読書の森

遠藤周作『アデンまで』



今日はホワイトデーの筈といぶかる程に、町は甘い雰囲気が消えています。

こんな時、何度も手にした『わかれの船』が無性に読みたくなりました。
非常事態のこの時世に何故かぴったりの本だと思えたのです。

哀しい別れ、死別、淡い思いの別れ、さまざまな別れはありますが、殆どのケースがお互い(例えば死別ですが)別れたくないのに、引き裂かれてしまうのが人の宿命であります。

この小説集には、それぞれの別れに人生そのものが描かれています。
今改めて、衝撃を受けました。
そして、遠藤周作の『アデンまで』という恋愛小説に特に強い衝撃を受けてしまったのです。
60代になっても、人種の違う恋など無縁だからと読み過ごしてきたこの小説が、実に凄いものだという事を70代にして初めて分かったのです。


作者、遠藤周作は順調ならざる不遇の連続の少年期、青年期を経てフランスに留学しています。帰国後お見合いをして結婚生活に入り、作家として大成するに至りました。

この小説は1954年上梓された、彼が31歳の時のものです。
日本人学生と白人女性との哀しい恋を描いてるとだけ思っていた小説が、今現在は、「人種差別」についての警告として受け取れるのです。

白人女性は日本人の若者を熱愛しています。
しかし、彼女の友人の白人たちは、彼を肌の色の違う、戦時下で野蛮な事をした黄色人種であるとしか見てくれません。

そして、愛する彼女と抱き合う瞬間に鏡を見ると、若さに満ちてるとうぬぼれていた己の体は貧しい黄色で、愛する彼女の体は輝く白さです。

男は別れを決意しました。
絶望に沈む彼女を見ても、お互いのためと言い聞かせて、早朝船に乗ってフランスを去っていくのです。
航路はサウジアラビアを通り、途中イエメンのアデン湾を回ります。

一番貧しい層が入る客室で彼は、病に苦しむ黒人女性を見ます。
そのとき、黄色の彼が感じたことは、黒い貧しい老いた女に対する侮蔑の情なのです。

博愛を信じるはずのキリスト教徒の彼が、どうにもならぬ人種の壁で傷ついた時、憎しみを弱者である黒人女性に示してしまうのです。

アデンでいったい何が起きたのでしょう?

追記:コロナウイルス感染状況について考える時、これだけの自粛要請が不思議に思える事があります。
人種差別を感じる事もあります。
ただ、この本を紹介したのは、「あなたの国が感染源だ、その国が悪い」と身近な誰かを悪者にする前に「コロナウイルス自体が非常に感染力が強い危険なもの」ととらえた方が良いのではないかと思ったからです。
お互いにマスクの奪い合いをしたり、パニックに陥るより、今しばらく人込みを避け、会いたい人との触れ合いを我慢した方が得策と私も思うようになりました。
そういう意味で、ちょっとKYな書評を出した訳です。




読んでいただき心から感謝いたします。

コメント一覧

airport_2014
@myheaven0909 こちらこそ、読んでいただきありがとうございます。
拙ブログを面白い、興味ある、と思っていただく事が生きがいになってます。
myheaven0909
はじめまして。こんばんは。(*´꒳`*)

拝読させて頂いて、とても面白いなぁと思いました。
人の心も、様々な色を織りなすものなのですね。

今回も、楽しい時間を過ごさせて頂きました。

ありがとうございました。(^^)
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