読書の森

陳舜臣 『長い話』


明るい台所の片隅に置いた豆苗はこのところグングン育っている。
食べられる部分はおかずにして、根っこの部分をガラス鉢に入れて毎日水を取り替えてると、元気に伸びて有難い野菜だ。
上手くいけば三回位、その味を楽しめるようである。



本日も暑いので、水分補給に麦茶とミルクキャンディを10時のおやつにする。
冷房をかけてるお陰で、温度計は設定どおりの26度を指している。
この、緩い時間って、幸せなのかしら?そうだ、幸せなのだ、と思うがどうも満足できない。

もっと、刺激がないとこのまま緩みぱなしで、戻れなくなっちゃうと本を引っ張り出してきた。


以前入手した、伊坂幸太郎が選んだミステリーのアンソロジーである。

その中の陳舜信作『長い話』をちょっと紹介したい。

陳舜臣は名前を見ただけで分かるように中国の人で、神戸で生まれ大阪でインド語を学んだ。
中国を舞台にしたスケールの大きな作品を世に遺した。

この作品は短編であるが、広い世界を感じさせる。

アメリカ旅行中、暴徒に襲われ重傷を負った男。
サンフランシスコで一時入院して、日本に帰国して入院治療したが、回復出来ず死亡した。
その一週間前に彼の長年の友人の住職が何者かに襲われ、惨殺された。

この二つの事件の謎の真相を殺された男の娘の婚約者が知ってしまった。
国宝の絡む因縁の物語となる。

婚約者は事件の真相を自分一人のお腹に収めておくのはあまりにも辛い。
そして、洗いざらい打ち明けたのが、何もかも受け止めてくれる先輩だった。


作者は1924年生まれ、この作品が書かれたのは1970年代である。
その当時の篤い道徳観や人情の背景があって、この作品が出来たのだと思う。

「死んでも真実を話してほしくない」と言ったのは作品中の殺人者である。
死んでも、という事は、死んだ後にも、という事なのだ。
被害者も死んでも真実を知られたくなかった為に、命を落とした。
文字通り命をかけて守ったものが、言わば個人情報だった。

自分の体面を傷つければ愛する家族が傷つく、そこで命をかけたアリバイを作ったのである。

これを知った男二人は暗黙裡に秘密を守る事を誓う。
遺された愛する人の為である。

誰をも傷つけないために、時に真実より優先するものがある。
個人情報は魂が入っている。大事に扱う時代だった。

戦中の人、陳舜臣の人間観が伝わる。





読んでいただき心から感謝いたします。

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