十周年を目前にして、母は先日新しい暖簾を作りました。
暖簾は西の入り口と東の入り口用の2枚があって、「街道そば」「山菜おこわ」と書かれています。
何年もお店の入り口で頑張ってくれていた前の暖簾はもう日に焼けて色あせていて、表と裏の色がぜんぜん違う色になっていました。
朝、一番にお店に入る私は、色あせているほうを外側にして、毎朝暖簾をかけていました。
なんとなく体がだるくて、ぼお~っとしていた昨日の朝・・・。新しい暖簾は、どちらも色鮮やかで、何も考えずにひょいとかけたのでしょう・・・。
お昼前になり、お天気もよかったせいか、何台もバスが街道を登って入ってきました。
慌ててオープンにむけて仕込みのスピードを上げる厨房のスタッフ。
・・・と、すぐに街道はバスを降りて観光をする人たちでいっぱいになりました。
「ちょっと!なんやろ?これ??」
従業員さんの一人が母と私を呼びました。
格子戸の影からのぞくと、いつもなら見て歩いているだけなのに、今日は一斉にお店のほうに向かってカメラを向けて、シャッターを切ろうとしています。
「何?何?今日は何なん??」
店の中で皆で騒いでいると、観光客の一人が入って来られました。
「すみません、ちょっと教えていただきたいんですが・・・。暖簾を裏表反対につけるのには、どういう意味があるんですか?
屋号を西はひらがな、東は漢字で書くのには、方角をあらわす意味があるんですよね?暖簾は・・・?」
私は慌てて観光客がシャッターを構えている入り口に飛び出した。
・・・・すると、見事に西にも東にも、表裏反対にかけられた暖簾がひらひらと靡いている・・・・。
が~ん!! ううっ。ほんまや・・・。
後ろから、母がやってきて、しゃがみこんで笑っている。
「アンタなあ・・・。へんな習慣、勝手に作ったらあかんがな・・。」
それを見て、シャッターを構えていた観光客の人たちにもただの間違いだったと分かったようで・・・。
「え!これ、ただの間違いだったんですか?面白い習慣だと思って、記念に写真に撮っていこうと思っていたんです。」
なあんだ!という顔で、カメラを下ろす観光客の人達・・・。
そして、皆一斉に笑いだしました。
あ~・・・。穴があったら入りたい・・・。
「すんません。アホな跡継ぎで・・・。」と、母はもう、涙を流して笑いながら頭を下げた・・・。
どうして、私はこんなびっくりするような間違いが簡単に出来のでしょう・・・。
母が、一日この話を持ち出して笑っていたのは、言うまでもありません・・。