようにやさしく
大理石のように凍てついて
陽のようにきれいで
子どものようにたよりなく
ほほえみながら僕らを見つめ
黙ったまま僕らに話しかける
そして僕は
震えながら聞く
僕は叫ぶ
僕はきみのために叫ぶ
僕は僕のために叫ぶ
お願いだ
きみのため、僕のため、愛しあっている者たちのために
愛しあった者たちのために
僕は叫ぶ
きみのため、僕のため、他のみんなのために
僕の知らない人のために
そこにいてくれ、と
愛よ、
今、きみのいる所
かつてきみのいた所
その場所にいてくれ
動かないでくれ
行かないでくれ
愛された僕ら
僕らはきみを忘れてしまったけれど
きみだけは僕らを忘れないでくれ
僕らにはきみしかなかったのだ、この地上に
僕らを凍えさせないでくれ
ずっと遠く、いつも
どこでもいいから
僕らに命のしるしを与えてくれ
ずっと遠く、森の隅から
記憶の森の中から
突然現れて
僕らに手をさし延べてくれ
そして救ってくれ
僕らを。
『Paroles』より「Cet amour」