あの頃チャンネル(2010年02月21日~2010年02月27日)
咳をしているのに
どうもないって言って
頭をかかえているのに
何もないって言って
寝ていないのに
よく寝たって言って
ややこしいのね
あい って
だから
良かった って
笑ってあげるのも
あい
なのかしら
少女は詩を書いていました
気持を何とか言葉にしたかったのです
でも気持は言葉を見つけることが出来ませんでした
書いても書いても
何か違う
気持は
何であったのか
少なくとも
石のようではありませんでした
月のひかりのようでも
ささやかな道端の鳳仙花のようでも
雲雀のようでもなかったのです
反古の紙に埋もれ
いつしか
少女は疲れて眠ってしまいました
ところが詩は
眠ってしまった少女の
静かな胸のなかに
そっと隠れていたのです
不器用な少年のように
こころを告げることも出来ないまま
じっと
少女を見つめていたのです
石ではなく
月のひかりでもなく
道端の鳳仙花のようでもなく
雲雀のようでもなく
かたちになれない
ざわざわとした
風のような音になって
日が落ちてしまうまでの
ほんのひとときのこと
買い物かごをさげた女が
走ってきて男の隣に座った
商店街の端の
アーケードの下の椅子に
隣の男を見て
このうえない笑顔を見せた
仕事帰りの人々が
慌ただしく通り過ぎる夕暮れどき
だから誰も気づかない
少しの間並んで座っていた二人に
それから二人は立ち上がり
別々の方向へ離れて行った
その椅子に座れたことが
人生で最高の喜びであったような
笑顔が消えてしまうと
夕暮れは急速にやってきた
それから夜が
当たり前のように更けてゆく